「Sportful Talks」は、ブルータグ株式会社と株式会社スポーツコミュニケーションズとの共同企画です。様々な業界からゲストを招き、ブルータグの今矢賢一代表取締役社長との語らいを通して、スポーツの新しい可能性、未来を展望します。

 今回のゲストは2月に自転車ロードレースの「Jプロツアー」を主催する全日本実業団自転車競技連盟(JBCF)の理事長に就任した片山右京氏です。片山新理事長が描く自転車界の未来とは――。

 

二宮清純: JBCFの理事長に就任されたわけですが、自転車に関する連盟・協会はたくさんありますが、どのような位置付けなのでしょうか?

片山右京: 基本的にはボトムの組織です。一番上にあるのが、公営競技の競輪とオートレースを統括するJKA。その下にJCF(日本自転車競技連盟)があり、JBCFがあるという縦の流れになっています。UCI(国際自転車競技連合)に加盟しているのはJCFですが、日本ではJKAが頂点になるんです。

 

二宮: JBCFの理事長を引き受けた理由は?

片山: 私は6年前にTeam UKYOのサイクリングチームをつくって、この世界に入りました。そこで「ツール・ド・フランスに行きたい」という夢が叶うと思っていたら、そう簡単ではなかった。日本では自転車が悪者扱いされており、企業からも支援を受けにくい現状があります。そこでまずは自転車の地位向上に努めたいと思ったんです。

 

今矢賢一: そのために打ち出している策はあるのでしょうか?

片山: サッカーのJリーグやバスケットボールのB.LEAGUEのように2021年からプロリーグにする構想があります。あとは国際イベントの誘致です。現在、46大会運営しているレースを2年以内に100大会に増やしたいと思っています。約3000人いる登録者数も1万人にするつもりです。

 

二宮: その他に取り組んでいることは?

片山: 現在、自転車の電動化が進んでいます。JCBFはそれをスポーツにしようと。たとえばEバイク(電動アシスト付き自転車)を利用したヒルクライム(坂・山・峠を登る競技)の大会をつくることも考えています。

 

 ガラパゴス化している日本

 

二宮: 海外の自転車事情はどうでしょう?

今矢: オーストラリアに8年ほど住んでいましたが、サイクリングもすごく盛んです。週末はいくつかの場所で道路を規制してサイクリストが走れるようにしています。弊社では車いすマラソンの選手もサポートで海外に行くことも多いのですが、ロンドンはテムズ川から市内への主要道路を1車線サイクリング用に変えましたからね。

 

二宮: 日本みたいにブルーラインが入っているんでしょうか?

今矢: ロンドンでは車用の車線の1つを自転車用にしています。

片山: 日本がブルーのラインを引いているのは可視化して自転車を車だと認めされるための無理やり作ったものなんです。フランスやイギリスのように車と同じようにレーンを引いている国もある。日本は道が狭いからできないという話を聞きますが、世界も道は狭い。それでもパリは8kmしかなかった自転車道を1年で408kmに延ばした実績があるんです。日本では、車が偉くて「自転車は遊び」という思考がある。「自転車は歩道」と。しかし道路交通法上、今は車と同じ扱いになった。

 

二宮: 事故が起きると、Eバイクが悪役みたいに扱われますよね。

片山: 自転車自体が悪役になっていますね。今後はそういった指導や啓蒙をしっかりやっていけるかどうかが大事です。自動車でも自動運転などが進んでいますが、相互関係まではちゃんと設計されていない。

 

二宮: 確かに自動運転で急ブレーキをかけた際に、後ろを走っている車両のことまで計算されているわけじゃないですね。日本はルールづくりが後手後手に回っている印象があります。

片山: ガラパゴスなんですよ。

 

今矢: 本当そう思います。もちろん良い部分もありますが。

片山: でも時代が変わってきた中で、良い部分が小さくなってきた。去年、ノルウェーでロードの世界選手権が開催されました。その時に自転車が歩道を漕いで通過することは禁止になりました。ノルウェーも遅い方ですが、それによって日本が唯一、自転車が歩道を走る国になりました。だから外国の人はEバイクであれ、自転車が歩道を走っているのを見て、日本の倫理観が疑われているんです。日本人は影に隠れる卑怯者として見られる。そうやって世界から笑われているんです。

 

二宮: 2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されることもあり、日本政府はインバウンド(訪日外国人旅行者/訪日旅行者)で4000万人を目標にしています。世界から日本に来て、自転車に乗る人もいる。今のままでは混乱が起きてしまいます。

今矢: 海外の方たちが世界水準のルールだと思ってやろうとすることが、日本では“おかしい”となってしまう。

片山: 今でも左の車線を自転車で走っていると、正面からEバイクでスピードに乗って走ってくることもあります。自転車で歩道を越えてきたりと、“これが法治国家なのか”と呆れます。

 

 可能性を秘めるeスポーツ

 

二宮: ところで右京さんが自転車の魅力に触れたきっかけは?

片山: 元々、父親に山登りに連れて行ってもらっていたので冒険がしたかった。最初、手に入れた冒険のツールが川で拾ってきた自転車を自分で修理して塗装した。それで相模湖や江の島に行くなどサイクリング少年だったんです。43歳になって自転車を始めたのは今中大介と対談したことで自転車への気持ちが再び沸いてきた。登山のためにトレーニングで自転車に乗っていると、感覚的にはレーシングカーを運転するときに似ていたんです。

 

今矢: ドライバーをされていたときには自転車トレーニングは取り入れていなかったんですか?

