第27回 伊藤清隆(リーフラス代表取締役)「部活をスポーツに戻す」
「Sportful Talks」は、ブルータグ株式会社と株式会社スポーツコミュニケーションズとの共同企画です。多方面からゲストを招き、ブルータグの今矢賢一代表取締役社長、二宮清純との語らいを通じ、スポーツの新しい可能性、未来を展望します。
今回のゲストは、全国37都道府県でサッカー、野球、バスケットボールなどのスポーツスクール事業を展開しているリーフラス株式会社です。同社は日本のスポーツ界、教育の現場における様々な社会課題解決に取り組んでいます。伊藤清隆代表取締役に、話を聞きました。
スポーツは楽しむもの
今矢賢一: 貴社がスポーツスクール事業を始めたきっかけは?
伊藤清隆: 創業は2001年ですが、当時、子供のスポーツ環境は体罰、暴言などが根強く残っていました。スポーツはもっと楽しむべきじゃないか、と私は思っていた。前職で海外に赴任していたこともあり、スポーツを楽しむ素晴らしさを見ていたんです。しかし、日本に戻った時に、親戚の子供が体罰や暴言を受けている現場を目撃してしまいました。私自身、中学校の部活で野球が嫌いになった経験がある。それで“子供たちにとって、楽しいと思えるスポーツ教室をつくろう!”と決意したんです。
二宮清純: その体験が部活支援事業にもつながっていくわけですね。
伊藤: そうですね。事業を進めていくうちにスポーツの持つ教育力がわかってきました。スポーツは非認知能力を育むことができるということです。スポーツを通じ社会生活に役立つ主体性、協調性、礼儀、自己管理能力、課題解決能力を身につけられると、考えるようになりました。
今矢: 部活動支援事業における指導者の採用プロセスは?
伊藤: 形態は自治体によって様々です。弊社が雇用している指導員を学校に派遣するケースもあれば、部活動のマネジメントをサポートすることもあります。例えば2020年からスタートした名古屋市立小学校全校の支援事業は、いわゆる部活動全般サポートです。名古屋市では262校を受け持っています。年間予算は10億円以上の巨大プロジェクト。名古屋市では市民4000人が人材バンクに登録し、その中からこれは、と思う人材を採用しています。その後、リーフラスの研修を受けていただきます。指導者の評価については、子供たちや保護者からもアンケートを採っています。
今矢: 部活動について言えば、評価基準がなければ一方的になってしまう危険性がある。
二宮: チェック機能が大事です。指導者に逆らうと、進学希望先の推薦をもらえないから、渋々従うというケースもありますからね。
伊藤: 弊社の部活動支援では、2名が指導にあたっています。加えて巡回役として、4校に1人社員がつく。芳しくない指導員は再研修や交代。教育委員会や学校長とも連絡を密にとっていくことが大事だと思います。
二宮: 毎日新聞には、<私が教員に採用された1980年代は学校が荒廃した時代で、部活指導を通じ、生徒を管理する意義がすごく大きかった><部活動はかつて、集団行動を大切にさせたり、礼儀作法を身に付けさせたりする場所」(2022年6月9日付け)という教員のコメントが紹介されていました。スポーツを楽しむことより、礼儀・作法を教える場なんだと。部活動を教育と言い続けている間はスポーツとして自立できないのではないか、という懸念を持ちます。
伊藤: 部活動の地域移行という方向性はスポーツ庁から示されましたが、その動きに反発する自治体も出てくるでしょうね。
今矢: 教職員が、自らの仕事や居場所を奪われてしまうという感覚があるのかもしれないですね。
伊藤: 部活動を生きがいにしている教員の方も多いですからね。
教員側にもメリット
二宮: 教員によって、部活動に対する思いは温度差があるでしょうね。学習指導要領には<生徒の自主的、自発的な参加によって行われる>と記されています。強制できないにもかかわらず、「ウチは部活動入部率が100%」と声高に謳っている学校もある。
伊藤: 部活動は教育委員会と我々の管理下に置き、副業扱いにする。そうすれば先生たちも時間、内容ともに無茶なことはできないはずです。そうすると、かなり正常化できると思います。部活動を担当したくない先生は担当しなくていいですからね。
今矢: 教員側も選択できるということですね。これまで部活動の指導は教員の自主的なボランティアだった。外部機関の管理下に置かれることによって、部活動指導者に問題があれば、服務規程違反として処分することもできます。
伊藤: それができれば、指導法、練習法にまで踏み込んでいける。教員の方も喜んでいますよね。50年前にできた給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)によって、公立学校の教員には残業代が一切付かない。いわゆる“働かせ放題”なんです。旧特法を改正し、部活動を指導する時間を教員の副業扱いにすれば、きちんと給料を払うことができます。
今矢: 私がオーストリアに住んでいた時に感じたのは、日本の教員はすごく働いているということです。オーストラリアでは、我々よりも早く教員が家に帰っていた。日本のように放課後、夜遅くまで居残っているケースはほとんどありません。
伊藤: 日本の公立中学校の教員で、1日の労働時間が12時間を超える人は35%もいるというデータがあります。部活動の指導が教員の負担になっているということです。
二宮: 昔の部活動は託児所も兼ねていた。高度経済成長期に子供が早く家に帰ってきては親が困る。共働きの家庭もたくさんありました。その名残がいまだにあるのかもしれませんね。
今矢: 当時は時代に合った仕組みだったとは思いますが、国が「働き方改革」を推し進めている以上、ずれている感は否めないですね。
伊藤: 他にも校内暴力をなくすために部活動で生徒を管理するという意味合いもあったようです。その点で言えば、日本の部活動はまだスポーツとは言えない。
今矢: 部活動で、その競技が嫌いになってしまう人もいますよね。
伊藤: おっしゃる通りです。部活動のせいで、そのスポーツを辞めてしまう子供も少なくありません。
今矢: 次のステージではどういうことを?
伊藤: まずは中学の部活動をスポーツに戻す。それが我々のミッションだと思っています。いつかは47都道府県の部活動支援をしたい。なぜなら子供たちが喜んでくれるから。弊社の場合は褒めながら、楽しく指導することを推進しています。我々の考えが全国に広がっていけばうれしいですね。
今矢: 私はスポーツに救われたと思っているんです。中学生時にオーストラリアへ移住した際、スポーツを通じてたくさんの友人ができましたから。だからスポーツは楽しむものという御社の理念には大賛成です。
伊藤: ありがとうございます。今後も我々の活動を通じ、その輪を広げていきたいと思っています。
<伊藤清隆(いとう・きよたか)プロフィール>
1963年、愛知県出身。2001年、スポーツ&ソーシャルビジネスにより、社会課題の永続的解決を目指すリーフラス株式会社を設立し、現職に就く。スポーツ部門として、スクール事業・イベント事業・コマース事業・アライアンス事業、ソーシャル(社会)部門として、部活動支援事業・地域共動事業・ヘルスケア事業・放課後等デイサービス「LEIF」事業を運営。創業時より、スポーツの指導にありがちな体罰や暴言を否定し、「スポーツ根性主義」を排除。非認知能力の向上をはかる「認めて、褒めて、励まし、勇気づける」指導と部活動改革の重要性を提唱する。子ども向けスポーツスクールと部活動支援の仕組みを構築した。社会事業である部活動支援事業と体育授業支援事業は、国内で多数の実績を誇る。教職員の労務環境及び、児童・生徒のスポーツ環境の改善に貢献。プロ野球、Jリーグ、Bリーグ、Tリーグなどの各種プロスポーツ団体と、スクール部門で業務提携している。
(鼎談写真・構成/杉浦泰介)