確かシドニー五輪の前後だった。A代表だろうが五輪代表だろうが予選だろうが親善試合だろうが、日本代表というだけで会場が満員になってしまう状況を本欄で皮肉った記憶がある。
こんなのいまだけ、日本だけ、と。
なので、悲観はしない。日本代表人気が落ちたとはまったく思わない。海外組はいないし、相手は香港。おまけに開催は平日のカシマ。これでスタジアムが満員になったら、そっちの方がよっぽど異常である。
ただ、4980人という観客数には、さすがに驚いた。悲観はしないが、喜んでいい数字ではもちろんない。
ちなみに、「海の日」に秩父宮で行われたパリSGの有料公開練習には、1万3000人を超えるファンが詰めかけている。祝日という点はあったにせよ、サッカー人気が低下した、というわけではないらしい。
20年前の日本といまの日本。実力やサッカーの質で言ったら、間違いなくいまの方が上である。だが、20年前の五輪代表には、知名度のある選手がいた。中田英寿がいて小野伸二がいて中村俊輔がいて……ライトな層でも何となく名前は知っている、という存在がかなりいた。
なぜか。彼らはプロに入る前から、名の知られた存在だったから、である。
A代表がW杯に届かず、五輪代表も本大会に出場できずにいたころの日本サッカー界にとって、若年層の唯一にして最大の希望だった。高校サッカーのスターが、ヘタをすると日本代表選手よりも人気がある時代すらあった。
それがどれほど歪な構図だったかは、いまになってみればよくわかる。ただ、歪な時代にあえて利点を見いだすとすれば、それは、毎年新たなスター候補生を輩出し続けた、ということだろうか。
海外との賃金格差、レベルの格差があり、選手の流出が続いているという点において、日本のサッカーと野球には共通点がある。だが、部外者として眺めてみると、サッカーに比べると、野球はファンの新規獲得がうまくいっている印象がある。誰かがメジャーに行けば、新たなスターが穴を埋めるというサイクルが、完全に確立されている。
サッカーが穴を埋められていない、というわけではない。むしろ、よくやっている。ただ、戦力的な穴埋めはできても、スターが去ってしまったファンの喪失感を、野球ほどには埋められていないとわたしには思える。
だが、誰かがあけた穴を埋めるのが中田だったら、小野だったら、どうだろう。筒香を送り出したベイスターズのファンが、牧を見つめる気持ちに近づけないだろうか。
小倉隆史が名古屋に入団した時、小野伸二が浦和に入団した時の熱狂が、いまの日本サッカー界にはない。新たな才能は次々と現れているが、そこに向けられるスポットライトの熱量は、明らかに以前より低い。その結果、プロ野球ではファンの新規獲得の一因にもなっているルーキーの入団が、Jリーグではほとんど、エネルギーたりえていない。
プロ野球は、ドラフトというシステムで毎年新たな才能にスポットライトを当てる。それを見習うもよし、若年層に注目と関心が集まる新たなシステムや大会を考えるもよし。いずれにせよ、日本サッカー界全体で動き出さなければならない時期に来ているとわたしは思う。
<この原稿は22年7月21日付「スポーツニッポン」に掲載されています>
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