今季から16チームでスタートする女子ソフトボールの新リーグ「JD.LEAGUE」は3月28日に開幕する。前身の日本リーグ1部から4チームが増え、レギュラーシーズンの試合数は倍近くになる。プロ野球・北海道日本ハムの球団代表を務め、現在はJD.LEAGUEの島田利正代表理事兼チェアマンに話を訊いた。

 

――2019年から日本女子ソフトボール機構の理事を務められているとはいえ、元々はプロ野球・日本ハムの球団運営に長く関わってきました。他競技の新リーグ立ち上げに携わることへの抵抗感はなかったのでしょうか?

島田利正: 私の中では全くの“畑違い”と思っていません。日本ハム球団代表を務めていた時に北海道移転を経験しましたし、北海道の新球場建設や野球日本代表(侍ジャパン)常設など前例がないことにも関わってきた。むしろスポーツにまた携われる喜びの方が大きかったですね。

 

――開幕が近付いてきていますが、ここまでの手応えは?

島田: 期待と不安が入り混じっていますね。日本ハムの北海道移転、新球場建設、侍ジャパンの常設化も全て周りからは「無理だろう」「失敗する」と言われてきたこと。これまでもそう言われてきても挑戦し、乗り越えてきましたから。そこは“やってやるぞ”という気持ちでいます。

 

――新リーグのタイトルパートナーには大手家具会社のニトリがつきました。スポンサー集めは苦労しましたか?

島田: 当初は、まるっきり反応がないなんてこともありましたよ。開幕1年を切ってから感触も良くなってきて、協力を申し出てくれる企業も増えましたね。

 

――「世界最強のソフトボールリーグ」をビジョンに掲げています。

島田: 東京オリンピックで日本が金メダルを取りましたが、他国の代表で日本リーグ所属の選手は8人いました。そのことをオリンピックを見た人がどれだけ知っていたか。既にして「世界一のリーグ」だと見ることもできると思うんです。それをどう世に知らしめていくか。今以上にもっといろいろな国の選手が日本に集まり、名も実も世界一というリーグを目指していきたいと考えています。

 

――そのためにはプロ化が必要とおっしゃっていましたね。

島田: そうですね。かつては各チームが持っていた権利を、今はリーグが主管しています。リーグを盛り上げ、収益を得る。それをソフトボールに還元していきたいと思っています。

 

――現時点での収入源は?

島田: 4本柱が大事だと思っています。チケット、スポンサー、MD(グッズ)、放映権。今はチケット、スポンサー収入が主となりますが、MDと放映権もきちんと収益化していきたい。

 

――チケット収入を増やすためには、ライト層を開拓していく必要があります。

島田: まずは地域のファンを増やすこと。要は近所のファンが一番観に来る可能性が高いですからね。地域に対する活動をいろいろ仕掛けることで、チームや選手を知ってもらい、応援してもらえるようになる。大事なのはリピーターをつくること。応援してくれる人が増えれば、企業にも還ってくる。チームの母体企業からすれば保有価値に繋がり、社員の誇りになる。それが福利厚生だと思っています。プロスポーツと企業スポーツは、日本ではニアリーイコールです。プロチームでも企業名がついている。オーナー企業に対し、保有価値を示していかないと身売りというケースも起こり得る。だから地域にアピールすることによって、地域の皆様に応援していただき、地域のファンを増やす。ファンを増やすことによってオーナー企業が喜ぶという好循環をつくりたいんです。

 

――観客を呼び込むためには、試合自体の質に加え、会場に行って楽しめる仕掛けも重要ですね。

島田: おっしゃる通りです。将来的にその価値を高めていかないと飽きられてしまう。今季は開幕戦を含め野球場を会場に使用しております。全会場ではありませんが、ダグアウトやファウルゾーンの位置に特設シート“Wow!パスポート”も用意しました。

 

 選手は宝

 

――新リーグの目玉。“ここを見て欲しい”という点は?

