(写真:カッキーライド2018の記者会見に出席する筆者と、つくし実行委員長<左>)

「がん以上に怖いものなどない。だからどんな対戦相手だって構わないよ」

 僕の言葉を聞き逃さず息子のつくしは一瞬ニヤリとした。

「じゃあ、お父さんにとって一番苦手な選手は誰?」

 

 少し躊躇しながらも頭に浮かんだUWF時代の先輩選手の名を口にした。

「あぁ~、鈴木みのる選手ね。それ面白いじゃん」

 僕が思っている以上に息子は真剣に対戦カードを考えているようだった。カッキーライド実行委員長に就任して以来、彼は常にアンテナを張り巡らせている状態なのかもしれない。

 

「おまえぐらいの年齢の時に鈴木さんにはエライ目に合わされたからな。それはもうトラウマだよ」

 僕は新弟子時代を回想してみた。「毎日、ボロ雑巾のようにされたな」

 

『世界一、性格の悪い男』と呼ばれる男の一番やんちゃなハタチの頃である。壮絶だったと誰もが想像がつくのではないだろうか。

 

 関節技のスパーリングであっても、肘ありマウントパンチありなのは日常茶飯事。もちろん、一方的にである。打撃なしのスパーリングなのにいつもTシャツは血だらけになっていた。

 

 カリフラワーと呼ばれる耳になったのも鈴木さんとのスパーリングの時だったと思う。

 耳を肘でグリグリやられると中の毛細血管が裂け、焼いたお餅のように膨らんでくるのだが、これが関節技より痛いこともある。この状態を「耳がわいている」といい、少し触れただけでも激痛が走る。腫れたままで固まってしまうと耳が切れやすくなってしまうので、注射器で血を抜きに病院へ行かなければならない。これがまたつらいのである。

 

 このような状態になると競技中はイヤーガードを付けるなどして、接触を避けて耳の状態を落ち着かせる。しかし、スパーリング中の鈴木さんの手にかかるとイヤーガードをあっという間に引きちぎられてしまい全くつける意味がなかった。

 

 このため、何度も病院に通うはめになり、耳が固まるまでに約半年もかかったのだ。僕は両耳がなったので、1年もの間苦しんだことになる。これは体験した者にしかわからない痛みかもしれない。

 

「スパーリングはホント地獄だったよ。もう拷問」

 僕の話を息子は苦虫をすり潰したような表情で聴いていた。

 

「でも、オレなんかより長井(満也)さんのあの事件の方が酷かったかもしれんな」

 同期の長井さんは、鈴木さんとのスパーリング中に下腹部を攻撃されたようで、まるで置物のたぬきの金玉のようにアソコが腫れ上がったことがある。

 

「あれはマジで衝撃的だったぞ」

 さすがにこの話には息子も引いていた。

 

「リベンジのチャンスを与えてくれた実行委員長に感謝するよ」

 僕は半ば自虐的に言い放ったのだが、そうとも言えない部分もある。

 

 昨年のカッキーライドではスパーリングルールということで、関節技のみの試合であったが、今年は打撃ありのUWFルールでもある。

 

「得意の掌底が使えるからね」

 息子にUインター時代の中野龍雄戦の映像を見せてみた。過去の試合がすぐに見られるのだから便利な時代である。

「えっ、これエグくない。相手は先輩でしょ?」。息子は度肝を抜かれていた。

 

 僕の掌底攻撃によって顔面が赤く染まった中野選手の出血量がハンパない。

 僕は背中まで返り血を浴びていた。まるで殺人現場。それぐらい強烈な映像なのである。眼窩底骨折をした中野選手は、試合後に即入院し、手術するほどの大怪我となってしまった。

 

「いくらなんでもこれはやり過ぎだよ」

 息子の言うとおりであるが、タガが外れるとUWFのレスラーは暴走してしまうものなのだ。

 

 そんな者たちがぶつかり合うカッキーライド2018は、現代のプロレスにはない危険な香りが漂い、刺激的な大会になると思う。

 

 以下、決定カードである。蘇ったUWF戦士の熱い試合に期待してもらいたい。

 

 

・メインカード UWFルール(30分1本勝負)

鈴木みのる vs. 垣原賢人

 

・UWFルール(30分1本勝負)

藤原喜明 vs. 冨宅裕輔

 

・ダブルバウト UWFルール(30分1本勝負)

中野巽耀        vs. ロッキー川村  

山本健一            佐藤光留

(チームUインター魂)   (チームパンクラス魂)

 

・UWFルール(20分1本勝負)

鈴木秀樹 vs. 中村大介

 

・スタンディングバウト キックルール(3分3R)大江慎レフェリー

野村卓矢            vs.  伊藤崇文

(大日本プロレス)

 

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)


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