大学団体日本一を決める「全日本学生柔道優勝大会」(全日本学生優勝大会)が6月25日からの2日間、東京・日本武道館で開催される。今年4月に全日本選手権を制した男子100kg超級の斉藤立(3年)を擁する国士舘大は、15年ぶり7度目の優勝に燃えている。昨年秋より同大の指揮を執る吉永慎也監督に、大会への意気込みを訊いた。

 

 斉藤立効果

 

――監督に就任してから2回目の全日本学生優勝大会が近付いてきています。

吉永慎也: 今のところ大きなケガもなく、週末を迎えられそうなので、良かったと思っています。

 

――5月の東京学生優勝大会は準優勝でした。

吉永: この大会は「斉藤立に頼らない戦いをしよう」というテーマを持って臨みました。1、2回戦の帝京科学大、明治大戦は斉藤を起用しましたが、準決勝の日本体育大戦、決勝の東海大戦は彼抜きで戦いました。目標は斉藤立抜きでの優勝。そこは達成できなかったので、学生たちには東京学生優勝大会が終わった直後には、「ここで出た課題を詰めていこう」と話しました。

 

――今年のチームカラーは?

吉永: 昔から国士舘大柔道部の特長は粘り強さ。それは私が学生の時もそうでしたし、卒業後も脈々と受け継がれています。学生たちには「我慢して、我慢して、絶対に心が折れてはダメだ」と、よく言っています。「最後まで戦い抜こう」と。私自身、どちらかと言えば柔道選手としてセンスがあった方ではありませんでした。反復練習で技術的にも精神的にも鍛えられ、粘り強さがついたと思う。鈴木桂治先生(現・総監督)も現役時代、井上康生さんというライバルがいて苦しんだ経験がある。そこから我慢して、ひとつずつ実績を積み上げて最終的にオリンピック金メダリストになった。誰しも我慢する時期、耐え凌がなければいけない時期がある。そういうことも学生には説いています。

 

――全日本学生優勝大会を制する上でキーポイントは?

吉永: 4年生の活躍です。主将の熊坂光貴をはじめ、中西一生、安藤稀梧の3人。「4年生が踏ん張ってナンボだぞ」とも伝えています。4年生が踏ん張れないチームは勝てない。それは毎年言えることだと思っています。

 

――3年生には全日本王者の斉藤立選手がいます。ポイントゲッターとしての役割が期待されます。

吉永: おっしゃる通りです。3年生は斉藤立の他にも髙橋翼、竹市大祐、藤永龍太郎、金澤聡瑠、田中裕大という高校時代からトップを争ってきた選手たちがいます。この世代がどう4年生を助けていくかもカギになると思っています。

 

――斉藤立選手の長所は?

吉永: お父さんの斉藤(仁)先生、山下(泰裕)さん、井上康生さん、鈴木先生という歴代の重量級のチャンピオンたちと同じ、ふたつ組んで(釣り手、引き手ともしっかり持つ)投げ切れる。一本を取りにいく王道の柔道。それはできそうで簡単にはできない。力と技術、両方が揃っていなければいけません。

 

――鈴木総監督に以前お話を聞いた時、斉藤立選手とは「共通言語」があるとおっしゃっていました。指導をしていて理解力の高さを感じますか?

吉永: 私は素直だと思っています。実力のある選手はプライドが高く、我が強い場合がある。柔道に対してすごく純粋。それが彼の強さの秘訣だと思っています。

 

――個人でトップを争う選手がいることで柔道部全体にとってもいい刺激になっていますか?

吉永: そう思います。主将の熊坂は斉藤立とよく稽古を行っています。5月の強化選手入れ替え戦で優勝し、男子100kg級の全日本柔道連盟強化選手に入ることができました。それだけが理由ではありませんが、“斉藤立効果”も少なくないと私は思います。

 

――熊坂選手が主将になったのは監督の指名ですか?

吉永: いえ、学生たちが話し合って決めました。熊坂が主将になると聞いた時も驚きはありません。彼は全体稽古以外のみならず、自主稽古を誰よりも行っている。それを学生たちも見ているんだと思います。

 

――“ザ・国士舘”という感じでしょうか?

吉永: そうですね。粘り強さが彼の持ち味です。高校時代、エリートというわけではなく、いわゆる“叩き上げ”の選手。1年生の時は目立つ選手ではなかった。「負けるのは体力や技術で劣っている。勝つにはそれを補うしかない。ウエイトトレーニングを教えるけど、自分でやらないといけない」と伝えたら週6日取り組んだ。体重も5、6kgは増えたと思います。それでどんどん強くなっていきました。厳しい稽古にもついてきた。ガッツの塊です。

 

「優勝しかない」

 

――監督自身、全日本優勝大会にこだわりはありますか?

