最近のニュースを見て、「平等ってなにか」と考えさせられる。

 例えばワクチン接種において、キャンセルによる余剰ワクチンを、平等性確保のために打たずに破棄した事件や、自治体の首長が接種して非難を浴びた。さらにはオリパラの選手の優先接種は「平等じゃない」と批判が出る。

 

 このような事態でも、決められた順列やルールがすべてにおいて重視されている。

 いかにも真面目な日本人らしいことで、日本人の素晴らしいところではあるが、自らが作った規則で苦しくなっていくパターンともとらえられる。

 

 平等とはなんなのか?

 そこで、まずはそもそもの目的について考えたい。

 今回で言えば「早急に接種を進める」ということではなかったか。それに対して作った規則が障害になるようなら、臨機応変に対応をする必要がある。ルールは目的に向かってスムーズに進めるためのもの。ワクチンで言えば「接種スピードを上げる」ことが最終的な目的だ。そのために基本規則があっても、キャンセルなどのイレギュラーで余ったなら、ワクチンを無駄にしないよう柔軟に対応するのは当然のことではないのか。

 

 そもそも社会は、皆同じではない。皆が持っているものも、得意なものも違う。それぞれが得意とする力を発揮し、世の中を良くしていくことが大切だと思う。税金だって全員が同額では平等とは言えず、収入に合わせて納める。平等とはそういうことなのではないか。

 

 法の解釈に「形式的平等」と「実質的平等」という言葉が良く使われる。

 人の性質や、その置かれた環境、立場など、人の属性を一切考慮せず、どんな人であっても人は人であると、同一の取り扱いをするのが形式的平等の原則。これに対し、人の属性に応じて法律上の取り扱いに差を設け、実質的な結果が平等になるようにする、というのが実質的平等の原則。つまり世の中の中は形式的な平等がありながらも、実質的平等に合わせる方が幸せを感じることができるのではないだろうか。

 

 首長らの接種の場合は、人の立場や役割が違う。首長に求められているのは、どんなときにも危機管理すること。一般人と同じように接種する・しないが重要でなく、その責務を全うするために率先して接種し、職務に邁進すべきだと思う。

 

 不平等と戦うこと

 

 そして、オリパラの選手には誰もがなれるわけではなく、ほんの一握りの人たちだけだ。だからこそ、彼らのパフォーマンスに心が震え感動する。大会はその貴重な機会であり、たとえTVやインターネットであってもその瞬間を見てもらうことが大切だ。ならばそのパフォーマンスのために接種を進めることは不公平なのか。求められている「世界最高峰のパフォーマンス」は彼らにしかできない。そのパフォーマンスを彼らが見せてくれることで、多くの人たちが勇気や元気をもらえる。そう考えれば、彼らが安心して競技をできるように支援するのも大事なことだ。もちろんそれで誰かの命が脅かされるようなことがあってはならないが、それぞれができることをやり、得意とすることで世の中を良くしていく。これこそが社会の平等であり、役目なのではないかと思う。

 

 また、コロナ禍で練習環境も異なり、「各選手が平等なコンディションでないから五輪にはふさわしくない」という意見もよく聞かれるが、スポーツにこのような平等など今までにあったのだろうか。

 生まれや育ちが違えば、練習環境や社会的な環境も違う。それでも不公平だからとチャレンジしなければ、その差さえも分からない。そう、もともとスポーツは不平等なものなのだ。勝ち残っていく選手とは、そんな環境を一つずつ打破していく力と熱意を持っている。逆に言うと、その意思がないような選手は頂点に挑む権利さえ獲得できない。スポーツはある意味残酷だ。スタートする前、取り組む前から差が歴然としていることは日常茶飯事。その壁に挑んでいくことこそが、スポーツの世界で生き残っていくためには必要だ。そう、スポーツにおいて平等とは、競技中のフィールド上のことでの平等であり、競技時間以外は関係ない。だからこそ競技に入る前に自身の力を出せるよう最大限の準備をしていくのだ。

 

 見方によれば、スポーツは不平等なものだ。いや、世の中はすべてそういう構造だとも言える。

 そこを言いわけにして逃げているようでは、先には進めない。

 人生もスポーツもある意味不平等だ。だからこそチャレンジする意味があるのだとスポーツは教えてくれる。

 

 そんな人間のストーリーに思いを馳せて、今年の夏はTV観戦で盛り上がりたい。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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