第246回「ルールとマナー」
「日本の公園はマナーではなくルールが多すぎる」と言われたことがある。
確かに、公園に行くと「~するべからず」という看板が多い。
禁止事項が多いのは、より幅広い方に楽しんでもらうためではあるが、できることに制限が多くストレスを感じることもある。
オリンピックの前に、海外チームが都内のプールで練習していた時のこと。コーディネイターから連絡が入ってきた。「選手がプールサイドで水を飲むことも、時計をすることも動画など記録することもNGを出されて練習にならない」という悲鳴。まぁ日本の公共プールにはよくあるルールだが、彼らからすると“練習する施設で必要なことなのになんで?”ということころ。その時は管理側と話をして収まったのだが、日本の場合はルールにしておかないと個々の対応が大変だからということなのだろう。
では、海外の施設ではどうか?
基本的には「他人に迷惑をかけないこと」と、「責任は自分で取りなさい」程度。文化の違いと言ってしまえばそれまでだけど、このままでいいのかと疑問に思うことは少なくない。
ルールは日本語に訳すると「規則」。
マナーは「立ち振る舞い」もしくは「作法」とも。
つまり日本は規則を作り、それに従う、従わせる文化。ある意味、強制的でもある。もともと日本には、「お作法」という言葉があるように、ルールではなく相手や場を重んじる文化があったが、どこかでルール化して統制するほうに進んでしまったようだ。
面白いのは、マナーも多様な人が入ってくるとコントールしにくくなり、ルール化せざるを得ないことがある。アメリカが法規(ルール)でしっかりコントロールするのは多民族多文化で、マナーという柔らかいものではコントロールしにくいからだと教えてもらった。
他人事ではなく自分事
社会の中でのルールとマナーは、その社会的な背景があるとして、スポーツの中ではどうだろう。
先日、あるスポーツの指導者から「ルールを作って従わせるというのは、子どもたちを強制するもので、時に反発を生む。だから組織の中では自分たちでマナーを作って、どうしていくのか考えさせることが大切」というお話を聞いた。確かに人間は強制されると、その時は従うかもしれない。だが、規制がなくなると……。さらに指導者の目を盗み逆ブレしてしまうこともある。
ところが、マナーは強制されない。ただ、自分たちが何をしたいのかを考えると最初は好き勝手をやっている子どもたちも、自らのマナーを作っていく。つまり他人事ではなく、自分事になっていくということなのだろう。
ただ、欠点は自分事にしていくには少々時間がかかる。最初から指導者がぐいぐいと牽引していった方が結果を出すには早いだろう。それに対して自分たちでマナーを作っていくのは時間もかかり、大きく回り道をしてしまうこともあるだろう。しかし、その結果で、マナーを得た集団は強い。
私も主宰するトライアスロンクラブの運営で、この辺りを考えさせられる。人が集まると様々な価値観や、考え方が生まれ組織がぎくしゃくすることもある。それならばある程度ルールを作り、きちんと運営すべきなのかと考えていた時期もあったが、何の利害関係もない任意のグループなので、ルールが多すぎると居心地が悪くなる。その結果、ルールは最低限で、あとはグループのマナーや方向性を作っていくことだけを心掛けている。もちろん、これが100%機能しているわけではないが、まぁこの感じでいいかなと思っている。
これは大人のクラブだけでなく、子どもたちのクラブ、学校の部活、さらには街のスポーツ施設でも同様で、ルールとマナーのバランスを考えるときに来ているのではないだろうか。規制をし、コントロールする形から、自らが考え、自分事としてマナー啓蒙していく。
それは理想だけで、現実は簡単ではないという指摘もあるだろう。でも、理想をもってそこに向かって歩き出さない限りは変えていくことなどできない。
ルールからマナーへ。
明日の組織コントロールのためではなく、未来の組織づくりのために、そんなことを考える時なのかもしれない。
白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)。