世界で最も南で開催されるマラソンをご存じだろうか?

 

 そう聞かれると、北半球に住む日本人はついつい「南=暑い」と想像し、南の島のマラソンをイメージする方が多い。しかし、この地球上で最南端は南極。そう、つまり南極で行われているマラソン「Antarctic Ice Marathon」が最も南で開催されているマラソンとなる。

 

 いや、ちょっと待って、雪と氷に覆われた南極でマラソン? と誰もが驚くが、2006年から始まり、すでに16年の歴史がある。ちなみに南極があるならやはり北極にも「North Pole Marathon」というのがあり、北限でも南限でも人は走っている。

 

「マイナス20度より寒い場所でマラソンができるのか?」。その好奇心から人は走りたくたくなる。もちろん通常のマラソンと比べものにはならないが、そんなところでも、人間は工夫と訓練次第でできるという先人たちが証明してきたことを、自分でも確認したい。

 

 だからこそ、僕もそんな世界に憧れがあった。42.195kmをどれだけ速く走るのかというマラソンの楽しみ方もあるが、普段行けないような場所で、普段は見ることのできない景色を見てみたい。その状況で自分が何を感じ、どうなっていくのかを知りたい。心の中にあるそんな欲求を満たすべく、世界中のアイアンマンやアドベンチャーレースに出てきたといっても過言ではない。

 

 そんな僕の挑戦心を刺激する場所に出会った。北海道の別海町。酪農と漁業が盛んで生乳生産量は日本一。広がる豊かな大地と海は美味しい場所であることは間違いないのだが、それ以上に惹かれたのが凍った海。まるで広い雪原のような場所は野付湾の内海で、水深が浅いこともあり冬の間は凍り付く。地元の方にとっては、スノーモービルで行き交い、ワカサギ釣りをする場となっている。

 

 前例なき挑戦だから

 

 この地に人を呼びたいとの町の要望を受けていた僕は、何かできないものかと考えた。他にはないこの広い場所こそが魅力的に映った。こういう時は自分がワクワクするかどうかが大切。すると心の中から「アイスマラソンだ!」が湧いてきた。早速、周囲に話したものの、あまりに突拍子もない発想に戸惑い気味。それでも南極の事例などを説明しながら話していくと、町長までが面白がってくれた。

 

 もちろん面白がってくれたとしても、実現には多くのハードルがある。日本では開催したことがない厳寒下のマラソン。コースはすべて海の上である。誰がどこをどうしたらできるのかも見当がつかない。でも、前例がないことは自分次第ということでもあり、こんなに楽しいこともない。さっそく地元のNPO有志と動き出す。

 

 すると面白いもので、コンサバに見えた町の中で、興味を持ってくれた役場や漁業関係者など様々なところから声をかけてもらえるようになった。さらに地元の自衛隊関係者ともお話ができ、説明すると、「いや~僕たちも想像つかないですね」と難しい表情だったが、最後には「でもこれ面白いですね。隊の中にも興味を持つ者がいますよ。ぜひ!」となんだか協力に前向きな返答をいただいた。

 

 そんなこんなで、11月、正式に大会実行委員会が立ち上がり、発表、募集をしたら予想以上に反応があった。だんだんと後に引けない状況に……。まだまだ準備すべきことは山積しているが、前例がないだけに様々な状況を想像しながら検討するしかない。

 

 北極冒険家から、地元の漁師、自衛隊など多くのスペシャリストのアドバイスをいただきながら日々進んでいるような状態である。そしてそんな第1回大会は2023年2月12日の開催。

 さあ、日本で初めてのIce Marathon、日本で初めて陸地を一度も走らないマラソン大会。こんなアホらしい企画が進んでいるとは、まだまだ日本も悪くないぞ!?

 

 どんなゴールが待ち受けているのか分からないけど、その分からない感覚を楽しんでくれる挑戦者募集中。

 もちろん、我々もそんな未知の感覚を楽しみ、大切にしながら準備を進めていきます!

 

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白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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