「日本語支援の目的と必要性」 大畑大介✕二宮清純(後編)
二宮清純: 前編で産地直送のオンラインショップをつくるきっかけになったのが「ジャガイモへの恩返し」だとお聞きしました。具体的に、どういう活動をされたのでしょう。
大畑大介: 2018年9月、北海道胆振東部地震が発生しました。胆振地方を中心に土砂崩れなども起き、多くの死傷者が出ました。
その翌年、現地に行く機会があったのですが、まだ震災から1年ということで、半壊の倉庫には収穫した多くのジャガイモが残っていました。さあ、これからどう復興を進めればいいのか。皆が暗い雰囲気の中、ひとりの生産者がジャガイモを振る舞ったら、一様に顔がほっこりしてきて笑顔が戻ってきたというんです。
それを見た瞬間、そうか、自分たちが手塩にかけてつくってきたもので、消費者に笑顔を届けることができるんだ、と。そのことに気が付いたというんですね。
二宮: 驚くべき“ジャガイモの力”ですね。
大畑: そうなんです。で、その1年後かな。ちょうど新型コロナウィルスによるパンデミックが発生し、出荷先がない、という連絡を受けた。学校給食も飲食店も、全て(取引が)ストップしてしまった。“大畑さん、どうにかしてくれへん?”と言われた。
いくら僕が北海道のジャガイモを好きやいうても、ひとりではどうすることもできない。そんな時、オンラインでECサイトをやったらどうか、というアイデアが出てきた。それがきっかけとなって、大畑大介商店をつくったんです。
二宮: 北海道のジャガイモ以外には、どんなものを扱ってきましたか?
大畑: 僕は大阪の生まれなんですけど、泉水の水なすが、あれほどおいしいとは知りませんでした。あるいは貝塚の白タケノコ。あれもめちゃおいしい。それこそ刺身で食べられるくらいです。
斬新な事業モデル
二宮: さて食材、すなわち素材を活用するという点では、アスリートジャパンのコンセプトと同じですね。新プロジェクトには<アスリート素材の活用で企業価値を向上させると同時に、日本語支援を通じて日本の未来に貢献する、企業と社会の双方に価値を創出する新しい事業モデルです>と謳われています。この事業モデルは斬新ですね。
大畑: ありがとうございます。社長をやらせてもらう以上は“現地を見ておいた方がええやろう”ということで東南アジアの国々にも行かせてもらいました。たとえばフィリピンでは、都心部は日本に負けないくらい発展している。しかし、一歩裏道に足を踏み入ると、仕事にありつけない人もたくさんいる。ちょっと偉そうな言い方になるかもしれませんが、そういう人々にチャンスを与えることで、彼ら自身の人生が大きく変わると思うんです。僕がラグビーと出会えたことで、その後の人生が大きく変わったように。
二宮: アスリートジャパンの親会社のサスティナブルホールディングスは、特定技能などの就労支援および人材育成の一環として、アジア各地で授業料無料の日本語学校「MIRAI日本語学校」を展開しています。実際に学生さんと接してみて、何をお感じになりましたか。
大畑: 皆さん、目がイキイキしていました。年齢的には10代後半から20代、30代、中には40代の方もいたかもしれません。日本に対する予備知識が豊富で、「日本に行ったら桜が見たい」と目を輝かせている人もいました。
具体的な印象として、とにかく、皆さん一生懸命で情熱的なんです。日本でこれをやりたい、という目的意識が非常に強く、日本で学んだことを元に今、自分たちが置かれている環境を少しでもよくしたいという思いが強い。話を聞いていて、僕自身もたくさん刺激をもらいました。
二宮: いい意味でのハングリー精神が感じられたと?
大畑: そうです。学校で日本語を身につけてもらえれば、彼らの将来が開けてくると同時に、労働力不足の日本にとってもプラスになる。会社(サスティナブルホールディングス)が考えていること、僕が考えていたこと、そして今の日本が必要としていること。それぞれの点と点と点が一本の線となり、つながっていく。これってラグビーと一緒なんですよ。点と点と点がつながってはじめてトライがとれる。これは今まで僕がやってきたことと同じやろうと。そこに大きな魅力を感じました。
二宮: 大畑さんが社長を務めるアスリートジャパンは、マーケティング面において<社会貢献性の高い一流アスリートを広告に使用することで、質の高い企業ブランディングを実現>とも謳っています。産学連携という意味では、今後スポーツビジネスやスポーツ科学、栄養学などに力を入れている大学や専門学校なども対象になっていくかもしれませんね。
大畑: そうですね。教育機関とのコラボレーションも、これから是非検討していきたいと考えています。学生さんを含め、次世代を担う子どもたちに、いろいろなかたちで貢献したい、そのために何ができるかということは、上原(浩治)や杉山愛ちゃんとも、絶えず話し合っているところです。僕たちがスポーツで培ってきたものを、僕らの世代で終わりにするのではなく、次の世代に繋いでいく。そのお手伝いを、皆さんに喜ばれるかたちで進めていきたいと考えていますので、是非ご協力をお願い致します。
(おわり)
<大畑大介(おおはた・だいすけ)プロフィール>
1975年、大阪府大阪市出身。元ラグビー日本代表選手。アスリートジャパン株式会社代表取締役。日本代表として58試合出場、国際大会69トライは現在も世界記録。2011年 現役引退。2016年 ワールドラグビー殿堂入り。ラグビーアンバサダーとして、スポーツ振興、地域活性化、各種講演など積極的に活動中。
<二宮清純(にのみや・せいじゅん)プロフィール>
1960年、愛媛県出身。明治大学大学院博士後期課程修了・博士(学術)。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。経済産業省「地域×スポーツクラブ産業研究会」委員。認定NPO法人健康都市活動支援機構理事。『スポーツ名勝負物語』(講談社現代新書)『勝者の思考法』(PHP新書)『プロ野球“衝撃の昭和史”』(文春新書)『変われない組織は亡びる』(河野太郎議員との共著・祥伝社新書)『歩を「と金」に変える人材活用術』(羽生善治氏との共著・廣済堂出版)、『森保一の決める技法』(幻冬舎新書)など著者多数。