初戦は早い時間帯で相手が10人になった。2戦目は勝手知ったる古巣が相手だった。わたしは子供のころからチームのファンで、しかも、日本人である。だから、割り引いて考える必要があるのかもしれない。

 

 ただ、それにしてもボルシアMGの板倉滉が素晴らしい。

 

 長年、日本の最終ラインはサイズの問題を抱えていた。世界では1メートル90台が珍しくない時代になっても、日本では1メートル80台が精いっぱい。W杯ドイツ大会でオーストラリアのヒディンク監督が成功して以来、接戦で迎えた終盤はパワープレーで日本に向かってくる対戦相手が増えた。

 

 もちろん、日本の側も無策だったわけではない。年々、最終ラインは大型化し、最近ではオーストラリアや韓国もパワープレーを仕かけてくることは少なくなった。彼らがスタイルを変えたから、という見方もあるだろうが、そもそも日本相手の力攻めが効果的ではなくなったことも、彼らに変化を促す一因だったのではないかとわたしはみる。

 

 ただ、ここ10年の日本の変化は、弱点をそうではなくすること、であって、武器にする、というところまではいっていなかった。

 

 だが、グラッドバッハでの板倉は違う。彼は、チームの中で最高のストロングヘッダーとして使われている。相手が入れてくる長いボールを率先してはね返すだけでなく、敵陣でのセットプレーでは得点源としても期待されていた。

 

 それだけならば、いわゆる鈍重な巨漢タイプでもこなせる仕事なのだが、板倉の場合は攻撃の初期段階を構成する役割も任されている。GKがボールを持っても、CBのパートナーがボールを持っても、中盤の底に下りてきた選手がボールを持っても、ほとんどの場合、パスをする選択肢の優先順位第1位には板倉の名前が刻まれている。理由は簡単。ひいき目を覚悟で言わせてもらうと、板倉のパス成功率と質が、ブンデスリーガの名だたるCBたちと比較しても、相当に上にランクされるからである。

 

 その証拠に、と言ってはなんだが、2-1と逆転して迎えた対シャルケ戦の終盤、グラッドバッハのファルケ監督は長身のCBを投入し、板倉を中盤にコンバートした。ブンデスではあまり見たことがない類いの選手交代だったが、それだけ、監督が板倉のフィード能力、あるいは中盤で相手の攻撃の芽を摘み取る能力を高く評価しているということなのだろう。

 

 こんな日本人DFは、かつていなかった。いや、「DF」と括ってしまうと、板倉本人からすると心外かもしれないが、これほど高い水準でDFの仕事をこなしつつ、ボール保持にも貢献できることを証明した日本人選手はいなかった。

 

 おそらく冨安にも同じことはできるはずだが、彼の場合、チームから求められていない面がある。つまり、アーセナルは冨安のさらなる一面を求めなくても回っていくが、グラッドバッハの場合、板倉なくしては守りも攻撃も始まらない、ということだ。

 

 まだリーグは始まったばかり。板倉の評価や使い方がこれから変わってくる可能性はもちろんある。ただ、もしW杯が来週開幕するならば、そして日本代表の最終ラインに彼の名前がなかったとしたら、まずはドイツのメディアが驚愕することだろう。いまの板倉は、それほど、である。

 

<この原稿は22年8月18日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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