流れをつかめないと、いや、意地でも流れをつかもうとしないとこうなってしまうという典型的なゲームであった。

 

 キリンカップ決勝となったパナソニックスタジアム吹田でのチュニジア代表戦は強化試合4連戦の“締め”となる一戦。堅守を誇る相手に攻めあぐね、逆にミスを突かれて失点を重ねてしまった。0-3というスコアほど両者に実力差があったわけではないだけに、日本代表の課題が浮き彫りになった格好だ。

 

 流れとは自分たちのペースになっているかどうか。

「いい守備からいい攻撃」をモットーとする日本代表はポゼッション志向の相手のほうがハマりやすい。カタールワールドカップ出場を決めた先のアジア最終予選、アウェーのオーストラリア戦などが好例だ。なるべく高い位置でボールをからめ取って攻撃に出ていくことで流れをつかんできた。逆にボールを持たされる展開になると、攻撃が単発に終わってしまうパターンも見てきた。まさにこの夜がそうだった。日本のボール支配率は62・4%ながら、枠内シュートは「ゼロ」に終わっている。

 

 チュニジアは日本をよく研究していた。

 ビルドアップでアンカーの遠藤航にボールが入るところを狙いうちにした。1トップのタハ・ヤシン・ケニシに見張らせてパスコースをさえぎるとともに、遠藤にボールが入ってきたら複数で囲い込んでボールを奪おうとした。パスワークを分断して攻撃に移ったらDFラインの裏に狙いを定める。共有ができているからこそプレーに迷いがなかった。

 

 日本よりも攻撃のチャンスが少ないことも自覚していたようだ。最初に得たコーナーキックで彼らはいきなりショートコーナーを選択してシュートまでつなげている。これも日本のセットプレーの守備のやり方をしっかり分析しているぞ、というメッセージに思えた。アタッキングサードに入ったら、ミドルシュートを積極的に狙っていった。枠を大きく外したところで気にしていない。強引にでも流れをつかもうとしてきた。日本には流れを渡さないという意思表明のように。

 

 翻って日本はどうだったか。

 開始10分足らず、インサイドハーフで起用された鎌田大地がアンカーの脇に降りてきて伊藤洋輝につなげ、左サイドを抜け出した南野拓実がクロスを放った場面があった。チュニジアのやり方に対応してチャンスはつくったものの、シュートまではたどり着けなかった。

 

 いい守備からいい攻撃に移ると、一気にボルテージが上がる。前半33分に左サイドでボールを奪って押し込み、サイドチェンジから伊東純也が敵陣深い位置で倒されてFKを得た場面があった。吉田麻也のヘディングはうまくヒットしなかったが、流れをつかみ掛けた時間帯だった。

 

 その後すぐビッグチャンスが訪れる。伊東が右サイドを突破して逆サイドでフリーになっていた鎌田にクロスが渡ったシーンだ。しかしここもシュートに至らない。同39分には原口元気とのワンツーから再び伊東からのクロスは、流れてしまう。チャンスはつくれど、シュートに結びつかないのはじれったいというほかない。

 

 前半は0-0で折り返した。このままいけば点を奪えるという読みが森保一監督にあったのだろう。後半スタートから田中碧を投入して、マークされていた遠藤のフォローに回らせた。しかしながら流れをつかんだのはチュニジアだった。裏に出されたボールに対して吉田麻也が背後からスライディングで相手を倒してしまい、PKで先制点を与えてしまった。

 

 森保監督が手を打たなかったわけではない。

 失点から程なくして三笘薫、古橋亨梧を投入し、その後には久保建英、堂安律も送り込んでいる。特に三笘のドリブルから何度かコーナーキックを得ることができた。久保の直接FKもあった。しかし残念ながら相手を脅かすようなセットプレーがない。チュニジアからしてみれば別にセットプレーを与えたところで怖くもなんともない。流れを渡したという気にもならない。だからこそ2点目、3点目も生まれた。

 

 結果として日本は流れを変えられなかった。

 

 攻撃的なカードを切っても、ボランチを2枚にした布陣変更に踏み切っても、展開をひっくり返せるほどの効果はなかった。表現するなら「ジリジリとした変化」でも言おうか。〝悪くはないからマイナーチェンジで〟というスタンスだけでは、ズルズルと時計の針を進めてしまう危険性がある。ときには大胆にガツンと変化を与えることで、意地でも流れをつかみにいく策も必要ではないか。結果論にはなってしまうが、この日であれば疲労からかミスが目についた遠藤を早めにチェンジさせる、オプションのフォーメーションに早めに舵を切り、強引にでも変化を促進させる手が欲しい。また、流れを引き寄せる意味においてもセットプレーをもっと重視すべきではないかとも考える。

 

「敗北は最高の教師」とは、5月1日に亡くなったイビチャ・オシム元日本代表監督の言葉。この苦すぎる敗戦をいかに糧にできるか、だ。


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