<視覚障がい者と健常者が共にスポーツを楽しむ共生社会を実現する>ことを目的に2019年に創立した日本ブラインドラグビー協会は、国際ルールと異なる国内大会の出場資格を設けている。障がいの有無に関わらず、誰もが参加できるのが特徴だ。その理由について、日本ブラインドラグビー協会の橋本利之会長は「みんなが混じりながら、楽しくやろうと思ったんです」と語る。まさに共生社会を象徴するような競技である。橋本会長にブラインドラグビーへの想いを訊いた。

 

伊藤数子: ブラインドラグビーの映像を視聴させていただきましたが、ボールを持って走っている参加者がとても楽しそうでした。国内で独自のルールを設けているそうですね。

橋本利之: 誰もが楽しめるということに重きを置いています。国内ルールでは参加資格のない全盲の方、障がいのない方が一緒にプレーできるようにしています。1チーム7人のうち5人以上視覚障がいのある人であればいい。障がいの壁を超えてやれるスポーツ。男女混合なので、誰もが参加できます。

 

二宮清純: ブラインドサッカーのフィールドプレーヤーやゴールボールはアイマスクをして同じ条件にするという考え方です。ブラインドラグビーは違うわけですが、これもまた面白いやり方ですね。

橋本: ありがとうございます。見え方は十人十色。普段の生活と同じ状態でプレーしてもらいたいと思ったんです。選手同士でそれぞれの障がい、特徴を理解した上で、声を掛け合いながらプレーをするのがブラインドラグビーの魅力です。

 

伊藤: 声のコミュニケーションは、とても重要ですね。声でボールの位置や選手の位置を把握するんですよね。

橋本: そうですね。その分、選手同士がコミュニケーションをたくさんとります。2019年10月に日本でブラインドラグビー発祥の地であるイングランド代表と試合を行った時、お客さんはシーンとしていた。「皆さん、もっと騒いで、楽しんで拍手をお願いします」と言ったら、ワーッと盛り上がった。

 

二宮: その点もブラインドサッカーとは違う。ブラインドラグビーは観客の声出しはOKなんですね。

橋本: 選手はボールの音は近くでなければ聞こえません。だから観客の方たちにはどんどん騒いでもらって、試合を楽しんでもらいたいんです。

 

二宮: ブラインドサッカーはディフェンスにいく選手が「ヴォイ」と声を掛けますが、ブラインドラグビーは「ター」だそうですね。

橋本: はい。ラグビーにおけるタックルの代わりに、ブラインドラグビーではボールを保持している選手のヒザの上から肩の下までの間に両手でタッチします。守備側が6回タッチすることで攻守が入れ替わります。そのタッチをする瞬間、「タッチ」と声を掛けなければいけないことから、「ター」となりました。

 

 スタートラインに立ったばかり

 

二宮: ラグビーだと激しいボディコンタクトがありますが、ブラインドラグビーにケガの心配は?

橋本: 今のところ、全くないですね。ぶつかって転ぶことはありますけど、安全なスポーツだと思います。

 

二宮: 他に国際ルールとの違いはありますか?

橋本: 試合時間です。国際ルールは7分ハーフですが、我々は10分ハーフにしています。

 

二宮: それはなぜ?

橋本: シンプルに長くプレーをして欲しいという理由からです。

 

二宮: 国内のブラインドラグビー人口は?

橋本: 日本は国内に4チームあります。競技者登録は視覚障がいのない人を含めて約100人います。世界的に競技人口はまだ多くないんです。ヨーロッパ6カ国・地域とニュージーランド、日本を入れて8カ国・地域。ヨーロッパは代表チームがあるだけなんです。

 

伊藤: 2019年に日本ブラインドラグビー協会を設立されたばかり。まだ競技人口は少ないかもしれませんが、お話をうかがっていて、「楽しい」を大切にしていらっしゃるのが伝わってきます。

橋本: “楽しい”が一番ですから。選手も観客もわいわいやって欲しい。今後もブラインドラグビーの楽しさを知ってもらいたいし、それを前面に押し出して伝えていきたいと思います。日本ブラインドラグビーは4年目を迎えましたが、コロナ禍で1年半活動できなかった。それもあって、やっとスタートラインに立ったところ。これから足場をしっかり固めていきたいと考えています。

 

(後編につづく)

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橋本利之(はしもと・としゆき)プロフィール>

一般社団法人日本ブラインドラグビー協会会長。1960年、東京都出身。目黒高校(現・目黒学院高校)入学後にラグビーを始める。全国高校ラグビー大会(通称・花園)には3度出場。ポジションはプロップやロックを務めた。1983年、東洋大学経済学部卒業後、社会人ラグビーで3年間プレーし、指導者に転向。小学生から大学生、社会人まで、幅広く指導した。2019年4月、日本ブラインドラグビー協会を発足、初代会長兼ゼネラルマネージャーに就任。同年10月には、日本代表チーム「ブラインドラグビージャパン」を編成し、ブラインドラグビー発祥の地・イングランド代表と国際テストマッチを戦った。また各所でブラインドラグビー体験会も催している。

 

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