大相撲の時津風部屋で今年6月に時津風部屋の序の口力士・時太山(本名:斉藤俊さん)が急死した問題で、日本相撲協会は5日、臨時理事会を開き、師匠の時津風親方(本名山本順一、元小結双津竜)を解雇処分とすることを決めた。また、北の湖理事長自身が4カ月の50%減俸、理事・役員が3カ月の30%減俸を自ら申し出たことも発表された。
(写真:厳しい表情で処分を発表する北の湖理事長)
 約1時間にわたった理事会では途中、時津風親方を呼び出し、本人に弁明の機会を与えた。3分ほどで弁明は終わり、その後、処分が検討された。結果、満場一致で解雇が決定。再び親方が呼び出されて処分を通告された。

 理事会後、会見を行った北の湖理事長はまず亡くなった斉藤さんと遺族に謝罪。そして「師匠としてあるまじき行動をとり、世間を騒がせ、日本相撲協会の名誉と信用を著しく失墜させた」と時津風親方を解雇した理由を説明した。時津風部屋の継承者は9日までに決定される。
(写真:処分を受け、引き揚げる時津風親方)

 なお、暴行を加えたとされる時津風部屋の兄弟子たちについては「警察や裁判所の判断が出た後に検討する」(北の湖理事長)と保留になった。捜査中の段階であること、若く将来性もあることなどを理由に、個人名の公表はされなかった。

 また、理事長以下、減俸の理由については「個人個人の考えで申し出た」(理事長)と、あくまでも協会全体で責任をとったのではないことを強調。「協会が各部屋にどうせい、こうせいとは言えない。各部屋の師匠がきちっとすべき」とも語り、協会としての再発防止策は、はっきりしなかった。

 理事会で決定される処分で解雇は最も重い。解雇処分になるのは97年に失踪して職務放棄した山響親方(元前乃森)以来2人目。相撲協会の規定により、解雇された時津風親方は2度と角界に戻ることはできない。

 時津風問題は「これにて千秋楽」なのか?

「各部屋ってどこですか? 昨日、マスコミに(山分親方の書類送検のニュースが)出ましたけど、各部屋となると、複数の部屋となりますけど?」
 会見中、記者からの厳しい追求を受けていた北の湖理事長が声を大にして反論する場面があった。記者から「各部屋で暴行が相次いでいますが、協会としての対処法は?」と問われた時のことだ。

 確かに現在、部屋内での暴行が取り沙汰されているのは、時津風部屋と書類送検された山分親方が所属する武蔵川部屋である。他の部屋で同様の問題が発生したという話は出ていない。

 しかし、本当に他の部屋に問題はおきていないのか。単に明らかになっていないだけでは、との疑念は晴れない。

 理事長は会見の中で、「各部屋はそういうこと(=部屋内での暴行)がないようにやっている。(時津風親方の問題は)他の師匠にも迷惑をかけている」と語った。要するに時津風部屋はレアケースだったというわけだ。

 だが、それは他の部屋に問題がないという証明に全くならない。なぜなら理事長自身が、「協会が各部屋にどうせい、こうせいとは言えない。(暴行が)ないように祈っています」とも発言しているのだから。部屋にすべてを任せている以上、実態は“わからない”に等しいのだ。

 会見を聞いていると、今回の一件を本当に協会の重大問題として認識しているのか、理解に苦しむ場面があった。たとえば理事長以下、役員の減俸の理由について問われた際の一言。協会全体として責任をとるという意味か、と質問を受けた理事長はこう答えた。

「いや、各師匠は責任をもってやっていますから。そういう意味ではなく、個人個人が自主的に判断したということです。本来ならば、師匠、部屋というのは各自の問題ですから」

 では、減俸の理由はいったい何なのか。理事長は個人の見解として減俸の理由を「お騒がせして申し訳ないという気持ちが強かった」と説明した。それは責任をとるという意味合いではないのか。理事長は自身の責任についても「時津風自身が(責任を)とるべきだ」と従来の考えを崩していない。どうも理事長はトップとしての責任を避けているように感じてならない。

 理事長は今後、再発防止策を検討委員会に諮る方針を示している。しかし、現時点での対応策は「師匠がきちっとすること、ひとりひとりの力士が私生活をきちっとすること」といった抽象的なものにとどまった。

「相撲協会の信用を失墜させた責任は重い」
 時津風親方の処分の理由として、理事長は幾度となく、この表現を用いた。ならば“相撲協会の信用を失墜させたままにする責任はもっと重い”はずだ。朝青龍騒動以降、大相撲はゴタゴタが続く。時津風親方の解雇で問題は千秋楽を迎えたわけではない。

(石田洋之)
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