伊藤数子: 御社はパラスポーツに特化したサイト「SPORTRAIT」(スポートレイト)を2015年に立ち上げています。

大川誠: 前年にスポーツ専従社員制度ができ、まずその第1号である車いす陸上の渡辺勝を応援していこうということなりました。この頃、既にパラリンピックの東京開催が決まっていましたが、パラスポーツの観戦経験がある人は少なかった。そこで弊社として何ができるのかと考えた時、パラスポーツの面白さを伝えるためのコンテンツをつくろうと始めたのがSPORTRAITです。スポーツを応援するというやり方はいろいろあるのですが、弊社は印刷会社でデジタルコンテンツも手掛けてきました。だから自分たちでメディアをつくり、発信していくということも、弊社らしいやり方なんじゃないかと……。

 

二宮清純: なるほど。大川さんがパラスポーツに関わるようになったのは、この頃でしょうか?

大川: そうですね。私もプロジェクトメンバーとして、立ち上げ当初のサイト制作に参加しました。実際に私もいくつかの取材や原稿作成などを行いました。車いすレーサーのエンジニア、義肢装具士、コーチなど選手を支える立場の方にお会いしましたが、自分が全く知らない世界のことだったので純粋に楽しかったですね。

 

二宮: 「純粋に楽しかった」というのがいいですね。

大川: はい。私の記憶が確かなら、初めて生で観たパラスポーツは、車いすラグビーでした。その激しさに本当に驚きましたし、迫力とスピード感にスポーツとして魅力を感じた。だからこそ、その魅力を多くの人に伝えていきたいと思ったんです。

 

伊藤: 社内での理解はスムーズに得られたのでしょうか?

大川: はい、そうですね。2012年から開催している労使共催の運動会「TOPPAN SPORTS FESTIVAL」では、15年からパラスポーツのコーナーを設け、体験イベントを行いました。またパラスポーツの体験会を弊社の北海道から九州まで全国7カ所の事業所で巡回しました。社内での理解促進はもちろん、各地でイベントを行うことで、社員以外の地域の人たちにもパラスポーツの楽しさを知っていただきたかった。実際に反応も良かったと感じています。それがきっかけとなり、地域の小学校からの依頼で、パラスポーツの授業を行うことにも繋がりました。

 

二宮: 印刷会社という枠にとらわれない、まさに御社のCMでのキャッチコピー「すべてを突破する」という気概が感じられますね。印刷会社がスポーツに力を入れるというのは、とても新鮮に感じます。パラスポーツの分野で、御社の得意とするデジタル技術などを利用することで解決できる問題もあるはずです。

大川: そうですね。弊社はイベント事業におけるデジタル表現技術を駆使した演出やコンテンツ制作の実績を積み重ねてきました。プロジェクションマッピングやデジタルサイネージを使った空間演出に加え、4K映像やVR/ARを使ったコンテンツも数多く手掛けています。こうした先進的なデジタル技術を応用できれば、何かお役に立てることもあるかもしれません。

 

 社会課題解決という存在意義

 

伊藤: 御社は特例子会社の東京都チャレンジドプラストッパン株式会社を比較的早い時期につくられましたよね。

大川: 社会的価値創造企業を目指しているという社風も大きかったと思います。1986年に男女雇用機会均等法が施行されて間もない頃、弊社では大卒女性の定期的採用を開始しました。1992年、育児休業制度がスタート。その翌年には介護休業制度の導入、障がい者雇用を中心とした特例子会社(東京都チャレンジドプラストッパン株式会社の前身)を設立しました。車いすユーザーのための情報をまとめたサイト『らくゆく®』の開発も東京都チャレンジドプラストッパン株式会社で働く車いすユーザーの社員が企画したものです。

 

二宮: 女子ラグビーの普及啓発や社会的価値向上を目指すコミュニティ活動として、「WOMEN’S RUGBY COMMUNITY™」(ウィメンズラグビーコミュニティ)を今年6月に発足されましたね。

大川: 弊社の女子ラグビーのスポーツ専従社員が応援のきっかけでした。これまで4人の女子ラグビー選手を雇用し、現在はラベマイまこと、谷口令子、髙﨑真那の3人が在籍しています。コミュニティのコアメンバーの1人は元々弊社に在籍していました。コミュニティではWEBサイトやSNSを通じ、女子ラグビーの様々な情報を発信しています。また選手が企画・運営に参加するラグビー教室なども開催しているんです。弊社としては、女子ラグビーの発展をサポートすることで、スポーツ振興、女性スポーツの社会的価値向上にも貢献したいと考えています。

 

二宮: 共生社会実現という観点では、健常者と障がいのある人との壁をいかに低くしていくかに加え、ここ数年でジェンダーの問題が議論されてきています。こうしたジェンダーのみならず社会的な動き、流れを企業としてどうとらえているのでしょうか?

大川: 弊社として、社会課題に対する取り組みは企業として進めていかなければ、そもそも存在意義がないのではないか、と考えています。「社会的価値創造企業」へのさらなる進化を目指し、ダイバーシティ&インクルージョンを重要な経営戦略の一つと位置付けていますから。社内でLGBTQへの理解を深めるためのセミナーを実施したり、ジェンダー格差の解消も目指したりしています。弊社としては社会にある様々な壁を突破していける企業でありたい。それをスポーツにおいても証明していければと思っています。

 

(おわり)

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大川誠(おおかわ・まこと)プロフィール>

凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 事業戦略本部 共創企画部 部長 兼 スポーツビジネスデザイン室ビジネス開発部。1972年、静岡県生まれ。1996年に凸版印刷(株)に入社。1999年から企業が行う環境やCSRを題材とした広報・コミュニケーションの企画・制作業務に従事後、自社(凸版印刷)のCSR推進を担当。2017年から、東京2020オリンピック・パラリンピックなどスポーツを題材とした社内の盛り上げ、対外リレーション業務を担当。現在はパラスポーツを応援する自社メディア「SPORTRAIT」の運営や、女子ラグビー選手が運営するコミュニティ「WOMEN’S RUGBY COMMUNITY™」を管轄。

 

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>>パラスポーツサイト「SPORTRAIT」


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