再生か? 崩壊か? 西武ライオンズに端を発した球界の裏金問題。アマ球界をも巻き込んだスキャンダルに発展した。今回発覚した事実は、氷山の一角。プロ・アマ球界の奥底には、根の深い複合的な金銭汚染が横たわる。それは、日本社会に以前から存在する談合問題、天下りなどの閉ざされた構造にも似ている。国民的スポーツの裏側で何が行われているのか。球界にうずまく「建前」と「本音」の間で、いったい何が起きているのか。スポーツジャーナリスト二宮清純氏と元オリックス球団代表・井箟(いのう)重慶氏が、プロ・アマ野球界が直面している問題の解決策を探った。(今回はVol.5)
二宮: プロは「アマがたかる」と言うし、アマは「プロのスカウトが『うちの球団が3000万出すけど、5000万円出すなら入団すると言ってくれ』とけしかけてくるんだ」と言っている。結局、裏金はプロとアマの構造汚染の様相を呈している。
井箟: 僕は、両方本当だと思いますね。プロがけしかけることもあるだろうし、アマがタカる場合もあるでしょう。

二宮: アマ側で裏金をもらっている人のほとんどは税務申告していないでしょう。
井箟: していないでしょうね。以前、どういうふうにお金が流れているのか調べようとしたけど、わかりませんでした。

二宮: 結局、裏金問題の本質は、球団の経営の圧迫要因になっているということ。百歩譲って、資金を投入した選手が育てればいいけれど、ほとんどの選手は芽が出ないわけで、言い換えるならば、毎年、大金をドブに捨てている。こんなことを続けていて、「赤字だ、赤字だ」と騒いでみたところで笑われるだけですよ。
井箟: 球界では巨人の発信力が強いんだけど、親会社がマスコミだからか、コスト意識がないんですよ。取材と同じ感覚なのか、いい選手がいたら「まず取りにいけ!」という姿勢。いい悪いではなく、彼らの意識では、コストよりもまず取ることから始まる。

二宮: 学生野球に目を向けると、「日本学生野球憲章」で、これは金品の授受を禁じています。しかし、これも有名無実。これまできちんと取り締まってこなかったアマ球界にも問題がある。今ごろになって専修大学北上高校で、野球特待生が発覚して野球部を解散した。それを言い出したら日本の私立高校や大学はほとんどアウトになってしまう。
井箟: 大学でも特待生はだめです。憲章では、野球選手として特待生を取るのは、いけないことになっている。ごまかしの手法で「家庭の事情で経済的に厳しいから奨学金を出している。その子が野球部に入った」などという理由をつけて野球部に入れている。憲章は1950年にできたような古いものだから、守らないのなら変えちゃえばいい。

二宮: オリンピック憲章ですら時代とともに変わったわけですからね。アマチュア界は選手を育てる「畑」ですから、育てるのにお金がかかるのは当然。それだったら、合法的にプロからの資金が流れるしくみを作ればいい。一部の有名なアマの監督がポケットに入れるのではなくて、透明性を確保して野球振興のために使ったらいい。それができるように憲章も変える。助成金制度を作るとか、野球奨学金制度を作るなどしたらいいんですよ。
井箟: 「日本学生野球憲章」には最初に「学生野球だから授業に差し障りがある試合をしてはいけない」と書いてある。でも、東都リーグ(東都大学野球連盟)では、平日に試合をしているんですよ。

二宮: 部活動そのものも憲章違反になってしまうと。
井箟: 憲章の最初に書いてあることを守らない状態が、延々と、公然と続けられている。

二宮: 今回の裏金問題でも、学生野球憲章を錦の御旗にして締め付けているから、みんな裏でやるわけです。時代が変わればルールも変わるのは当たり前のことです。今のままでは「学生野球憲章栄えてアマチュア野球滅ぶ」ですね。
井箟: 今、大学にいて一番思うのは、「プロ・アマ」の関係だね。すべてがここに集約する。物事は何でもそうだけど、規則で縛ると違反が出る。これをもっとオープンにして、プロ・アマの壁を外して、プロの資金を合法的にアマに回すということをやったらいい。

(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2007年7月号『<対談>球界再生の方程式』に掲載されたものを元に構成しています>
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