片山: トライアスロンはやっていたんですが、きつい練習のひとつで、当時は苦しいからあまり楽しいと思わなかった。

 

二宮: ヨーロッパはF1とサッカーと自転車が三大スポーツと言われている。そういう風景に日本を近付けたいと?

片山: そこには心理学的な“車脳”を取り払って、自転車を車と認めてもらうことが必要。問題提起で事故にも目を向けてもらって、どう解決していくかを考えていかなければいけません。

今矢: そういうビジョンや方針があるのがすごく良いですね。自転車ユーザーはたくさんいますし、これからも増えると思います。

 

二宮: 今、国内で自転車は何台出回っているのでしょう?

片山: 登録は2000万台。稼働は1600万台と言われていますが、車と実数は大きく変わらないんです。競技人口は40~60万人ぐらい。まだまだポピュラーなスポーツじゃないので、楽しく乗れる環境をつくり、安全を担保できれば健康に良い。千葉のサイクリング協会の会長は78歳ですが、毎日自転車で100km走っているそうです。マラソンは3時間15分台で走る。

 

二宮: ふくらはぎが弱くなると立てなくなったり、病気になると聞きます。第2の心臓だと。そのためにつま先立ちのトレーニングを毎日している方もいらっしゃいます。そう考えると、自転車に乗ることはふくらはぎを鍛えることにも繋がる。高齢化社会をにらむ上でも、自転車は推奨すべきスポーツですね。

片山: eスポーツ化しようという動きもあります。最新のVR技術を駆使すれば、固定ローラーで室内にいながら世界中を走る疑似体験をできる。私たちは試験的にやっているのですが、連盟主催の大会。プロを呼んで競争。事故もないし、道路使用許可もいらない。最先端の遊びを吸収して、ビジネス化しないと。

 

二宮: eスポーツは2024年パリオリンピックで正式競技になる可能性があると言われていますね。TVゲームが主流ですが、よりスポーツ的ですね。

片山: 目の前の問題が機材の費用がかかる。自転車、シミュレーターなど全部揃えるとなれば一般の人がなかなか手の届かない額になる。だから各ショップやクラブチーム単位でやれば、店舗にも人が集まるので副次効果が生まれる。連盟がリアルと合わせて大会をつくっても良い。それがボトムアップに繋がりますし、ビジネスをしなければ自転車界は先がありません。

 

 次代に繋ぐ組織づくりを

 

二宮: その他のビジネス展開は?

片山: ヒルクライムでタイムを争う人もいれば、自分に挑戦する人もいます。一方で登山家がタイムを競わないと同じように、写真を撮って景色を楽しんだり、健康のために登る人もいます。Eバイクに乗ってエコツーリズム。そういったことを旅行会社と手を組んだ「ツール・ド・おきなわ」を開催しています。今度は新潟県の佐渡でもツアーを計画しています。「町ぐるみで大会をやろう」と提案しています。

 

今矢: 弊社でもスポーツホスピタリティについていろいろと考えておりまして、東日本大震災の被災地の岩手県釜石市でのサイクリングツアーを計画しています。そこで現在の釜石を見て感じてもらう。被災地を支援するというより、現地に赴くことで参加者の方たちが釜石で力をチャージするという狙いがあります。

二宮: それはいいですね。ヨーロッパでもアウシュビッツ収容所を訪れるツアーがあります。記憶に留めようと考えている。

 

片山: 陸前高田市で毎年復興支援のサイクリングイベントをやっているんですが、今年で7年目になって補助金も減ってきて、決して運営は楽ではありません。でも実際に見て持ち帰ってくるものはお金で買えないことです。

今矢: 2019年はラグビーW杯、2020年はオリンピック・パラリンピック、2021年はワールドマスターズゲームズと国際的なスポーツイベントの日本開催が続きます。19年から日本のスポーツが産業として変わっていくことを発信できるチャンスだと思います。

 

二宮: 理事長としてやろうとしていることに、あえてプライオリティをつけるならば?

片山: 核は選手の育成や自分たちの連盟のレースです。まずは21年のプロ化を一番に考えています。

 

二宮: 選手もプロ契約?

片山: そうですね。レギュレーションはB.LEAGUE創立に関わった人たちが来て、同じもので進めようと考えています。プロ化に向けては有識者に入っていただいて、憲章をつくっています。東京オリンピック・パラリンピックが終わった後、次の人たちにスムーズに渡せるような組織づくりを行っていきたいです。

 

片山右京(かたやま・うきょう)プロフィール>

1963年5月29日生まれ。83年にFJ1600筑波シリーズでレースデビュー。F1に6年連続参戦し、日本人最多の95戦に出場した。クラッシュを恐れぬ攻撃的なドライビングテクニックから「カミカゼ・ウキョウ」と呼ばれ、ファンから愛された。F1引退後は自転車競技選手として数々の自転車レースに参戦した。01年には「Team UKYO」を設立。今年2月より一般社団法人全日本実業団自転車競技連盟(JBCF)の理事長に就任した。

 

(構成・鼎談写真/杉浦泰介)


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