「私の強みはドライバーが曲がらないこと。コントロールには自信があります。それ以外は普通です」

 中野なゆは、プロを目指す若手女子ゴルファーのための大会『マイナビネクストヒロインゴルフツアー』で今季、フェアウェイキープ率が80.8%だった。ランキングは5位であるものの、上位4人は1試合のみの数字。複数試合に出場した選手で、8割を超えるのは中野だけである。彼女の安定したショットは、“我流”のスイングがベースとなっているという。

 

 高知県で生まれた中野。幼少期の自身を「ヤンチャだったと思います」と振り返る。「男子とも一緒に外で走り回っているタイプでした。かけっこやマラソンでも“負けたくない”と思っていましたね」。根っからの負けず嫌い。運動神経が良く、身体を動かすことが好きだった。運動会ではリレーの選手を任された。母・昌子によれば、「例えば七五三の時に、着物を着ながら三輪車をガーッと漕いでいるような活発な子でしたね」という。

 

 ゴルフを始めたのは6歳。きっかけは母・昌子の友人の娘がKochi黒潮カントリークラブでのゴルフ大会に出場するため、会場に応援に行ったことだ。中野は仲の良い“お姉ちゃん”のプレーを見て、「ゴルフをやってみたい」と両親にねだった。「自分から何かやりたいと言ったのは、ゴルフが初めてだったと思います」と母・昌子。「手探り状態でした」。両親ともにゴルフの素人だった。ジュニアの選手を見てくれるレッスンプロがいるゴルフ練習場を探すところからスタートした。

 

 初めて練習場に母親と行った時のことは、中野の記憶に残っている。

「クラブがボールに当たるし、楽しかった。レッスンプロの方も『上手いね!』と褒めてくれた。その時に『続けたい』と母に言ったと思います」

 練習場への送迎、クラブの購入など、両親のバックアップは必須である。ゴルフ未経験者の父親は娘と同じタイミングでゴルフを始めた。中野は「子どもの方が、成長が早いので時に私が父にゴルフを教えていたこともありましたね」と語り、笑顔を見せた。

 

 平日はほぼ毎日のように練習場に通い、手にマメができるほど打ち続けた。週末はゴルフ場のコースを回る。スイングは我流だったが、レッスンプロから手を入れられることはなかった。小学生時、高知、四国大会で上位に入り、全国大会にも出場した。それでも中野は浮足立ったり、天狗になったりはしなかったという。

 

「上手い、強いとは思わなかった」

 

“少しくらい勘違いする時期もあったのでは”と思い、そのことを私が尋ねると、彼女からはこう返ってきた。

「自分では上手いだの強いだのと、あまり思わなかったですね。“ライバルに勝ちたい”という意識だけで、自信はなかった。全国大会では“勝てるわけはない”と思っていました。四国の大会で上位にいくことはありましたが、全国大会で勝てなくても落ち込むことはありませんでした」

 

 全国大会に出場するほどの力を付けていく一方で、中野には公園で遊ぶ同級生たちが眩しく映っていた。小・中学時代は「ただゴルフをやっていた」という記憶が残っている。「段々ゴルフが嫌になって“友達と遊びたい”という気持ちが強くなっていった。それが理由で親とケンカしたこともありました」。この頃は、中野自身の中で、ゴルフは習い事の一環に過ぎないという認識があったのではないか。

 

 小学校を卒業するタイミングで、書道、そろばん、ピアノ、水泳、器械体操といった他の習い事を辞め、ゴルフ一本に絞った。

「書道はあまり得意でないのですが、そろばんは今でもゴルフに生きています。距離を計算する時、頭にそろばんが浮かぶ。やっていて良かった。親に感謝ですね」

 進学した高知中にゴルフ部はなく、引き続き、ほぼ“我流”で自らの腕を磨いた。

 

 本人曰く「反抗期だった」という中学時代。14歳で両親が離婚し、中学は高知中から行川中に転校するなど環境は目まぐるしく変わった。ゴルフは四国大会で優勝するなど好成績を残していたが、「調子が良かったから勝てたという感じでしたね」と、ここでも浮かれることはなかったという。

「この頃は試合に出れば、当然“勝ちたい”とは思っていましたが、“絶対プロになる!”といった強い気持ちはなかったですね」

 

 どこか淡々とゴルフに向き合っていた中野。徐々に、その想いが変わっていくのは高校に進学してからである。

 

(第3回につづく)

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中野なゆ(なかの・なゆ)プロフィール>

1999年6月25日、高知県高知市生まれ。6歳でゴルフを始める。小学生から高校までで国民体育大会に2回出場するなど、全国大会には13回出場した。高知県ゴルフジュニア選手権は2回、四国のジュニア大会は3回優勝。高校卒業後、関東に拠点を移し、ゴルフ場の研修生キャディーなどを経て、現在は日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)のツアープロを目指している。今年4月にプロを目指す若手のための大会「マイナビネクストヒロインゴルフツアー」の開幕戦を制した。今季は安定した成績を残し、同大会の賞金ランキング2位、ポイントランキングで3位に付ける。11月17日からのファイナル進出を決めている。平均飛距離は230yard。得意クラブはパター。身長155cm。

 

(文・写真/杉浦泰介)



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