(写真:新たに緑<WBC>のベルトを奪取した井上陣営)

 7日、ボクシングの世界バンタム級3団体王座統一戦が、さいたまスーパーアリーナで行われ、WBAスーパー&IBF王者・井上尚弥(大橋)が、WBC王者ノニト・ドネア(フィリピン)を2ラウンド1分24秒TKOで下した。判定勝ちを収めた19年11月のWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)決勝に続く、ドネア戦に臨んだ井上。圧倒的な強さを見せ、日本人初となる3団体統一を達成した。

 

(写真:締まった表情でリングに上がった井上)

 ギタリスト布袋寅泰が生演奏する映画『キル・ビル』のテーマに合

わせてリングに上がった井上は、赤コーナーでドネアの入場を待った。「ドラマ」ではなく「通過点」。見据えていたのは、青コーナーに現れた宿敵ドネアを圧倒した先に広がる未来だった。

 

 21時18分、1万7000人の観衆が見守る中、ゴングが鳴ると、いきなりドネアが仕掛ける。“閃光”とも形容される鋭い左フックが、井上の右目付近にヒット。リングに緊張感が走ると、互いに足を使いながら攻撃のタイミングをうかがっていく。

 

(写真:牽制し合う井上<中央>とドネア<右>)

 1ラウンド終盤、距離が詰まり打ち合いになる。残り10秒の拍子木を聞いて、さらにギアを上げたのは井上だった。「気持ちに余裕をもつため、絶対に(1ラウンドは)取りたかった」。パンチの構えに入ろうとした相手の顔面に、井上が体重を乗せて右フックを振り抜く。わずかな隙を突かれたドネアは、崩れ落ちるようにリング中央で尻もちをついた。

 

 先にダウンを奪った井上は、追撃を試みようとするも、1ラウンド終了の鐘が両者を引き裂いた。コーナーに戻った井上は、父・真吾トレーナーにあえて「(次のラウンドでは仕留めに)いかないよ」と言った。ドネアに与えたダメージの大きさが分からなかったため、決着をはやる自らの気持ちを抑えようとしたのだ。

 

(写真:2ラウンド序盤、パンチを畳みかける)

 しかし、決着は早々についた。2ラウンド序盤、左フックでドネアをぐらつかせると、ボディーに顔面に、左右のパンチを続けざまに突き刺した。急激に手数の減ったドネアは、猛烈なパンチの嵐を浴びながらロープを背負い、口が開き、再びキャンバスに沈んだ。その瞬間、レフェリーのマイク・グリフィンが両手を広げ、試合をストップした。

 

 2ラウンド1分24秒TKO勝利。因縁のリマッチは、井上の独壇場で幕を閉じた。2年7カ月前、ドネアと繰り広げたフルラウンドに及ぶ死闘は“ドラマ・イン・サイタマ”と呼ばれた。だが、右まぶたをカットして出血し、相手の強打をキャリア初のクリンチで逃れた井上は、決して納得していなかった。だからこそ、厳しい練習を自らに課し、「ドラマにはしない」「通過点」と強気の発言でさらに自分を追い込んだ。

 

(写真:KO勝利を決め、歓声に応える井上)

「最高の結果を残せて満足」。試合後の会見、井上の表情は充実感に満ち溢れていた。ドネアを下し、バンタム級3本目のベルトを手にした“モンスター”。かねて目標に掲げる4団体統一へ、もう誰も止めることはできない。

 

(文・写真/古澤航、写真/杉浦泰介)