現在、パ・リーグは北海道日本ハムと千葉ロッテ、そして福岡ソフトバンクが首位を争っています。なかでも日本ハムは8月に8連勝するなど、昨年と同じような勢いが感じられ、優勝候補の筆頭に挙げられます。
 日本ハムが好調である最大の要因は、やはり投手陣の頑張りでしょう。中でも3年目のダルビッシュ有投手は素晴らしいですね。22日のオリックス戦では味方打線からわずか1点の援護しかもらえなかったにもかかわらず、相手打線を5安打に抑えて見事完封勝ちを収めました。

 24日現在の成績は12勝4敗、防御率1.94。特に目を引くのが奪三振数で、現在セ・パ両リーグでトップの166個を積み上げています。セ・リーグトップの内海哲也投手(巨人)が同じ21試合を投げて139個ですから、ダルビッシュ投手のすごさがわかります。

 とはいえ、彼は最初から三振の山を築けるような本格派ではありませんでした。どちらかというと変化球で打者をかわす、いわゆる技巧派のイメージの方が強いピッチャでした。それが昨年の後半からストレートの威力が増し、力で押していけるようになったのです。おそらく、体ができてきたからでしょう。

 今年のキャンプでさらに下半身を強化したことで、フォームのバランスが非常によくなりました。それと昨年までは投球前に既に力みが生じていたのが、今年はリラックスした状態で投球動作に入り、リリースする一瞬のみ力をボールに伝えるという理想的なピッチングができています。だからこそ、彼のストレートはケガをする前の岩隈久志投手(東北楽天)のようにバッターの手元でビュンと伸びるのです。

 今のところ、彼に関して課題は見つかりません。マウンドの表情を見ても、自信に満ち溢れていますし、今や日本一の投手といっても過言ではないでしょう。ただ一つ怖いのはケガです。ケガさえしなければ、おそらく今年は最多勝をはじめ、投手部門を総なめするのではという期待さえ感じられます。

 そのダルビッシュ投手にひけをとらないほどの好成績を収めているのが、成瀬善久(ロッテ)投手です。4年目の今年、成瀬投手は念願のローテーション入りを果たし、貴重なサウスポーとしてチームを牽引しています。現在、11勝1敗と自身初の2ケタ勝利を達成。防御率は1.70とライバルチームの大黒柱であるダルビッシュ、武田勝、グリンの3投手をも凌ぎ、セ・パ両リーグトップを誇っています。

 成瀬投手は2年間のファーム暮らしを経て昨年1軍に上がり、13試合を投げて5勝5敗という成績を残しました。これが彼の自信となったのでしょう。マウンド上でも飄々としていて、全く気負いを感じませんし、思い切って腕を振ることができています。

 彼の特徴としては、腕が遅れて出てくるのでボールの出どころが見えず、タイミングをとりにくいという点が挙げられます。バッターはピッチャーの腕の振りを見ながら、タイミングをとります。例えば「1、2、3」とタイミングをとるとしましょう。普通のピッチャーであれば、「1、2、3」の「3」で打てばいいのですが、成瀬投手のボールは腕の振りよりもやや遅れ気味に出てきます。そのため「1、2、3」の「3」でバットを出しても、タイミングがずれてしまうのです。

 7月のオールスター第2戦では2イニングを投げましたが、6人のバッター全員に全球ストレート勝負で挑み、三振こそ奪えなかったものの、ノーヒットに抑えました。彼のスピードは140キロそこそこです。しかし、コントロールが非常にいい。加えて変化球のキレも抜群です。だからこそ、これまで1点台の防御率を保ち続けているのです。彼を見ていると、ピッチングはスピード以上にテクニックが重要なんだ、ということを改めて思い知らされます。

 ペナントレースもいよいよ終盤にさしかかり、どのチームもプレーオフ進出に向けて躍起になっています。日本ハムはダントツの勢いこそあるものの、最近は攻撃陣に元気がありません。一方のロッテはエースの清水直行投手が勝ち星を伸ばすことができずにいます。こうした状況の中、ヒルマン監督もバレンタイン監督もダルビッシュ、成瀬の両投手がそれぞれチームの柱となって頑張ってくれることを大いに期待していることでしょう。チームの優勝もさることながら、個人タイトル争いも楽しみな2人に、今後も注目したいと思います。
 


佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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