ウクライナ侵攻、世界的な需要の拡大、インフレ進行などで、値上がりが止まらない。

 日本国内でも8月に値上げされたのは、2431品目。さらに10月に予定されている値上げは6305品目で8月の2.5倍以上。それも食品やエネルギーなどの身の回りの生活必需品が上がったので、その痛みは各家庭の家計を直撃しているはずだ。そして出口は見えてこない。

 

 同じく、スポーツの世界にも値上げの波がジワジワと押し寄せている最中だ。マラソンやトライアスロンなど参加型スポーツのエントリーフィーにも変化が表れている。

 都市型マラソンではインフレの影響もあり、代表格のロンドンやニューヨークに日本と比べものにならない値段がついている。最低でも3万円超、チャリティ枠が中心のロンドンなどでは6~10万円程度を想定しておかないとエントリーができない。

 

 国内においても3月に開催された東京マラソンが2万3600円、名古屋ウイメンズが2万6000円、10月開催予定の横浜マラソンが2万円と、2万円超えが普通になってきた。10年前に東京マラソンが国内で初めて1万円を超えた時には「金持ちしか出られないのか!」という批判が飛び交ったのが懐かしいが、あっという間に2倍を超えてしまった。

 

 トライアスロンの世界も、オリンピック開催距離の大会でも横浜大会は2万4000円、その他の大会も2万円超が普通になっているが、2000年前後までは1万5000円くらいが平均的だった……。世界的なインフレはスポーツ界に確実に影響を及ぼしているだろう。

 

 まず当たり前のことだが、これだけ資材や人件費が高騰すると、運営費に跳ね返ってくる。エイドやフィニッシュなどで使っている物の単価がどんどん上がっていけば、その積算は全体の運営費に反映される。運営費が上がった分をどこかで賄わなければならないという流れになる。私が運営に関与している大会でも、経費が昨年の15%程度上がった。

 

 また、コロナ禍でボランティアの確保も難しくなり、その分の人件費や警備費などがかさむことに。さらにはコロナ対策のために様々なシステムや手段を講じる手間や費用も積み上がる。すぐに小売価格(エントリー料)に転嫁できるはずもなく、運営はかなりシビアな状況となっている。

 

 マラソンなどの公道競技は、警備や交通規制などにかなりの労力がかかり、意外に費用がかかっている。またボストンマラソンの爆発物事件後は、警備に対して求められるものも高くなり、大きな大会では相当な負担となっているのも事実。東京マラソンでも警備費は当初の倍以上に膨らんでいる。

 

 主催者の苦悩

 

 受益者負担の理論では、「それらは参加者が負担すればいい」というのが普通の話。たとえば東京マラソンの場合は、運営の総経費は20数億円程度なので、1人あたり6万円以上かかっている。参加者が全額負担すると考えれば、東京を走る人は、6万円のエントリーフィーが必要になる。こうなると、いよいよ海外の都市マラソン並みである。ちなみに東京はPCR検査費用6800円を含んでの費用なので、実際のエントリーフィーは1万6500円、つまり4分の1の負担で走れているということになる。

 

 以前開催していたトライアスロンの最高峰「アイアンマン」の運営費は約2.5億円。こちらは1500人の参加者から17万円もらわないと賄えない計算になる。実際のエントリーフィーは9万円程度だったので、これでも半分程度しか負担していないということになる。

 

 では、残りの分はどうしているのか。これはスポンサーや補助金、行政の場合は行政予算などで補っている。東京マラソンのような人気大会はスポンサーも揃うが、地方大会やトライアスロンなどになると、そうもいかず、主催者の苦悩は絶えない。

 

 そんなわけで、もともとかなり厳しい大会運営に、現在のインフレは相当な打撃であることは言うまでもない。そんな状況を反映し、今年はマラソンやトライアスロン大会の中止、休止が目立っている。ただでさえ厳しいのに、コロナ禍でエントリーにも陰りがあると、耐えきれなくなっているというのが現状だろう。

 

 エントリーフィーの値上げに移行したいが、そうすると申込者数が減るのが懸念される。すると、ますます大会運営が厳しくなるという悪い循環に陥っている大会も少なくない。耐えるのが得意なランナーやトライアスリートの大会にとって、厳しい耐えどころを迎えている。

 

 スポーツの世界にも押し寄せるインフレの波。

 この荒波を乗り越えていくためには一般社会同様、様々な知恵比べが必要だ。

 そして、愛好者が積極的に参加することで応援していかなければ、大会の数が減っていくことになってしまう。

 

 さぁ、エントリーして、走って、盛り上げないと!

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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