立ち技格闘技イベント『THE MATCH2022』が19日、東京ドームで行われた。注目のメインイベント、那須川天心(TARGET/Cygames)vs.武尊(K-1 GYM SAGAMI-ONO KREST)は、那須川が判定勝ち。キックボクシング引退試合を白星で飾った。

 

「ずっと試合したかった。東京ドームの舞台で戦えて幸せです」

「武尊選手がいたから強くなれた」

 那須川はリング上で、最初にして“最後”の対戦となったライバルについて言及した。

 

 那須川が武尊に対戦直訴したのが2015年11月である。RISEの那須川、K-1の武尊。主戦場とする団体が異なる2人が戦うには、いくつもの障壁を超えなければならなかった。それから2人が拳を交えるまで、6年半以上の歳月を費やした。試合前、RISE伊藤隆代表が「両者が望んで実現したカード。白黒つけて欲しい」と口にすれば、K-1の中村拓己プロデューサーは「武尊はいろいろなものを背負ってきた。どちらが強いか証明して欲しい」と語った。

 

 その名は「THE MACTH」。特別な一戦であることは最前列にあたるVVIP1列席が300万円に設定されたことからも分かる。13時からセレモニーが始まり、出場選手が紹介されると、最後に武尊、那須川の順でリングに上がった。2人が握手を交わすだけで観客は大きく沸いた。両者は試合約3時間前に実施された当日計量をクリア。あとはリングで因縁に決着を付けるのみとなった。

 

 ゴンドラで運ばれ、通常よりも長い時間をかけて入場した。先に登場したのは武尊。リングイン直前、ロープにまたがり、辺りを見渡した。宙を見上げ、5万6399人の大歓声を浴びながら、この瞬間を噛みしめているようでもあった。いつものようにロックシンガー矢沢永吉の『止まらないHA~HA』に乗って入場した那須川も大舞台を楽しむように花道を歩いた。

 

 運命のゴングは21時7分に打ち鳴らされた。武尊がじわりじわりと距離を詰めてプレスを掛ける。那須川は距離を取ってキック、ジャブを打つ。戦前から予想されていた展開で試合は進んだ。“どちらが強いのか”。その問いの答え合わせの時間は、独特の緊張感に包まれた。

 

 1ラウンド終了間際、試合が動いた。距離を詰める武尊に対し、那須川のカウンターの左が炸裂。武尊がダウンを喫した。「会心の左。コンパクトに狙うことを意識した。刀のように振り抜いた」と那須川。左拳を突き上げると、場内を大きく沸かせた。武尊は立ち上がり、すぐにラウンド終了のゴングが鳴った。この試合はラウンドごとの公開採点。5人のジャッジが10-8で那須川を支持した。

 

 2ラウンドは武尊も仕掛けたが、偶然のバッティング、組みついた際に相手を投げてしまうなど攻めあぐねた印象だ。ジャッジ5人中4人が10-10のドロー、1人のみが10-9で武尊を優勢と見たものの、ポイントを挽回するまでには至らなかった。当然、最終ラウンドは倒しにいくしかない。

 

 それは那須川も織り込み済みだ。「相手はくる。そこに合わせるイメージでやっていました」。打ち合いに応じるのではなく、距離を取り、カウンター狙いに徹した。被弾を恐れず、前を詰める武尊に対しても「ここで乗ったらいけないな、と。武尊選手が笑ったらこのパンチがくると対策を練っていた」と冷静に対処した。ゴングが鳴った瞬間に拳を突き上げたのは那須川だった。

 

 3ラウンド計9分。実現に6年半以上かかった答え合わせはジャッジが5人が那須川を支持した。「初めて自分を強いと思えた」。那須川はリング上で明かした思いを試合後の会見で説明した。

「ずっとどこか寂しかった。ワクワクを感じられなかった。やっと出会えたという感じ。“この人に勝てば認めてもらえる”。試合するまではお互いいろいろ言われたけど、これ強いってことでいいのかな、と」

 

 那須川にとっての「LAST MATCH」だった。キックボクシングからボクシングに転向するためだ。この春、“卒業”予定だったが、この試合のために延期した。今後に向けては、「1回休みたい。しばらく休んで、格闘技のことを感がない日々を送りたい」と話した。それだけこの一戦に懸けていたということだろう。

 

 団体の垣根を越え、“最強”を証明するために、2人の戦いは実現した。メインカード以外もK-1ファイターたちが他団体のファイターと拳を合わせた。“誰が一番強いのか”。ファンが抱く疑問、そして選手の想いに応える戦いは、今後も必要となってくるはずだ。那須川は「THE MACTH2やりましょう」とリング上で呼び掛けた。2022年6月19日が日本キックボクシング界の新たなスタートを切るきっかけとなることを期待したい。

 

(文/杉浦泰介、写真/©THE MATCH2022)