お盆を過ぎると急に、朝夕の風に秋が漂う。

 これを感じると、「夏休みが終わってしまう」と悲しい気分になり、宿題のプレッシャーとの戦いが始まるというのが僕にとって小学生時代の夏の風物詩。そしてもう一つ、夏休みだけ開催しているスイミングスクールに毎日通い、黒糖のような肌をして新学期を迎えていた。

 

 そんな僕にとって、プールと水泳と太陽は切っても切れない縁。水泳の授業は何よりの楽しみだったし、あることに何の疑問も持たなかったが……近年における学校のプール状況は違うようだ。

 

 まず、水泳の授業を受けたくないという声が多く上がっていること。

(参考記事)

高校の水泳授業「なぜ全員参加?」 女子生徒の疑問を本紙が取材 「プールつらい子もいる」(「東京新聞WEB」2022年7月16日配信) 

 

「なぜ全員に水泳が強要されるのか?」

「多感な時期に男女一緒に水着になるのは抵抗がある」

「LGBTQへの配慮が足りない」

 などなど理由は様々だ。

 

 では、なぜ水泳を授業でやる必要があるのか。

 日本ほど水泳の授業を導入している国は珍しく、欧州などでは学校にプールさえない。

 戦後、子どもの体力を上げるために水泳を積極的に取り入れたのが始まりと聞いているが、これにより水難事故も減っているのは確か。授業がなければ水に入る機会が全くないという子どもは多いわけで、水に対する正しい知識と技術を持つことは、大切であると思う。

 

 水の中は重力でなく浮力の世界。そんな水の中だからできる運動効果もあり、幼少期にやる運動としては適している。また、カラダへの負荷も少ないので、高齢になったときに最後までできる代表的な運動。しかし、高齢になってから水泳技術を習得するのは難しくなるので、子どものころに泳げるようになっておくと、人生の後半でそのメリットを享受できる可能性は高い。もちろん現役世代でも運動手段の一つとして持っているのはメリットだとは思うが!?

 

 このように、発育発達のために、安全のために、やっておくべきだというのにはそれなりの理由がある。

 

 自分らしさを選べるように

 

 もちろん、水泳が嫌いな子もいれば、僕のような子もいるだろう。

でも、授業に対し、「嫌いなのに強制されるのはおかしい」という論調には違和感がある。人生においてやっておくべきと文科省が判断しているわけで、好き嫌いは関係ないはず。

 

 ただ、水泳授業が敬遠される要因を少しでも取り除く努力はすべきである。目的は子どもたちに水泳の経験を積んで欲しいわけで、いかにそれをしやすい環境をつくってあげるかは大人の責任。ましてやジェンダーフリー、多様性が見直されている中で、その配慮もしていく必要がある。議論し是正していくのは、授業をやる・やらないではなく、どう配慮をしていくべきか、だと思う。

 

 その一つの解決案として「ジェンダーフリー水着」が登場し話題を呼んでいる。

 ずっと泳いできた僕のような立場からすると、「泳ぎにくそうだなぁ」と思ってしまうが、かなり好評なよう。そしてこの水着は近年厳しくなった暑さへの対策、日焼け対策にも寄与できる。

 

 こうした水着が選択できるようになれば、水泳の授業参加のハードルを下げるわけで、素晴らしいと思うし、大歓迎だ。そして、もう一つリクエストするなら、既存の水着を着たいという人のために、水着を自由に選択できるようにしておいて欲しい。

 

 日本人は、とかく他人と違う恰好や、行動を慎む傾向にある。それが他者に迷惑をかけるならともかく、自分らしくあれるなら問題ないと思うのだが、他人と同じでいたがるのが特徴。野外でマスクをしている方々も、こうした気遣いが影響しているのではないかと僕は考えている。

 

 ともあれ、今回ジェンダーフリー水着が採用されたことで、皆が着なければいけないような雰囲気になってしまうことを危惧している。これでは多様性を大切にしていることにはならない。決められた最低限のルールの中で、自由に自分らしく恰好を決めたり、行動したりできること。それが社会的に当たりになる空気感の醸成が大切なのではないか。

 

 さて、今回の学校水泳、水着問題。議論の進んでいく方向が気になるが、それがどのように学校内のルールやマナー、慣習になっていくのかにも注目している。

 他人のためでなく、自分のために行動できるようになりたいものだ。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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