デジタルテクノロジー企業である株式会社ワントゥーテンは、パラスポーツの普及、エンターテインメント化に力を注いでいる。同社は「CYBER SPORTS(サイバースポーツ)プロジェクト」として、2017年にはデジタルテクノロジーを駆使し、車いす型VRレーサー「CYBER WHEEL(サイバーウィル)」と、ボッチャを拡張してエンターテインメント性を高めた「CYBER BOCCIA(サイバーボッチャ)」を開発した。自身も車いすユーザーである澤邊芳明代表取締役社長に、パラスポーツの未来について訊いた。

 

伊藤数子: 社名の「1→10」は「1」から「10」にアップデートするという意味が込められていると伺いました。

澤邊芳明: 既存のものを「1」とするならば、弊社のアイディアやテクノロジーで価値を「10」に高めていく、という意味を込めています。私たちが取り組んでいることは、地方創生、少子高齢化などの社会課題全般です。その課題解決の手段のひとつが、パラスポーツの普及になります。弊社の事業を通じて、パラスポーツのエンタメ化を図り、その価値を高めていきたいと思っています。

 

二宮清純: 2017年にはVRゴーグルを装着し、車いすロードレースを疑似体験できる「サイバーウィル」を開発されたそうですね。体験している様子をYouTubeで観ましたが、非常に臨場感とリアリティーがありますね。

澤邊: 最新版の「サイバーウィルX」は、実際に東京のまちに専用車両を走らせ、レーザー計測をしました。3Dスキャンした実在のまちのデータから未来の都市空間をデザインしています。最新版は「サイバーウィル」からハンドリム(駆動輪の外側についている持ち手)を改良しました。上り坂で負荷がかかり、下り坂では加速するなど、実践に近い車いす操作を体験できるようにしました。

 

二宮: 「サイバーウィル」の次に開発されたパラスポーツの体験装置が「サイバーボッチャ」ですね。

澤邊: はい。「サイバーボッチャ」開発のヒントとなったのは、大学生の時、大学の近くのスポーツセンターでボッチャを半年ほど経験していたことです。開発はボッチャの方を先に始めたのですが、技術的な面で完成に時間がかかるため「サイバーウィル」より後の発表になりました。

 

二宮: 「サイバーウィル」はVRを駆使していますが、「サイバーボッチャ」はどのような体験装置ですか?

澤邊: 基本的なルール、競技性はそのままに、ボールも本物を使用し、試合データの可視化やサウンドによる演出でゲーム性を高めました。ボッチャは、ジャックボールと言われる白い目標球に自分のボールをいかに近づけるかを競うスポーツなのですが、それぞれのボールの位置をリアルタイムにセンシングし、自動でポイント計測、スクリーンにスコアや距離が表示されます。ゲームの進行役となる審判の代わりを機械が果たしています。

 

「光は正義」

 

伊藤: どちらの装置も拝見しましたが、とてもカッコイイですよね。

澤邊: ありがとうございます。プロダクトとしてのかっこよさには、こだわっています。弊社がパラスポーツに関わるようになったのは2015年、日本財団パラリンピックサポートセンターオフィスのデザインコンペに参加してからです。当時はまだボッチャの認知度は低く、スポーツとして、少々控えめな印象を抱いている人も少なくなかった。私はファッション、音楽といった文化に対しても大きな影響力を持つエクストリーム系スポーツ(離れ業を売りとするスポーツ)のようなカッコ良さを目指しました。そのうえで大事にしたのが、用具やフィールドの光の演出。光るものには、ついつい目がいくじゃないですか。だからボッチャのコートや画面、車いすも光らせました。スタッフ間では冗談めかしながら、「光は正義」だと話していました。

 

二宮: 確かに光っていれば目に留まりやすいですし、派手な印象を受けます。

澤邊: 競技普及のためには人の目を引きつけることが大事だと思います。2012年ロンドンパラリンピックが開催される前、イギリスのある企業はパラスポーツの認知度を高めるために、サッカー元イングランド代表のデビッド・ベッカムを起用したプロモーション活動を行いました。彼のような世界的なスターがパラスポーツに関わったことによる影響は大きく、大会の成功につながったとも言われています。

 

二宮: 「サイバーウィル」「サイバーボッチャ」の開発は、パラスポーツの認知度が上がる中で、ITの進化にうまくシンクロしていったようにも感じます。

澤邊: 時代性もあると思っています。2010年代に入ってから、私を含め、まわりにいるIT企業の経営者は大量生産型のマス的なモノの売り方ではなく、社会課題に取り組む方が“カッコイイ”と思い始めたことが大きいと感じています。私は“社会のためになることをしよう”だけではなく、“カッコイイ”を求め、会社としてパラスポーツに関わり始めました。

 

二宮: パラリンピックはオリンピックと比べれば歴史が浅い。逆に言えば、新規参入の余地があるようにも思います。

澤邊: そうですね。車いす陸上の競技用車いすもこの5年ぐらいで、めちゃくちゃ進化しています。記録も一気に伸びてきました。用具における技術革新は今後も続くと思いますし、それに伴い記録はさらに塗り替えられるはずです。進化していくテクノロジーとともにパラスポーツの伸びしろはまだまだあると感じています。

 

(後編につづく)

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澤邊芳明(さわべ・よしあき)プロフィール>

株式会社ワントゥーテン代表取締役社長。1973年10月1日、東京都出身。京都工芸繊維大学入学直前、交通事故に遭い、手足が一切動かない状態になる。大学に復学後の1997年、ワントゥーテンの前身にあたるワントゥーテン・デザインを創業。これまで、広告からXR、人工知能開発、大型のプロジェクションマッピング等、様々なプロジェクトを手掛けてきた。2015年には日本財団パラリンピックサポートセンター開設にあたり、クリエイティブディレクターを務めた。2016年のリオデジャネイロパラリンピック閉会式のフラッグハンドオーバーセレモニーではコンセプト「POSITIVE SWITCH」を発案。2017年にパラスポーツとテクノロジーを組み合わせた「サイバースポーツプロジェクト」を発表。パラスポーツのエンターテインメント化に尽力している。東京オリンピック・パランピック競技大会組織委員会アドバイザー、日本財団パラリンピックサポートセンターの顧問などを務める。

 

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