香港戦と中国戦は有料の公開試合。評価の対象となるのは韓国戦のみ。そう決めてこの大会を眺めてきた。

 

 それでいながら、中国戦の後はこめかみがヒクつきかけてしまったわたしである。結果は度外視といいながら、やはりどこかでこだわっていた部分はあったし、それは、韓国戦でも変わらなかった。

 

 重視すべきは「カタールでのプラスアルファは誰か」を確かめることだったのに、3-0の快勝、圧勝についほくそえんでしまっている自分がいる。技術、体力、戦術すべてにおいて見るべきところがなく、おまけに闘志すら感じられなかった韓国が相手でも、である。

 

 正直、内容的にはどうやっても負ける可能性のなかった試合だったが、百歩譲って韓国の1パンチに沈んでいたとしよう。構わない。一向に構わない。こんな大会の勝ち負けより、はるかに大きな収穫があった。

 

 ほぼ完璧に最終ラインをまとめ上げた谷口の統率力は見事だった。レギュラーとなるとどうかわからないが、カタール行きはほぼ確定だろう。藤田の独得のリズムと視野の広さも魅力的だった。近い将来、彼は間違いなく日本の主軸になる。問題は、それがカタールかどうか、というだけの話だ。

 

 だが、2つの公開練習と1つの勝負を通して、わたしがもっとも強く感銘を受けた選手は他にいる。

 

 相馬である。

 

 韓国相手に先制点を決めたことはほとんど関係がない。なぜわたしは今大会の相馬に感銘を受けたのか。それは、彼が今大会に出場した日本代表選手の中でもっとも、「考えている」と感じさせてくれたからだった。

 

 初戦の香港戦で、彼はFKのキッカーを志願し、見事ゴールネットに突き刺した。いまの日本代表にFKのキッカーが不足していることを見越していたからの志願だとわたしはみた。

 

 交代出場した中国戦では、多くの選手がリスクを取らずに安全第一のプレーを選択する中、チームに欠けている部分を自分で補おうとした。漠然といいプレーがしたい、結果を残したいと考えているだけでは絶対にできない積極性を、中国戦での相馬は見せていた。

 

 そして韓国戦。おそらく、メディアの注目は先制点と2点目のアシストに向けられるのだろうが、わたしは、前半にあったCKが印象に残っている。彼は右インフロントに思いっきりひっかけて、直接ゴールを狙った。もう少しのところで相手GKのパンチで弾き出されたこの一撃は、香港戦での直接FKと合わせて、相馬の右足がセットプレーで大きな武器となることを強烈に印象づけた。

 

 わたしなら、絶対にカタールに連れて行く。

 

 海外組と比較すれば、相馬より速い選手、上手い選手、決定力のある選手はいる。だが、相馬ほどに自分に求められているもの、チームに欠けているものを的確に判断し、実行に移せる選手はそうはいない。久保や堂安と比較しても、相馬の「考える力」は突出しているようにわたしには思える。

 

 言われたことを忠実にこなすタイプの選手ならば、日本には数多くいる。圧倒的に不足しているのは、自分の頭を使って考えてくれる選手。海外に行って初めて考えるようになる日本人選手が多い中、Jリーグでプレーしながらこれほどの知恵者ぶりを発揮してくれた相馬には脱帽する。

 

 彼は、彼の頭脳は、日本代表に必要だ。

 

<この原稿は22年7月28日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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