吉永: この優勝大会で勝つことが、学生時代も今も一番の目標です。大学生の団体戦では全日本学生体重別団体選手権大会との2冠が目標になりますが、やっぱり優勝大会には特別な思いがあります。

 

――現役時代は3年生時に優勝を経験されています。

吉永: 大学3年生で学生団体日本一を経験したことで、その後、シニアの強化選手にも選ばれた。自信になった大会でもありますし、私自身、初めて日本一なった喜びを味わえた。そこはいい思い出であり、私にとって分岐点だと感じます。

 

――6連覇(2020年度は大会中止)がかかる東海大に対し、ライバル意識はありますか?

吉永: 現在、連覇中ですし、“東海大を倒したい”という気持ちは強い。だが今年は天理大も強い。他にも明治大、筑波大などの強豪校が出場しますが、優勝から遠ざかっている15年を振り返ってみても東海大に負けてきましたから……。

 

――OBや関係者からのプレッシャーも?

吉永: そうですね。皆さん期待してくれている。私に会えば「今年は頼むぞ」「応援しているからな」と言われます。いいプレッシャーになっていますね。

 

――昨年10月に前任の鈴木監督(現・総監督)の全日本男子監督就任に伴い、コーチから監督に昇格しました。

吉永: 不安な気持ちもありましたが、“やるしかない”という思いで引き受けさせていただきました。私が監督になってから、弱くなったとは言われたくない。ただ実際に就いてみて監督とコーチは全然違いますね。

 

――具体的には?

吉永: 負けたら監督の責任。その重圧の大きさは全然違いますね。もちろんコーチの時も負けて悔しい思いはありましたが、そこまで思いつめるほどではなかったですから。

 

――学生に対する接し方も変わりましたか?

吉永: 私は変わっていないと思います。コーチの時と変わらず、なるべく学生と話すようにしています。稽古中だけでなく、それ以外の場所でも話しかけます。柔道に関係のないことも話すようにしています。そういうところでキャラクターを掴み、指導につなげられるようにしているつもりです。

 

――指導する上で気を付けている点は?

吉永: 私は柔道が大好きで、ひたすら頑張るタイプでした。だからと言って、みんながそうではない。だからこそ言葉選びや、やり方を考えないといけないと思っています。

 

――昨年はコロナの影響でスケジュールが変更され、就任してすぐに全日本優勝大会、体重別団体も続けて行われました。いずれもベスト4という結果は納得のいくものではなかったと?

吉永: そうですね。昨年の全日本優勝大会は熊坂がケガで、斉藤が国際大会から帰国後の隔離期間によって出場できなかった。主力の2人を欠いたことで、チームづくりの難しさを痛感しました。

 

――今回の目標は優勝。最低ラインは設けていますか?

吉永: 優勝しかないと思っています。組み合わせ抽選が終わり、準決勝まで進めばおそらく天理大が筑波大と対戦する。ここが大きな山場になると思っています。

 

――全日本学生優勝大会は7人制の無差別級団体戦です。オーダー決めもポイントになりますね。

吉永: そうですね。楽しいと苦しいが半々。相手の出方を予想し、考えるのは楽しい。実際決めるとなったら迷うこともある。オーダー表の提出は試合7分前。大会前からある程度固めておかないと、考える時間はありません。今回は4人いるコーチに準決勝、決勝のオーダーを考えてもらいました。それを参考にしながら、決めたいと思っています。

 

――「国士舘大の稽古は厳しい」と言われていますが、それは今も変わらない?

吉永: はい。むしろここ1カ月半くらいは特にきつかったと思います。質だけではなく稽古量も増やしました。最初は学生たちも戸惑っていたようですが、今ではだいぶ慣れてきたようです。幸い大きいケガもなく、学生たちも乗り越えてくれたのかなと思います。

 

――改めて全日本学生優勝大会に向けての抱負を。

吉永: まずはしっかり戦って優勝をみんなで勝ち取る。それが私たち指導者のみならず、学生、OBの悲願。なんとか達成できるように頑張ります!

 

吉永慎也(よしなが・しんや)プロフィール>

1983年2月8日、福岡県生まれ。現役時代の階級は81kg級。甘木中、大牟田高を経て、国士舘大に進学した。2年時には全日本ジュニア選手権で3位。3年時には全日本学生柔道優勝大会優勝に貢献した。大学卒業後は新日鉄に入社。実業団個人選手権、講道館杯で優勝し、国際大会でも上位に入った。引退後の16年4月、国士舘大コーチに就任。21年10月、鈴木桂治前監督の全日本男子監督就任に伴い、同大の監督に就いた。身長171cm。得意技は背負い投げ、大外刈り。

 

 BS11では「全日本学生柔道優勝大会」の模様を6月26日(日)19時から放送します。今回取り上げた国士舘大の他にも、6連覇がかかる東海大にも注目が集まります。女子は3連覇を目指す東海大に、王座奪還を目指す山梨学院大、環太平洋大らがどう挑むのか。また男子の解説は東海大OBで2016年リオデジャネイロオリンピック100kg級銅メダリストの羽賀龍之介選手、女子は04年アテネ、08年北京オリンピック63kg級金メダリストの谷本歩実さんが担当します。放送をお楽しみに!


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