先日、マラソン界、いやスポーツ界にとって興味深いデータが公開された。

 今年3月の東京マラソン開催の際、参加者すべてを対象に実施されたPCR検査結果。これだけ大規模スポーツイベントで一斉に行った前例はなく、マラソンに出ようとしている人の状況や、その後の感染動向を探るうえで大切なデータとなる。そしてなにより、コロナ禍におけるスポーツイベント開催の可能性を探るうえで貴重なデータだ。

 

 その結果を見ると、PCRの検体総数1万9527人のうち陽性数は108検体(陽性率0.55%)。

 ちなみに、大会日を含む3月第1週(2月28日~3月6日)の東京都のPCR等検査事業において、検査件数7万9479件に対し、陽性疑い数4845件、陽性疑い率6.096%だった。東京都の戦略的検査(モニタリング検査)の大会当日を含む週(2月28日~3月6日)の陽性疑い率が1.371%。前者は自ら気になった人が受けに来ることが多い検査で、後者は通りがかりの人が受けるのが多いと考えると、今回のマラソンでのケースは後者に近いのかもしれないが、それでもかなり低い陽性率と言えよう。

 

 その理由として、やはりマラソンに向けてトレーニングをし、体調管理、行動管理ができている人たちは、陽性率も低いということが推察される。週末にマラソン出場しようとしている人は、日頃からトレーニングもしていて、一般の方より健康体である。さらに、その日常生活の管理度合いもしっかりせざるを得ない。まあ当然と言えば当然の結果。なかでも私は健康体であることが、かなり予防につながっているのではないかと思う。新型コロナはたとえ菌がカラダに入っても、その免疫能力が高ければ感染も発症もしない。人間がもともと持っている、免疫力が発揮されるからだ。ただ、カラダの状態が芳しくないときは、この能力も落ちるわけで感染しやすくなる。つまりカラダをいかにいい状態を保つかがコロナ対策としても有効で、マスクや手洗いの感染予防策と同様、もっと重視してもいいのではないかと思う。

 

 意外な発見や気付き

 

 実は私も感染を経験したのだが、その時はアイアンマンのレース後で体調はかなり悪かった。レースでボロボロになっている時のカラダが、菌に対して対抗できなかったのではないかと想像する。これまで2年間、比較的人と会う機会が多い仕事だったが、一度も感染していなかった。それが弱ったとたんに、という感じだった。やはり健康は重要なコロナ対策、そしてマラソンを走るような健康的な方は感染しにくいのではないだろうか。

行動制限で家の中に閉じこもるより、外に出てスポーツをする方が感染しにくくなるとしたら、ある意味皮肉なものである。

 

 では、東京マラソン後はどうだったのか。

 事後の追跡検査や報告でも陽性者は数人しか出ておらず、少なくとも参加者や関係者の間で感染が広がったということは考えにくい。もっとも数日前に検査で陰性を確認しているので当然であろう。そしてこれほど大規模な大会であっても、事前検査をすることで、感染拡大なく運営できるという一つの事例になったことは、今後、他の大会に大いに参考になるデータであるだろう。中止が続いた全国のマラソン大会も、東京マラソンの開催にかなり勇気づけられたと聞いているが、この数値がさらに後押しになってくれることを期待したい。

 

 もちろん今回のデータだけで断言できることは少ない。だが、このようなデータの積み重ねこそが大切で、今後はぜひ他のイベントでもデータを取って欲しい。そして、事後調査も充実させていけば、イベントと感染の因果関係について、さらに検証を深めることができるのではないだろうか。

 

 ちなみに、今大会中の救急搬送は2件(いずれも重症事例無し)、AED装着事例無しで、過去大会より全体的に安全な大会となったようだ。これはコロナ禍により、参加者の健康管理意識や、レース中の意識が変わったことが要因かもしれない。

コロナ禍で失ったものや痛手は多いが、意外な発見や気付きをもたらしたこともあるようだ。

 

 さて、来年は検査などしなくていい大会運営が理想だが、こればかりはまだ分からない!?

 

参考資料

>>東京マラソン2021(2022年開催)における参加者への事前PCR検査の実施及び実施結果

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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