サッカー日本代表はドイツ遠征でアメリカ代表、エクアドル代表と親善試合を行いました。前者には2対0で勝利、後者には0対0で引き分けました。とりわけ、2戦目に先発したGKシュミット・ダニエル(シントトロイデン)はPKをストップするなど大きく株を上げました。

 

 まずはシュミットのハイライトを紹介しましょう。前半終了間際のエクアドルの右CKでした。ニアに鋭いボールが来てヘディングで合わされました。シュートは枠をとらえていましたが、シュミットが右手を伸ばし、無失点でハーフタイムに入りました。

 

 見せ場は後半38分でした。PKのピンチを招きましたが、FWミカエル・エストラーダのキックにドンピシャリのタイミングで右に飛び、窮地を救いました。その2分後にはFKからクロスを放り込まれ、エストラーダに頭で合わせられ、ゴール右角にシュートが飛びましたが、またしてもシュミットが右手でボールをかき出してピンチを救いました。197センチの身長を十分に生かしたセーブでした。

 

 特にPKの場面では並々ならぬ気迫を感じました。このビッグセーブは彼の今後のサッカー人生を大きく左右するかもしれません。あのワンプレーで周囲の選手の信頼を勝ち得たと言っても過言ではありません。

 

 GKが信頼されているか否かでフィールプレーヤーの守備が変わってきます。信頼できるGKだと前線から積極的にプレスをかけられる。一方で、まだ信頼を勝ち得ていないGKの場合、DFは勇気をもってラインをあげられません。そうすると中盤もFWのラインも全体的に下がってしまう。するとDFと中盤の間に空いたスペースを相手に使われてしまうのです。

 

 センターバックのシュートブロックにも随分、影響します。シュートを打たせるにしても、センターバックの僕が思い切ってファーサイドのコースを切る。そうすればニアにシュートが飛んでもGKがカバーしてくれます。信頼関係がないとDFのポジショニングが中途半端になり、ファーとニアの両方が空いてしまう。するとGKも中間ポジションを取らざるを得なくなりシュートストップの可能性がかえって低くなるんです。

 

 あの1戦、あのワンプレーでシュミットは大きな信頼を勝ち得ました。しかし、あの一瞬を生むためには、チャンスに恵まれなかろうとも腐ることなく常に準備を怠らない姿勢が非常に重要なんです。これがどんなに難しいことか……。守護神のポジション争いがここにきて目が離せなくなりました。エクアドル戦で、シュミットが波に乗ったのは間違いないでしょう。彼の今後の勢いに、注目しましょう。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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