早稲田大学ア式蹴球部女子(早大女子サッカー部の名称)は、全日本大学女子サッカー選手権大会を6度、関東大学女子サッカーリーグを6度制し、関東女子サッカーリーグにおいては11連覇中の強豪校だ。チーム不動の左サイドバックが愛媛県松山市出身のDF中田有紀である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は早大入学時からずっと左サイドバックのレギュラーとして数々のタイトル獲得に貢献している。卒業後、なでしこリーグ2部・オルカ鴨川FCに入団する女子サッカー界期待のプレーヤーだ。

 

 中田は「大学でサッカーは終わりにしよう」と思っていた。ところが早大に入り、どんどんサッカーのとりこになっていった。

 

「どこかで区切りをつけるとしたら、大学卒業だと考えていました。これまでもサッカーは好きでしたが、ア女(ア式蹴球部女子)に入って、より一層サッカーが好きになった。もっと上のレベルを目指したくなったし、いろいろな世界を見てみたいと思ったんです。大学卒業後は、海外に行こうかな考えていましたが、なでしこリーグに自分が行けるチャンスがあるなら、と(鴨川への)入団を決めました」

 

 昨年2月、オフの期間を利用しドイツのクラブの練習に参加した。「ドイツでサッカーを続けるのも、おもしろいかも」と思ったが、なでしこリーグへのチャレンジを選択したのだ。加入予定の鴨川は昨シーズン、なでしこ2部を4位でフィニッシュ。今年は昇格が現実的な目標となる。クラブの1部昇格とレギュラー奪取という明確な目標があるだけに、今後も中田は大きく成長するのではないか。

 

 彼女のサイドバックとしての長所はスプリント能力だ。最終ラインからの攻撃参加、そして帰陣を何度も繰り返せる。攻撃に厚みをもたらせる上で、サイドバックのオーバーラップは必要不可欠。中田はチームのために、タッチライン際を何度も駆け上がる。

 

 現代サッカーにフィットするため

 

 中田は自身のプレーをこう語った。

「チームメイトからも“スプリントが凄い”と言われます。サイドバックは攻守に関わるために縦の動きが求めらるポジション。自分としてはスプリントを頑張るのは当たり前と思いますが、みんながそう言ってくれるのは嬉しいです」

 

 元々、中田は中学までFWの選手だった。攻撃参加は「楽しい」と言い、続けた。

「一列前のサイドハーフの選手との連係で相手の守備網を崩すのはやりがいがありますね。私は特別、足元の技術があるわけでもないし、足がずば抜けて速いわけでもない。だから、“チームのためならいくらでも走ります”と常々思っています」

 

 一方で自らの課題として「ビルドアップ能力」をあげた。

 

 現代サッカーはボールを保持し、パスを回すスタイルが主流だ。それにともない、サイドバックにもこれまで以上に、ビルドアップ能力が求められている。昨季、J1を15年ぶりに優勝した横浜F・マリノスはさらにサイドバックに多くの役割を課している。ボールサイドと逆サイドのサイドバックはボランチのような位置を取り、積極的にボールに絡むのだ。

 

 横浜FMのサッカーにおいて右サイドバックのDF松原健がゲームメーカーばりのスルーパスを出すシーンは今となっては当たり前の光景になった。サッカーの進化とともに、サイドバックの役割は多様化しているのだ。

 

 中田もその点を十分、理解している。

「DFラインでのミスは即、失点につながってしまいます。ひとつひとつのパスの精度や状況判断力に磨きをかけないと上のレベルでは通用しない。サイドバックは相手のプレッシャーに対して、ハマりやすい位置でもある。自分でプレスをかわすのか、どこにパスを出すのか……。簡単にクリアーせずに、そこを打開できる選手になりたいです」

 

 ビルドアップ能力をワンランク上げるだけで、中田は鬼に金棒だろう。なでしこジャパン(女子日本代表)の高倉麻子監督はサイドバックにFWや中盤の選手を起用することもしばしば。もしかすると現状のサイドバックの選手では、満足していないのかもしれない。気の早い話かもしれないが、中田がリストアップされる日も、そう遠くないのでは、と期待してしまう。

 

 ア女不動の左サイドバックには多くの可能性が秘められている。そんな逸材は松山の地で、どのように育ってきたのだろうか。

 

(第2回につづく)

 

<中田有紀(なかた・ゆき)プロフィール>

1997年11月28日、愛媛県松山市生まれ。MFC-桑原女子FC-AC.MIKAN-日ノ本学園高等学校-早稲田大学ア式蹴球部女子部。3つ上の兄の影響で小学生の時にサッカーを始める。2013年、兵庫県の女子サッカー強豪校・日ノ本学園高校に入学。2年時に攻撃的なポジションからサイドバックに本格的に転向。3年時には主将を務めた。16年、早稲田大学に入学。1年時より左サイドバックのレギュラーとして試合に出場している。身長154センチ。

 

(文・写真/大木雄貴)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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