「プロに行けなかったというのは、まだ努力が足りなかったのだと感じています」

 自身4度目のプロテストに挑戦した中野なゆは、悪天候で初日からサスペンテッドとなるなどタフな戦いとなった4日間を冷静に振り返った。11月1日から4日にかけて茨城・大洗ゴルフ倶楽部で行われた日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)最終プロテスト、合格者20人の中に「中野なゆ」の名はなかった。

 

 今年は1次予選から649人がエントリーし、合格率はわずか3%だった。毎年3%台だという合格率。これは司法試験、行政書士、公認会計士といった国家試験よりも低い数字である。その合格率の低さが「東大合格よりも難しい」と言われる所以なのだ。狭き門に挑むゴルファーたちの数百名が毎年涙をのんでいることになる。

 

 中野は1次を5位タイ、2次を7位タイで通過し、4度目の挑戦で初の最終テストに進出した。アウトスタート(10番ホール)となった初日、いきなり5連続ボギーと出遅れた。それでも17、18番で連続バーディー。後半の3番ホールのグリーン、バーディーチャンスを得たところで悪天候により、サスペンテッドとなった。

 

 調子が悪い中での順延ならば、次の日に切り替えようと考えられるかもしれない。だが、中野は巻き返しを図っていたタイミングで水を差されたかたちとなった。「私は昇り気味だったので、“マジかぁ”という感じでしたね」。不調の原因はスイングだった。「緊張でスイングに悪いクセが出ていた」と本来は得意とするコントロールが定まらなかった。2日目は1日目の順延分7ホールに加え、18ホールを回り、25ホールも回った。

 

 通算4オーバーで50位タイ。合格ラインの約20人(20位タイ)までは5打差で3日目を迎えた。「3日目で(合格ラインに)潜れたら4日目に戦えると思ったので、勝負の日でした」。しかし、ノーバーディー、3ボギーでスコアを落とし、60位タイに。「ここぞの場面で結果を残せなかったので、その日は落ち込みました」と振り返った。結局、4日間を終えて16オーバーの75位タイ。合格ライン(今回は18位タイ)には届かなかった。

 

 前を見据える芯の強さ

 

 最終プロテスト翌日、「来年も挑戦しますか?」と問うと、「もちろんです」と力強い答えが返ってきた。

「来年は合格できるように、そして合格後もプロで通用するように身体づくりをしていきたいです」

 合格を逃し、悔しくないはずがないだろう。それでも気落ちする様子を見せず、前を見据える彼女に芯の強さを感じた。

 

 男勝りで負けん気が強い女性を、土佐弁で“はちきん”と呼ぶ。そのせいか、高知の女性は気が強いと捉える人も少なくない。高知県出身の中野も例に漏れず、「顔を見ただけで『気が強そうだね』と言われたことがあります」という。「実際にはどうなんですか?」と聞くと、「おっしゃる通りだと思います」と笑顔で答えた。

「昔は何でもピンを狙うし、パターも強気に打っていました。ボギーやダボ(ダブルボギー)を打つと、すぐ顔に出て怒りモードになっていましたね」

 

 四国出身のプロゴルファーと言えば、21年のマスターズを制した松山英樹(愛媛)、日本ゴルフ界のレジェンド・ジャンボ尾崎こと尾崎将司(徳島)、賞金女王に2度輝いた鈴木愛(徳島)、JLPGAツアー1勝の森田遥(香川)、日本ゴルフ協会(JPGA)ツアー3勝の片岡大育(高知)らが挙げられる。兄弟、姉妹選手では、将司・健夫・直道の尾崎三兄弟、JLPGAツアー1勝で“黄金世代”の1人である結と今年JPGAツアー2勝を挙げた力の河本姉弟(愛媛)、共にJLPGAツアー2勝の奈津佳・琴音の堀姉妹(徳島)などが代表格だ。ゴルフが盛んとは言えないまでも、無縁な地域では決してない。

 

 中野は高知県高知市で生まれ育った。幼少期から「負けん気が強かった」というが、6歳で始めたゴルフでも、その性格が発揮されたのかと思えば、彼女は「小さい頃、ゴルフに本気だったのは親の方だと思います」と口にする。中野とゴルフとの出合いとは――。

 

(第2回につづく)

 

中野なゆ(なかの・なゆ)プロフィール>

1999年6月25日、高知県高知市生まれ。6歳でゴルフを始める。小学生から高校までで国民体育大会に2回出場するなど、全国大会には13回出場した。高知県ゴルフジュニア選手権は2回、四国ゴルフジュニアゴルフ選手権は3回優勝。高校卒業後、関東に拠点を移し、ゴルフ場の研修生キャディーなどを経て、現在は日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)のツアープロを目指している。今年4月にプロを目指す若手のための大会「マイナビネクストヒロインゴルフツアー」の開幕戦を制した。今季は安定した成績を残し、同大会の賞金ランキング2位、ポイントランキングで3位に付ける。11月17日からのファイナル進出を決めている。平均飛距離は230yard。得意クラブはパター。身長155cm。

 

(文・写真/杉浦泰介)



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