(写真:“オレンジアーミー”が一堂に会し、記念撮影)

「JAPAN RUGBY LEAGUEONE」(リーグワン)は初年度のシーズンを終えた。初代王者に輝いたのは埼玉パナソニックワイルドナイツ。前身のトップリーグ(TL)からの連覇を達成した。準決勝で、埼玉WKに敗れたクボタスピアーズ船橋・東京ベイは3位決定戦で東芝ブレイブルーパス東京を下し、過去最高成績の単独3位(昨季は3位タイ)となった。

 

 昨季、ラストシーズンとなったTLでクラブ史上最高の3位タイに入り、“NEXT LEVEL”をスローガンに掲げた今季は、リーグワン初年度で単独3位となる好成績を挙げた。昨季の躍進はフロックではないことを証明した。年間表彰式にあたるリーグワンアワードでは新人賞、ベストフィフティーン、ベストラインブレイカーの個人3冠を達成したWTB根塚洸雅に加え、PRオペティ・ヘルがベストフィフティーンを受賞。5月31日に発表されたジャパンと、その予備軍にあたるNDS(ナショナル・デベロップメント・スコッド)にチームから計8人が選ばれた。

 

(写真:6季目のシーズン終えたルディケHCはファンに感謝)

 今月1日にはホストスタジアムの“江戸陸”こと東京・江戸川区陸上競技場で、ファンに感謝を伝える「シーズンエンドファンクション」が行われた。イベントに先立ち、シーズン総括の会見が開かれ、HCやスタッフ、選手が思いを語った。2016年度から就任したフラン・ルディケHCは「多くのことを学び、成長した。選手たちはクリアな絵が見えている」と胸を張った。ルディケ体制になってからずっとキャプテンを務めるCTB立川理道はこう続けた。

「シーズン終わってからこのような記者会見をすることがなかった。それを含めてリーグワンになって、運営の“NEXT LEVEL”、チームとしても成長できていると感じています」

 

 今野達朗アシスタントコーチ(AC)にもチームの“NEXT LEVEL”具合を聞いた。昨季限りで引退し、今季はスタッフとしてチームを支えている。チームのOB、そしてACの目線はこうだ。

「全ての面で進化できていると思います。選手がより主体的に行動するようになった。その結果、すべきことがクリアになって、グラウンドでの精度が連鎖して上がっていった」

 視界が開けたことによって、見える景色は広がった。

 

(写真:今季の活躍から8人が日本代表&NDSに選ばれた)

 レギュラーシーズンを振り返ると、不戦勝2を含む12勝4敗で勝ち点58を積み上げた。攻撃力がアップした印象だ。不戦勝分(+64得点)を除けば1試合平均36.6得点。昨季の33.7得点を上回る数字を残した。元々、強力なFW陣を生かしたセットプレーが武器だ。近年はそこにBK陣の活躍も目立つようなってきた。シーズン中、立川もこう手応えを口にしていた。

「今季は大きなFWだけでなく、BKでも点を取れています。スタッツ的にも良い数字を残せている。昨季、どこからでも点を取れるようになっていましたが、今季はさらにパターンが増えていると思います」

 

 だが3位という結果に満足はしていない。プレーオフだけで見れば、2季連続準決勝で敗れたという事実も残る。今野ACは以下の課題を挙げる。

「厳しい戦いでの精度、ミスが起こった時の修正力。今季はズルズルいってしまった。今までより改善された部分ではありますが、自分たちがきつい時にどう晩回できるかが次のレベルに行くためのカギになってくると思います」

 ファイナルへ足りなかったもの――。それは選手も理解している。“ラピース”ことFLピーター・ラブスカフニは「どれだけ小さいことを遂行できるか。それができれば相手にプレッシャーをかけられる。準決勝はそこが足りなかった」と振り返った。

 

 ルディケ体制は来季を迎えれば7シーズン目となる。チームは中長期で“NEXT LEVEL”を見据えている。石川充GMが「新リーグスタートの1年だけでなく1、2年目での結果を出すために契約を結んでいる」と語っていたように、チームの中心となったSOバーナード・フォーリー、CTBライアン・クロッティは残留する意向を示している。

 来季に向けて指揮官は「80%は現状をキープする。これまで築いてきたアイデンティティーやスタイルの土台は変わらない」と語り、更なる“NEXT LEVEL”を誓った。

「残り20%は数カ月かけてコーチ陣、選手と、もう一歩前へ行けるようにしていきたい」

 

(写真:今季限りで退団、引退する選手たち。それぞれの“NEXT”へ進む)

“江戸陸”に広がる景色も“NEXT LEVEL”へと向かっている。6月1日のイベントは平日にも関わらず、“オレンジアーミー”約480人が詰め掛けた。「一昔前の試合よりも来ています」とは今野AC。約25人のメディアが取材に訪れるなどチームに対する注目度は高まっている。今季、“江戸陸”での観客動員数は1試合平均3294人。昨季の2183人と比べれば5割増である。石川GMも「まずは江戸陸に人が集まる仕組みをつくり、価値を最大化していきたい」と意気込む。簡単ではないが、常時5000人以上、あるいは満員になれば、スタジアムの新設、増改築も見えてくるだろう。

 

 イベント当日、“江戸陸”の最寄り駅である西葛西周辺を走らせるタクシー運転手に試合開催日の風景を尋ねると、「オレンジ色のシャツを着た人が目立ちましたね。24番を付けていた人をよく見かけた気がします」という答えが返ってきた。通常、試合のベンチ入りは23人まで。いわゆる“24番目の選手”のことだ。広報担当の岩爪航氏に聞いても「ファンの人数、グッズの売り上げは増えています」と言う。人気面でも“NEXT LEVEL”に到達している。

 

「5年先、10年先を見据えていきたい」と石川GM。まちがオレンジ一色に染まる日を夢見て、“NEXT LEVEL”を目指す日々は続く――。

 

(文・写真/杉浦泰介)