6月下旬に開催された全日本学生柔道優勝大会・女子5人制で、環太平洋大学の古賀ひより(4年)は主将としてチームを牽引し、3位入賞に貢献した。自身の階級(57kg)より上の相手に対しても臆せず戦い、大会優秀選手にも輝いた。今年5月には全日本強化選手選考会・女子57kgで準優勝し、全日本柔道連盟の強化選手Bに選ばれた。「常に前に出るスタイル」で飛躍を誓う古賀に話を訊いた。

 

――今年度から主将を任されました。

古賀: 自分たちの学年は4人しかおらず、1年生の時から学年代表を務めていましたから、主将に選ばれたことに驚きはありませんでした。自分自身、主将になったからといって、大きく変わることはないんです。常にチームの一番前を走っていきたい気持ちはありますが、ケガや気持ちの面でうまくいかない時に無理をしない。そのメリハリを大事にしていこうと考えています。

 

――主将として意識していることはありますか?

古賀: 4年生が少ない分、その下の3年生たちが支えてくれています。体力的にきつくなってくる時期には、「気合い入れていこう!」と声をかけますが、常に何かを語りかけたりはしていません。

 

――矢野智彦監督は古賀選手を「ムードメイカー」だとおっしゃっていました。チームを盛り上げるために意識していることはありますか?

古賀: 稽古後もよくしゃべりますし、元から明るい性格なので、自然とそういうキャラになったのかもしれません。だから「チームを盛り上げよう」などと、特別意識しているわけではないんです。

 

――主将として迎えた全日本学生優勝大会は3位でした。この結果については?

古賀: チームとして優勝という目標に向かって進んできたので、悔しい気持ちはありましたが、一方で優勝した東海大と大きな差は感じませんでした。“もっとやれる”という思いがあるからこそ“次にしっかりとつなげていこう”と、チーム全体としても前を向けています。

 

――古賀選手個人としては活躍が認められ、大会の優秀選手に選ばれました。準決勝の東海大戦は中堅で起用され、0対1と負けている場面で、主将・立川桃選手(4年)に一本勝ち。本来の階級では1階級上(63kg)の相手に、です。

古賀: 昨年の7人制(全日本学生柔道体重別団体優勝大会)で負けた相手です。その時は感触的にも実力、階級の差を感じました。今回当たった時も正直、“どうやって勝とう”と思うほど強かった。だから一本で勝つことよりも組み手をしっかりやっていこう、と心掛けました。自分でも“奇跡だ”と思うような試合でしたね。立川選手は姿勢が低く、自分が苦手とするタイプ。ただ同じようなタイプの選手と稽古を積んで対策をしていたので、それが試合でうまくハマッたのかなと思います。

 

――古賀選手はさらに低い姿勢で戦っていましたね。

古賀: 相手は大内刈りが得意。7人制でも、その技で負けていたので警戒していました。組み手で不利な体勢になったら、大内刈りの間合いに入られてしまう。姿勢を高くしたらダメと思っていたので、下からいこうと決めていました。

 

――決まり手は内股。狙っていたんですか?

古賀: 勝手に体が動いたという感じでした。投げた瞬間、自分でも驚いたくらい。稽古でも練習していた技なので、試合で自然と出たのかもしれません。

 

 父の教えは「うまくいかなくて当たり前」

 

――今年5月の全日本強化選手選考会決勝で世界選手権出場経験のある山本杏選手(パーク24)に敗れたものの、準優勝で全日本の強化選手Bになりました。先の優勝大会の活躍もあり、充実したシーズンと言えるのではないでしょうか。

古賀: 昨年は個人として見た時、全日本学生柔道体重別団体優勝大会優勝を経験することができましたが、他のメンバーのおかげで勝てたという場面が多かった。振り返って3年生のシーズンは個人戦を含め、思うような結果を残せなかった。“もっと強くなりたい”“このままではいけない”という気持ちから少しずつ変わっていったのかな、と自分では思っています。

 

――具体的に稽古で変えたことはありますか?

古賀: 課題から逃げないことを意識しました。それまではうまくいかないことや相手に対し、逃げてしまう自分がいたんです。自分が苦手とすることに向き合うようになりました。責任感や自覚という意味では主将になったことも大きかったと思っています。

 

――今後に向けての課題は?

古賀: まずは投げ切る。どんな相手であっても得意技を出せるように究めたい。自分が得意とする袖釣込腰、一本背負いを究めていけば、足技も効いてくるようになりますから。

 

――昨年3月、古賀選手の父親でチームの総監督である稔彦さんが亡くなりました。柔道に対する向き合い方などに変化はありましたか?

古賀: 自分自身はあまり変わっていません。周りの方の支えが大きく、だからこそいつも通りの自分でいられているのだと思います。

 

――お父さんから習ったことで、今でも心の支えにしていることは?

古賀: 父からは稽古を強制されることはありませんでした。技術面も稽古中に「こうしたらいいんじゃないか」という程度しか教わっていません。自分は試合で緊張するタイプなので、父から言われた「うまくいかなくて当たり前」という言葉は今でも大事にしています。今年になってからは緊張もせず、自分らしく戦えていると思います。

 

――自分らしさとは?

古賀: 常に前に出るのが自分の柔道スタイルです。ゴールデンスコアになっても、前に出る。休む暇があるなら前に出ようと思っています。スタミナ切れをすることもあまりありません。

 

――今後は10月の全日本学生柔道体重別選手権大会(インカレ)、その2週間後には連覇がかかる全日本学生柔道体重別団体優勝大会が控えています。同月末には、5月の選考会で出場権を獲得した講道館杯全日本柔道体重別選手権大会があります。

古賀: あまり先のことは考えていません。まずはひとつひとつ勝っていくことが目標です。ひとつひとつの試合を見ていかないと足元をすくわれる。だからインカレも中四国予選からしっかり勝っていく。その先に講道館杯でのいい結果が見えてくると思っています。

 

古賀ひより(こが・ひより)プロフィール>

2000年9月22日、神奈川県出身。環太平洋大4年。57㎏級。3歳で柔道を始める。岡山・創志学園高3年時には全国高等学校柔道選手権大会で準優勝の好成績を収めた。高校卒業後、父・稔彦が総監督を務める環太平洋大学に進学した。3年時に全日本学生柔道体重別団体選手権優勝大会で優勝。4年時から主将を務める。22年5月、全日本強化選手選考会・女子57kg級で準優勝し、全日本柔道連盟の強化選手Bに選ばれた。身長153cm。得意技は一本背負い。

 

(構成・競技写真/杉浦泰介、競技写真/古澤航、その他の写真/ⓒ本人提供)

 

BS11では10月の全日本学生柔道体重別選手権大会を今年も放送予定です。ぜひお楽しみに!


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