唯一の見せ場で、きっちりとアピールした。

 

 東アジアナンバー1を決めるE-1選手権、最終日の韓国代表戦(7月27日、豊田スタジアム)。国内組で編成された森保ジャパンはライバルを圧倒して3-0で勝利し、2013年以来の優勝を遂げた。この試合で待望のA代表デビューを飾ったのがGK谷晃生である。全体的に守備の強度が高く、決定的な場面でシュートを打たせない展開が続くなかでも集中を切らすことはなかった。

 

 後半32分だった。ペナルティーエリア内でパスを受けたソン・ミンギュがニアに放った決定的なシュートを右手で弾き出した。韓国代表の反撃を許さなかったビッグセーブが、3点差になって緩みかけた気持ちを引き締める形となった。守備陣へのコーチングを含め、クリーンシート達成において谷の働きは大きかった。

 

 東京オリンピックでの活躍が評価され、昨年9月のカタールワールドカップアジア最終予選オマーン戦、中国戦で初めてA代表に招集された。権田修一が正GKとして君臨し、出場機会がないまま、今年6月のシリーズでは落選。同じ東京五輪代表の大迫敬介が代わりに入った。それでも湘南ベルマーレで好パフォーマンスを続け、町野修斗、杉岡大暉とともに今回招集された。そして最も重要な一戦でゴールマウスを任された。

 

 このように記すと、調子に波があったように思われるかもしれないが、そうではない。湘南ではコンスタントに出場を続けており、チームとして結果につながらないときも安定したプレーで鼓舞してきた印象が強い。

 

 どんな状況であっても、己をコントロールして波をつくらない。

 

 この術はガンバ大阪U―23時代、当時の森下仁志監督からの言葉が大きかったという。昨夏の東京オリンピック後にインタビューした際、このように語っていた。

 

「森下さんからは“自分の感情をコントロールしろ。そうすることで絶対にいいパフォーマンスになる”とずっと言われていました。ガンバにいたころは一つのプレーでいら立つこともあったし、(周りの事象によって)自分のパフォーマンスを乱すことって自分の課題でした。だから感情のコントロールのところは日頃のトレーニングから意識するようにしていましたし、それが一定になってきたのはここ最近。ようやく少しずつ形になってきた段階なんです。

 

 ガンバU――23で出始めたとき、自分のミスで失点とかするとテンションが落ちていました。どうすべきかだったのかを考えてしまう。そこから“今考えても仕方がない。試合終わってからでいいかな”っていうマインドに変わりました。それよりも次のシュートをどう止めるか、どう防ぐかを(考えの)先に持っていっているのが今なんです」

 

 常に、一定に。

 

 そのマインドをプレーに落とし込んでいく。昨シーズンで言えば、湘南は残留争いの苦境に立たされながらも最終戦で何とか残留を決めた。テンションを落とさず、次のプレーを、次の試合に目を向けてきたからこそミッションを達成できたと言えるのかもしれない。アジア最終予選も出番こそなかったが、メンバーの一員としてチームを支え、準備を整えてきたことも彼をたくましくさせた。

 

 カタールワールドカップの日本代表メンバーはこれまでより3人増えて26人になる。とはいえ、GKは3枠で変わらないだろう。

 

 権田、シュミット・ダニエル、川島永嗣が有力視されるなか、谷と同様に鈴木彩艶、大迫も無失点に抑えて森保ジャパン初タイトルに貢献している。彼らのなかからカタールワールドカップメンバーに食い込んでくる可能性は十分にあると考える。

 

 ライバルの韓国代表を相手に、守備機会は少なくとも谷のビッグセーブのインパクトは強かった。若手3人のなかでは、一番のアピールになったのではないだろうか。所属クラブでのパフォーマンスが変わらず重要になってくる。谷晃生から目が離せそうにない。


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