(写真:両チームで記念撮影。TS15の主将バツベイ・シオネにはジャパンから刀が贈られた)

 今年1月に発生した海底火山噴火による被害を受けたトンガ王国への復興支援を目的としたチャリティーマッチ『ジャパンラグビーチャリティーマッチ2022 EMERGING BLOSSOMS(エマージングブロッサムズ) vs TONGA SAMURAI XV(トンガサムライフィフティーン』が11日、東京・秩父宮ラグビー場で行われた。エマージングブロッサムズ(EB)はジャパン予備軍のNDS(ナショナル・デベロップメント・スコッド)による編成。国内でプレーするトンガ出身の選手でほぼ構成されたトンガサムライフィフティーン(TS15)を31-12で破った。NDSのメンバーは18日、同会場でウルグアイ代表戦とのテストマッチに臨む。

 

 今回のチャリティーマッチと翌週のウルグアイ戦の2試合はNDSのメンバーで戦う。チャリティーマッチのメンバー選考にあたっては、EBの堀川隆延HCがこう説明していた。

「まず(ジャパンの)ジェイミー・ジョセフHCとコミュニケーションを取って、(NDSの)32人の中でも今一番日本代表に近い選手をスタメンに選ばせてもらった。次のレベルにくる選手たちで25人を発表させていただきました」

 

(写真:プレースキックの成功率は4割だったが、フル出場し攻撃陣を牽引した田村)

 この2戦の活躍次第ではジャパンへの昇格が見えてくる。“ジャパンに一番近い”スタメンは15人中9人がキャップホルダーだ。中でもSO田村優は68キャップ、CTB立川理道は55キャップを誇る。HO堀越康介、LOヴィンピー・ファンデルヴァルト、No.8テビタ・タタフ、SH茂野海人、FB尾﨑晟也がいずれも得点に絡んだ。

 

 前半8分の先制点は、こぼれ球を拾ったファンデルヴァルトが巧みなバックフリップパスから生まれた。田村が抜け出してインゴール中央やや右に飛び込んだ。田村はコンバージョンキックを決め、7点をリードした。

 

 同点に追いつかれた後、26分には茂野がクレバーなプレーを見せる。敵陣深くでTS15ボール。インゴール内でSH岡新之助タフォキタウがパスアウトしようしたところを、飛び込んでグランディングに成功した。茂野の頭脳的なトライで12-7と再びリードを奪った。

 

 36分にはラインアウトモールから堀越がトライ。10点リードして試合を折り返すと、後半4分にも追加点を挙げた。敵陣に攻め込み、茂野が右に展開。田村、尾﨑と繋ぎ、最後は大外のWTB竹山晃暉が悠々とボールをインゴールに置いた。

 

(写真:「80分でどれだけ走れるか」をテーマにしていたタタフ。力強い突破を何度も見せた)

 トドメはタタフのパワフルなランだ。34分、トンガ出身の26歳は敵陣でボールを持ち、スルスルと抜け出す。相手にジャージーを掴まれながらスピンしてインゴール右にねじ込んだ。田村のコンバージョンキックが決まり、31-12で試合を締めた。

 

 キャップホルダーに加え、ノンキャップの新人賞コンビもまずまずのアピールをできただろう。昨季トップリーグ新人賞で今季の埼玉パナソニックワイルドナイツの優勝に貢献した竹山と、今季リーグワンの新人賞で個人3冠の根塚洸雅は両WTBで先発。竹山は1トライ、根塚はフル出場した。

 

「ブレイクダウンのプレッシャーはすごく、国際レベルのフィジカルだった」と竹山が言うようにフィジカルの強いトンガのパワーに押される場面もあった。その点はテストマッチに近い強度を体感できたのではないか。根塚が「この経験を次の試合に繋げられるようフィードバックできることが大事」と口にすれば、竹山は「トンガの選手にも僕たちにとっても意味のある試合になったと思います」と振り返った。

 

 事前に合宿を行っていたとはいえ“急造チーム”同士の対決。堀川HCは「1週間の準備でやろうとしていたラグビーの基本的なプロセスを80分できた。1戦目としては満足」と納得の表情を見せた。キャプテンの田村はこう語った。
「僕自身も含めミスをしましたが、ズルズル引きずらず、やってきたことを出せた。ここからチームを加速させていきたい。何より、チームを良くしたいとみんなが思ってやっているので、それが形に出てうれしい。また来週試合ができるので楽しみです」

 

“感謝”のシピタウ披露 

 

(写真:SH不足のため、トンガにルーツを持たない人羅がメンバーに加わった)

 ジャパンとトンガの結び付きは強く、27人のトンガ出身選手が計300を超えるキャップを獲得している。現在、宮崎で合宿中のジャパンにもPRヴァル・アサエリ愛、LOサウマキ・アマナキ、No.8ファウルア・マキシ、CTBシオサイア・フィフィタが参加中だ。

 

 今回のチャリティーマッチに出場したTS15のPR中島イシレリ、No.8バツベイ・シオネ、SOレメキ・ロマノラヴァなどもジャパンのキャップホルダー。EBのタタフ、FLシオネ・ラベマイ、CTBテアウパ・シオネとトンガにルーツを持つ選手がピッチに立った。

 

(写真:ハアンガナが守備ラインの裏を抜け出し、トライ。即席チームで12得点を挙げた)

 TS15は6月5日に集まり、高知で合宿を行った。EB以上に即席チームだ。ハンドリングエラーは目立ったものの、パワフルな突破力は遺憾なく発揮された。前半23分には埼玉パナソニックワイルドナイツでプレーするLOエセイ・ハアンガナがトライ。後半25分にはラインアウトを起点にPRシオネ・ハラシリがインゴールに飛び込んだ。

 

 試合後、TS15の指揮を執ったラトゥ・ウィリアム志南利監督は場内インタビューで、感謝の意を述べた。

「トンガで噴火や津波が起こった時に何とかしないといけないと考えた。自分たちの国を応援したいということで日本協会にお願いした。(ジャージーの)胸のマークの下にあるように“KANSHA”(感謝)の気持ちを込めた。皆さんありがとうございました」

 

(写真:スペシャルバージョンの”シピタウ”は試合後ファンに向けても披露された)

 今回披露した“シピタウ”はスペシャルバージョンで、この日のためにつくられたものだ。高知合宿で練習を重ね、タウファ統悦マネジャー兼コーチが「ラグビーより練習した」と言うほどである。合宿中の取材では声を枯らして対応した選手もいたという。ラトゥ監督は今回の“シピタウ”について、こう説明した。

「最初はみんなで“トンガ代表のシピタウをやろう”という話がありましたが、将来、どこかでトンガ代表と試合をしたいと思っています。そのために、このチームだけのシピタウをつくりました。多くの選手、スタッフが高校、大学など日本で育ったので、内容的にはお世話になった日本への感謝が込められています」

 

 この日の秩父宮ラグビー場に詰め掛けたのは8055人。会場での募金総額293万3332円にも上った。トンガと日本の強い結びつきを考えれば、いずれは定期戦も――。そんな夢さえ広がる1日だった。

 

(文・写真/杉浦泰介)