島田: 一番の宝は選手。選手の笑顔、経歴、プレーを見て欲しい。リーグの正式名称は「Japan Diamond Softball League」。そう名付けたのは選手をダイヤモンドの原石だと思っているからです。磨くのはリーグの役割。選手の顔をどんどん覚えていただきたい。そのための努力は惜しまないつもりです。

 

――その意味では、新リーグのアイコンとなるようなスター選手の存在も必要ですね。

島田: もちろんアイコンの存在も絶対必要ですが、それよりも大事なのは、それぞれの地域のスター、ヒロインです。例えばファイターズにいた頃、北海道で抜群の人気を誇る選手が全国区ではないことがあリました。でもそれでいいんです。地域の人たちが試合を観に来るわけですから。その選手の存在が地域を盛り上げる。1チームに最低1人は出てきてくれればいいなと思っています。

 

――新リーグの新たなルールとして、延長戦は9回まで(同点の場合は引き分け)。タイブレーク8回はこれまでと同じ無死二塁というシチュエーションながら、9回は1死二、三塁となりました。

島田: これはお客様目線ですね。私が日本リーグの試合を観に行った時も延長戦が多かった。1会場で数試合行うので、試合ごとにお客様が入れ替わるんです。食事に行くタイミングもあるでしょうから、時間をある程度決めた方がいいという結論になりました。ただ引き分けを増やしたいわけではない。点が入りやすいタイブレークにしたいと思いましたが、劇的に変えるのは難しいということで9回のみ1死二、三塁になりました。

 

――国際ルールとは違う独自のルールを設けることに葛藤はありましたか?

島田: 私の中にはありませんでした。「世界一を目指すのに、なぜ国際ルールから逸脱するのか」という声がある一方で「すぐ慣れますよ」と言う人もいた。無死二塁も1死二、三塁も、タイブレークのないプロ野球はキャンプで練習していますよね。私はまずリーグを繁栄させることで、ソフトボール界を盛り上げることが使命だと思っています。例えばMLBはWBSC(世界野球ソフトボール連盟)のルールに合わせているかというと違う。MLBは世界一のリーグだからです。JD.LEAGUEもいずれは、野球界におけるMLBのような存在になりたい。

 

――レギュラーシーズンの試合数は従来の1チームあたり22試合から29試合と約25%増えました。

島田: チーム数が12チームから16チームに増えたことが理由です。試合数に関しては、選手に意見を聞いた時に「増やして欲しい」との声が多かった。

 

――アスリートコミュニケーションというかたちで、選手側の意見をヒアリングする機会を設けているそうですね。

島田: 月1回ぐらいのペースで、オンライン会議を開催しています。その声を聞く限り、選手たちはファン目線を持っていると感じます。このリーグを栄えさせるには必ず必要なことです。

 

――独自性という点では「マンデーソフトボール」と銘打ち、一部の試合をプロ野球をはじめとした他のスポーツが開催されていない日程を狙いました。

島田: ナイター案は選手からアンケートを取った時にも出てきたものでした。集客面を考えれば、週の始まりの夜というのは難しい点もあると思います。ただ、プロ野球はシーズン中、月曜日をシーズンの移動日に充てている。プロ野球の休みを利用した「マンデーソフトボール」は野球ファンを取り込む一手だと考えています。またソフトボールは野球と比べて狭い塁間で行われています。そのスピード感が最大の魅力だと思っています。

 

――最後に意気込みを。

島田: ソフトボールで社会を元気にしたい。そして、子どもたちが“目指したい”と思える世界一のリーグでありたい。この2つに尽きます。

 

島田利正(しまだ・としまさ)プロフィール>

1955年6月16日、東京都出身。アメリカンスクール・イン・ジャパン卒。79年、英語通訳兼渉外担当として日本ハム球団入社。2004年の球団本拠地札幌移転事業に携わり、10年取締役球団代表、16年常務取締役球団代表、18年北海道ボールパーク取締役を務め、新球場建設にも関わった。19年に退社。この間、日本野球機構(NPB)の理事、国際関係委員長などを歴任。野球日本代表(侍ジャパン)の常設化にも尽力した。20年9月から日本女子ソフトボールリーグ機構常務理事、21年3月に代表理事兼チェアマンに就いた。

 

BS11では「JD.LEAGUE」開幕戦ビックカメラ高崎vs.トヨタ戦を生中継します。オンエアは3月28日(月)19時。昨夏の東京オリンピックで活躍した選手や、今後のソフトボール界を担う若手たちが躍動する“マンデーソフトボール”は必見です。是非ご視聴ください。

雨天の場合、「日本女子ソフトボールリーグ 2021決勝戦ビックカメラ高崎vsトヨタ」を放送いたします。

 

(取材・構成/杉浦泰介)


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