日本のプロ野球同様、メジャーリーグもレギュラーシーズンは残すところあとわずかとなり、最後の熾烈な争いが繰り広げられています。そんな中、アメリカン・リーグでは22日(現地時間)、ボストン・レッドソックスがタンパベイ・デビルレイズに逆転勝ちし、2年ぶりのプレーオフ進出を決めました。当然、日本でも注目されることでしょう。
 そのプレーオフ進出を決めたデビルレイズ戦に先発登板したのが、松坂大輔投手です。結果は6回2/3を投げて5失点。降板した時点ではレッドソックスがリードしていましたから、日本人の新人投手としては最多となる15勝目の可能性がありました。しかし、2番手のハビエル・ロペスが逆転の3ランを打たれてしまい、勝ち投手の権利を失いました。

 最近の報道でもよく言われていますが、ここにきて松坂投手はなかなか結果を出すことができずにいます。最大の原因は、やはり疲労の蓄積によってフォームのバランスが崩れてしまっていることにあります。本来であれば、どの球種でもストライクをとれるほどコントロールのいい松坂投手ですが、今はそれができず、必ず相手にビックイニングを与えてしまっています。勝敗に関係なく失点が多いのはそのためです。

 ペナントレースが進むほど疲労と戦わなければならないのは、ピッチャーもバッターも同じです。ところが、メジャーのバッターは夏を境にしてどんどん調子を上げてきます。特に優勝争いをするようなチームのバッターは、その傾向が顕著でプレーオフに向けて本領発揮するのです。松坂投手が苦戦するのも無理はありません。

 おそらく疲労度は松坂投手本人が思っている以上ではないかと思います。これまでも疲労がたまり、失点が多くなることはありました。しかし、慣れ親しんだ日本では経験によって得た対処法が確立されていました。ところが、メジャー1年目である今年はそう簡単にはいかないでしょう。なぜなら、登板間隔一つとってもメジャーと日本は違います。加えて移動距離や気候など、あらゆるものが異なるわけですから、調整方法も日本の時と同じようにはいかないわけです。

 レッドソックスの首脳陣もそんなことは百も承知。ですから今、調子が上がらないからといって松坂への信頼が揺らぐことはないはずです。レッドソックスの投手の柱は今やエースのジョシュ・ベケットと松坂の2人と言っても過言ではありません。プレーオフでベケットに続いて第2戦に登板することが決定したのは、その何よりの証です。

 ですから、焦ることは全くありません。とにかく、プレーオフに向けて調子を上げていくことだけを考えていけばいいと思います。そのためには、疲労回復とともに自分のピッチングを取り戻すことが重要です。これまでは球数を考えて、早いカウントで勝負しようという姿勢が見られましたが、今の時期は球数を気にしなくてもいいと思います。たとえ勝負に時間をかけたとしても、彼への評価は変わらないでしょう。

 それよりも、自分のピッチングを再確認することのほうが大事です。今の松坂投手を見ていると、なんだか持ち球を出し惜しみしているように感じられます。豊富な球種で勝負できるのが本来の松坂投手のはずです。キャッチャーのサインに首を振ってでも自分のスタイルを貫いてもらいたい。彼はそれだけの実績を残しているのですから。

 来月早々にも始まる地区シリーズでは、このままレッドソックスが東地区で優勝すれば、西地区覇者のロサンゼルス・エンゼルスと対戦することになります。エンゼルスには2004年にア・リーグMVPに輝いたブラディミール・ゲレーロがいます。25日現在、打率3割2分3厘、34本塁打をマークし、ア・リーグの打点部門では3位に入っている強打者です。

 エンゼルスとは初対戦となる松坂投手。「これが松坂だ」というピッチングでゲレーロをはじめとした強打者たちをキリキリ舞させる姿を観たいですね。



佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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