最高の準備は最高の“前線基地”から
森保ジャパンがカタールワールドカップ(11月20日開幕)で拠点を置く“前線基地”の評判がいい。
今回使用するのは首都ドーハの強豪クラブ「アルサッド」の施設。現在は古巣バルセロナの指揮官を務めるスペイン代表のレジェンド、シャビが現役最後にプレーしたクラブとして知られ、資金力も十分にある。予想に違わず、素晴らしい施設のようだ。
天然芝は4面あり、日本代表はそのうちの2面を使用できる。何よりもクラブハウスの最新施設を独占できるのが大きい。トレーニングジムやロッカールームもさることながら、今回のワールドカップはグループリーグを中3日で回していくため、交代浴ができるバスルームやメディカルルームなど疲労回復を促進できる十分な設備はチームの助けとなるだろう。
ワールドカップ出場を決めた後、森保一監督に「望むベースキャンプ地の条件」を尋ねたところ、このように応じた。
「僕が(日本サッカー協会に)リクエストしたのは、宿泊先と練習場の距離が近いというところだけです。その移動時間が長くなるとストレスになってしまう可能性がある。できるだけいい準備をして練習に臨み、練習が終わったら施設でトリートメントしてホテルに戻ったらリフレッシュできることが大切だと考えています。練習のオンとプライベートのオフをしっかりつくることができるように、と」
宿泊ホテルから施設までの距離は車で15分ほど。まさに指揮官のリクエストどおりであり、4月の組み合わせ抽選後に視察して正式に決定している。
日本は1998年のフランスワールドカップ以降、ずっと出場を続けてきたとあって“前線基地”選びなどの準備はいつも迅速だ。
森保監督はこうも語っていた。
「協会のスタッフにはこれまでのノウハウがあるので、予測と想像力を持って事前の準備をやってくれています。そのスムーズさには私も驚くほど。スタッフが考えてくれたこと、計画してくれたことをもとにみんなでディスカッションをして決めていくという形。それもこれもフランスから積み上げ、脈々と受け継がれたものなんだなって実感しています」
ベスト16まで勝ち進んだ前回のロシアワールドカップではモスクワから東に約800kmに位置するカザンにある強豪クラブ「ルビン・カザン」の施設を確保した。ピッチ8面の巨大な敷地を有し、サウナ、プール、ジェットバス、アイスバスなどがクラブハウスには完備されていた。筆者も取材で訪れたが、周りは塀に囲まれていてとても静かな環境で、選手たちも周囲を気にすることなくトレーニングに集中できていた。
ここ2大会はブラジル、ロシアと広大な国土を誇る国での開催が続き、試合間移動の負担や試合環境を考慮して「空港に近い」「試合会場の気候面と同条件」などもマストであった。ただ今回のカタールはどの会場もドーハの中心部から車で30分ほど。長距離移動が少ないということは、“前線基地”で過ごす時間もこれまでの大会より長くなる。最高の施設を確保できた意味は極めて大きいと考える。
これまでのワールドカップとの大きな相違点は11月開催で準備期間がほぼないこと。欧州の主要リーグは11~13日に中断となるため、開幕まで約1週間しかない。日本と同グループに入るドイツ代表はバイエルン・ミュンヘン、スペイン代表はバルセロナが主体だと考えると、各クラブからバラバラに集まる日本には不利な条件にも思えてくる。
しかし森保監督の反応は違う。
「日本人選手は適応能力が高く、目の前のことに向けて協力しながら合わせていくことができる。すぐに同じ絵を持てる能力って言うんですかね。準備期間がないとしても準備力のメリットを活かせれば逆にパワーに変えられるんじゃないかと僕は思っています」
列強との実力差を埋める、日本の準備力。
最高の“前線基地”だからこそ最高の準備も可能となる。