今年スタートした女子ソフトボールの「JD.LEAGUE」は9月3日から後半戦が始まる。前半戦東地区首位のビックカメラ高崎は岐阜・長良川球場で同5位のホンダと対戦。初代女王を目指すビックカメラにおいて、身長149cmと小柄ながら俊足巧打の外野手・藤本麗はなくてはならない存在だ。今年日本代表デビューを果たすなど、ニューヒロインのひとりとして期待を寄せられている23歳に話を聞いた。

 

 与えられた役割を全うする

 

――今年2月、初のTOP日本代表に選ばれました。

藤本麗: 普段、海外の代表チームと戦う機会は少ないですし、たくさん掴んで帰りたいなと思いました。日本代表にもリーグから素晴らしい選手たちが集まっている。いろいろな人のプレーが見られるということも楽しみでしたし、すごくいい経験になりました。

 

――7月のワールドゲームズ、8月の日米対抗では宿敵アメリカと対戦しました。国際大会で金メダルを争う強豪との試合は、得られるものが多かった?

藤本: 私は小柄なので大柄なアメリカの選手を真似することはできません。それでも、こういう打ち方がある、こういう選手はこういう打球がいくなどと、いろいろ学べたと思っています。いろいろなプレースタイルの選手を見ることができ、いい刺激にもなりました。

 

――日米対抗第1戦は出場機会がありませんでした。イニング間にはベンチでメモをとっていたそうですね。

藤本: 出場機会も限られてくるだろうと思っていましたので、与えられた時に自分のプレーができるようにしようと。メモをとっていたのは、ワールドゲームズで対戦した時から、日米対抗のアメリカのメンバーがガラリと変わっていたからです。目で見て感じたことを頭にインプットするためにノートに記しました。それが守備についた時に生きるからです。わずかな位置取りの違いや最初の一歩の判断で結果が変わります。ライトは一塁から近いので、速い打球であればライトゴロも狙える。それが、いつ自分が出ても困らないための準備です。

 

――日米対抗でファインプレーを披露し、今季リーグ戦では守備率100%をマークしています。にも関わらず、ある記事で「守りは苦手」と答えていたのは意外でした。

藤本: 苦手というよりは、まだ完璧じゃない。私は内野手から転向したので、内野の動きが残っているところがある。もっと確実性を上げていきたい。身体が小さく、小回りが利くので自分にしかできないプレーを見せたいと思っています。

 

――ビックカメラ高崎入社直後は、主にセカンドを守っていました。20年のシーズンから外野手にコンバートされましたが、戸惑いはありませんでしたか?

藤本: それは全然なかったです。入社する時にも視野には入れていました。どこでも守れるにこしたことはない。外野は幼い時に守って以来のポジションでしたから慣れるまでは多少苦労しましたが、まずは与えられた役割を全うするだけです。

 

――東京オリンピック後、金メダルメンバー数名が引退を発表しました。特に外野手は山崎早紀選手、森さやか選手が現役引退。ソフトボール界のイチローこと山田恵里選手も代表引退を表明しています。新生日本代表は気になりますか?

藤本: 選んでいただけることはもちろん光栄ですが、そこにフォーカスを当てるのではなく、まずはビックカメラでの成長に目を向けるべきだと思っています。どのチームでも自分に任された役割をきちんと果たせるようにしたいです。

 

――ワールドゲームズ決勝のアメリカ戦では見事なセーフティーバントを決めるなど、小技を得意としている印象があります。

藤本: 私はどちらかと言えば不器用なんです。バッティングをするにしても、小技をするにしても、守備にしてもまずは練習で積み上げていくタイプ。派手なプレーはできませんが、地味なプレーでもチームの勝利に少しでも貢献していきたいと思います。

 

――チームの勝利が自身の活力になりますか?

藤本: 自分の結果よりもチームが勝つことが大事です。ただ、それ以上に試合前でも後でも「頑張ってね」と声をかけていただくことが一番のモチベーションです。“こんなにたくさんの人たちに応援してもらっているんだ”と。それが“ソフトボールをやってて良かった”と思える瞬間ですね。

 

 常にそばにあるもの

 

――今年から「JD.LEAGUE」がスタートして、選手として運営面での違いは感じますか?

