第270回 “カズジュニア”三浦孝太がラジャダムナンのリングに─。「ブアカーオとの対峙は、試合ではなく公開練習」

(写真:会見で記者の質問に答える宮田代表<左>と三浦)
珍しい発表内容の記者会見が、8月10日夕刻、東京・世田谷BRAVEで開かれた。出席したのはBRAVE宮田和幸代表と、同ジム所属の三浦孝太。
昨年大晦日にRIZINのリングでデビューを果たしたMMAファイターの三浦は、サッカーの“キングカズ”こと三浦知良の次男。7月31日の『RIZIN.37』でデビュー2戦目が予定されていたが、その前夜に新型コロナウイルス感染が確認され、リングに上がることはできなかった。
会見は、その経緯説明と謝罪から始まる。そして、本題に入った。
8月19日、三浦はムエタイの殿堂ラジャダムナン・スタジアム(タイ・バンコク)のリングに上がる。そこで、ブアカーオ・バンチャメークとエキシビションマッチを行う。ブアカーオは、かつて『K-1 WORLD MAX』のリングにも上がりトーナメントを制覇した伝説のムエタイファイター。すでに40歳だが現役を続けており、ピークは過ぎたとはいえ闘えるコンディションを維持している。
そのブアカーオと三浦がエキシビションマッチを行なうことは、7月下旬に現地のスポーツ紙『サイアム・キラ(スポーツ)』ほかで報じられていた。
いま、三浦はタイ、ベトナムで人気が高い。これは格闘家としてのものではなく、ファンが投稿したTiktokの再生回数が急激に増加したことによるものらしい。ルックス、キャラクターが受けたのだ。
これにより、ブアカーオとのエキシビションマッチのオファーが舞い込んだ。
改めて記すまでもないが、三浦はMMAキャリア1戦の新人で、キックボクサーとしてのキャリアはない。当然ながら、ムエタイにおいての実力もブアカーオには遠く及ばない。だから、試合ではなくエキシビションなのだが、そう捉えていない向きもあったようだ。
なぜか?
それは、「エキシビション」の意味が日本のファンに正しく理解されていないからである。
エキシビションとは

(写真:MMAデビュー戦はサッカーボールキックでKO勝ち ⓒRIZIN FF)
「エキシビション」は試合ではない。
勝ち負けの記録が残されないだけではなく、対峙する両者が相手にダメージを与えないことが前提。つまりは、マススパーに近い形での顔見せだ。ボクシングにおいて元世界王者が最後のリングに上がる儀式として多く用いられてきた。
なのに、三浦がブアカーオにリアルファイトを挑むかのように思われたのは、2018年の大晦日『RIZIN.14』でのフロイド・メイウェザー・ジュニアvs.那須川天心が関係している。
あの一戦は、エキシビションマッチとして行われた。しかし、内容はリアルファイト。那須川は真剣に倒しに行き、その結果、メイウェザーの逆襲に遭いキャンバスを這わされKO負けを喫した。あの一戦以降、エキシビションと銘打たれていてもリアルファイトは有り得るという間違った認識が広まってしまったのだ。
会見で宮田代表は言った。
「3分×3ラウンドのエキシビションですが、首相撲、ヒジ打ちは無しです。お互いに相手に決定的なダメージを与えるようなことはしません。リング上での公開練習であり試合ではありません」
当然の話だ。
にもかかわらず、わざわざ会見を開いて明言せねばならぬ状況が異常なのである。エキシビションと謳ったなら、それはリアルファイトではない。
ならば、9月25日にさいたまスーパーアリーナで開催される『RIZIN.38』のフロイド・メイウェザーvs.朝倉未来にも「エキシビションマッチ」という名称は似つかわしくないように思う。メイウェザーはともかく、朝倉は本気で倒しにいくのだから。
三浦孝太も『RIZIN.38』に参戦予定、こちらは通常のMMAリアルファイトである――。
<直近の注目格闘技イベント>
▶8月14日(日)、エディオンアリーナ大阪/プロボクシング、ヘビー級4回戦、サトシ・イシイ(クロアチア)vs.高山秀峰(スパイダー根本)ほか
▶8月21日(日)、エディオンアリーナ大阪/「RISE WORLD SERIES 2022 OSAKA」世界S・ライト級王座決定戦、ペットパノムルン・キャットムーカオvs.原口健飛ほか
▶8月21日(日)、東京・後楽園ホール/「DEEP109 IMPACT」フライ級GPトーナメント1回戦ほか
▶8月21日(日)、新潟・万代島多目的広場大かま/「プロ修斗公式戦 越後風神祭り9」岡田達磨vs.メイヘム和成ほか
▶8月26日(金)、東京・後楽園ホール/プロボクシング東洋太平洋S・バンタム級タイトルマッチ、王者ペテ・アポリナル(フィリピン)vs.武居由樹(大橋)ほか
▶8月27日(土)、東京・後楽園ホール/「krush.140」ウェルター級タイトルマッチ、寧仁太・アリvs.中野滉太ほか
▶8月28日(日)、東京・後楽園ホール/「RISE161」フェザー級タイトルマッチ、梅井泰成vs.門口佳佑ほか
近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『伝説のオリンピックランナー“いだてん”金栗四三』『柔道の父、体育の父 嘉納治五郎』(いずれも汐文社)ほか多数。
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