今オフから始まる「現役ドラフト」に注目している。

 

 

<この原稿は2022年9月16日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>

 

 これは出場機会に恵まれない選手の移籍を促すことで球界を活性化させようとの試みだが、もっと早くスタートさせてもよかったくらいである。

 

 メジャーリーグには「ルール・ファイブ・ドラフト」と呼ばれる現役選手を対象とした独自のドラフト制度がある。いわゆる“飼い殺し”を防ぎ、人材の流動性を担保するための制度だが、40人枠に入っている選手や、在籍年数が4シーズン(18歳以下で入団した選手は5シーズン)に満たない選手は指名することができない。

 

 近年の成功例としては、ブルージェイズの球団連続試合セーブ記録(31)保持者のジョーダン・ロマノ、パドレスで12年に盗塁王に輝いたエバース・カブレラ、ロイヤルズでオールスターゲームに2度選出されたホアキム・ソリアらがあげられる。

 

 日本のプロ野球が、これまで「現役ドラフト」の導入に後ろ向きだった理由の背景に、この国独特の“一所懸命主義”があるような気がしてならない。

「一所懸命」とは、中世、武士が心のよすがとした言葉である。日本国語大辞典によると「一所の領地で、死活にかかわるほど重視した土地」。それが転じて「一生懸命」になったとも言われている。

 

 そのようにして連綿と受け継がれてきた思考は、そう簡単に改まるものではない。それが証拠に、日本のプロ野球では未だにトレードは“放出”であり、通告を歓迎しない選手が多いのも事実である。

 

 古い話で恐縮だが、アイドル顔負けの容貌を誇り、甲子園で活躍した後、ドラフト1位で1975年に巨人に入団。5年目にローテーション入りし、82年には自己最多の15勝をあげた定岡正二は、85年オフ、近鉄のキャッチャー有田修三とのトレード通告を拒否して、そのまま引退した。まだ29歳、これからという年齢だったにも関わらず、定岡にとっての“一所”は巨人しかなかったのである。

 

 また、プロ野球に限らず、この国の組織は“生え抜き”を重視する。それに対し、ヨソからの転職組は“外様”だ。プロ野球ではトレードやFAでやってきた選手が、それにあたる。

 

 しかし、いつまでも“一所懸命主義”や“生え抜き重視主義”にこだわっていたのでは、チームは活性化せず、生産性も高まらないだろう。現役ドラフトは人材の有効活用を推進する意味でも有益だ。プロ野球に新風を吹かせてもらいたい。

 


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