弱者が強者から勝ち点を奪うには、やはりセットプレーを磨かなければならない。

 

 6月25日、等々力競技場で行なわれた川崎フロンターレとジュビロ磐田の一戦を観ながらつくづくそう感じた。

 

 リーグ2連覇中のフロンターレに対し、今季J2から昇格したジュビロは攻撃的なスタイルを発展させつつも勝ち点を伸ばせないもどかしい戦いが続いている。この日の前半も圧倒的に押し込まれて先制点を許し、反撃の余地もないほどだった。だが後半に入って2トップ気味にして前線からのプレスを強めて押し返していく。その流れで得た後半40分、遠藤保仁の右コーナーキック。ニアの伊藤槙人がヘディングで合わせて同点としたわけだが、遠藤はその前のセットプレーでファーを狙っていただけにフロンターレの反応がいかばかりか遅れたようにも感じた。伊藤の動きを見ても、練習からやってきたことなのだろう。相手との駆け引き、正確なキック、味方の動きに合わせる呼吸と、遠藤の熟達がそこには詰まっていた。伊藤彰監督は最終盤に空中戦に強いセンターバックの大井健太郎を前線で起用したが、これもセットプレーからの得点を考えたからに違いない。

 

 結局1-1に終わったものの、ジュビロとしては大きな勝ち点「1」であった。強者相手にも流れを生み出してセットプレーできっちりと点を奪う。遠藤のキックが強みだとチームが理解しているからこそ、このミッションをやり遂げることができるのだと言える。

 

 今年5月、遠藤にインタビューできる機会があった、彼はこう話していた。

「苦しい試合もたくさんあるなかでセットプレーから点が獲れると楽だし、相手からしてみたらファウルでセットプレーを与えたくないっていう心理が働くと思うんですよ。セットプレーから多くのゴールを決めていくのは現代サッカーでは重要です」

 

 ゴール近くでファウルをしないほうがいい、極力ゴールラインの外に出さないほうがいい。セットプレーに強みを持つチームならば、相手にそうやって心理的なプレッシャーを与えることができるわけだ。

 

 翻って森保ジャパンはどうだろうか。

 先のブラジル代表戦においてたとえばコーナーキックに限れば7本(ブラジルは4本)あったが、得点のにおいはしなかった。このうち1本入っていれば、1-1同点で終われた可能性だってある。ただセットプレーを与えたくないという心理がブラジルに働かなかったという見方もできる。怖くないから、別に与えたっていいのだ、と。0-3で敗れたチュニジア代表戦でもコーナーキックは同じく7本(チュニジアは3本)あって、ゴールに至っていない。

 

 キックの精度のみならず、駆け引きや味方との連係などすべてがそろわないとゴールを生み出せない。カタールワールドカップではスペイン代表、ドイツ代表と格上と同組になり、チャンスの数もそう多くはつくれないはず。2戦目で戦うコスタリカ代表はGKケイロル・ナバスを中心に堅守を売りにしているだけに、ゴールを割るのは簡単ではないはずだ。

 

 セットプレーを軽視してはいけない。

 武器として持っておくことが、流れをつかむことにもなる。

 以前、中村俊輔から聞いたことがある。

 

「セットプレーには流れを変える力があると思っている。Jリーグでの話になるけど、反町康治監督時代の松本山雅と曺貴裁監督時代の湘南ベルマーレにそれを強く感じた。自分たちのチームがいくら優勢であっても、彼らがセットプレーのチャンスを得るとそれまで劣勢だったのに一気に勢いづく。こちらとしても足を止めることになるから、優勢の流れが一端ゼロに戻るような感覚。向こうのセットプレーがたとえうまくいかなかったとしても、『練習してきたものを出したぞ』的なポジティブな雰囲気になるし、逆にこちらは『芸を見せつけられた』的なネガティブな雰囲気にもなるから」

 

 森保ジャパンにとってセットプレーの向上はマスト。残り4カ月しかなく、集まれる機会も限られてくるが、ここはしっかりと詰めてほしい。バリエーションを増やしてほしい。キッカーも中村&遠藤、本田圭佑&遠藤のように左利き、右利きどちらもいることが理想ではある。その意味でも左利きの久保建英には期待したい。

 

 ワールドカップ躍進のカギはセットプレーが握っている。


◎バックナンバーはこちらから