藤本: 今はコロナ下でファンサービスがなかなかできないのが実情です。9月には同じ群馬県高崎市を拠点とする太陽誘電さんとファン感謝祭を行います。ファンの方たちと交流できる機会。ソフトボールファンを増やしていくチャンスでもあるので、こういったイベントが行えることは大変ありがたいと思っています。私自身、これまでソフトボール教室やイベントなどに参加することはありましたが、「ファン感謝祭」と銘打ったものは初めてなので、すごく楽しみです。

 

――さてビックカメラ高崎は前半戦を終え、17勝4敗で東地区首位に立っています。

藤本: 今季はチームが若返って、不安もありましたが、試合をしていく中で成長を感じました。一戦一戦、それぞれの選手たちが役割を果たそうとしていた。それが少しずつ噛み合ってきたことが今の順位につながっている。自分自身ももっとレベルを上げていきたいと思っています。

 

――4月24日の日立戦では今季1号ソロを放ちました。

藤本: 日本リーグを含めても初のホームランでした。ただ私はホームランバッターではありません。あくまで目指しているのはアベレージヒッター。ランナーがいない時は塁に出てチャンスメイクをし、ランナーがいる場面ではつなぎのバッティングを心がけています。もっと打率が上がれば、チームの得点力も増えると思うので、そこが自分の中での課題です。

 

――ここまで東地区5位タイの5盗塁。走塁も藤本選手の持ち味ですが盗塁王に対するこだわりは?

藤本: タイトルはあまり考えたことがないですね。アウトになるリスクもありますので、自分本位に盗塁を仕掛けるわけにはいきません。(盗塁王は)獲れたらうれしいという程度のものですね。

 

――日本リーグ最多14回の優勝を誇るビックカメラ高崎。JD.LEAGUEでも初代女王の座に就くことを期待されています。その重圧は?

藤本: 重みは感じませんが、先輩方が今まで築き上げてきたものを崩さないようにしたいとは思っています。大事なのは勝つことだけではなく、ビックカメラの一員として、皆様から愛されること。プレーだけではなく人間性も大切にしています。私も入団6年目、中堅という立場にもなってきましたので、それを下の子たちにうまく伝えていきたいです。

 

――身長149cmというサイズはコンプレックスですか?

藤本: 学生の頃からあまりコンプレックスに思ったことはありません。もちろん身長が大きい方が有利だと思いますし、「小さいからできないだろう」と言われたこともあります。では“どうやってプレーしたらいいんだろう”と考えてきました。高校(兵庫大附属須磨ノ浦)に私と同じぐらい身長の増山由梨先輩(デンソーなど)がいた。その先輩のプレーを見て、私はすごく勇気をもらった。私もそう思われるような選手になりたい。私にしかできないプレーを見つけて体現したいと思っています。

 

――「ソフトボール・マガジン」アンケートの<あなたにとってソフトボールとは?>との設問に<常にあるもの>と答えています。

藤本: 父もソフトボールをやっていたので、実家には常にボールがあった。私にとって好きとか嫌いの感情よりも、常にそばにあるものでした。

 

――最後に後半戦に向けての意気込みを?

藤本: 先のことをあまり見ず、目の前の一戦一戦を戦い抜く。その中で自分自身の結果を求めていきたいと思います。

 

藤本麗(ふじもと・うらら)プロフィール>

1999年1月12日、広島県生まれ。小学1年でソフトボールを始める。翠町中学、兵庫大附属須磨ノ浦高校を経て、2017年、ビックカメラ高崎に入部した。俊足巧打の内野手として活躍。20年から外野手に転向。在籍5年間で4度のリーグ優勝を経験している。17年世界ジュニア選手権の日本代表選出。今年2月、女子TOP日本代表初選出を果たし、7月のワールドゲームズと8月の日米対抗に出場した。右投左打。身長149cm。背番号23。

 

BS11では「JD.LEAGUE」後半戦に向けて、「女子ソフトボール新時代の幕開け~JDリーグのニューヒロインたち~」を放送します。オンエアは8月28日(日)20時。東京オリンピックで大ブレイクした後藤希友(トヨタ自動車)らキラリと光る新星を特集します。スタジオゲストには東京オリンピックの金メダルメンバー山本優さんと渥美万奈さんが登場。後半戦への楽しみがマシマシになる1時間となっております。是非ご視聴ください。

 

(取材・構成・日本代表写真/杉浦泰介、プロフィール・ビックカメラ高崎写真/ビックカメラ高崎提供)


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