(写真:この憧れのフィニッシュも景色が変わる!?)

 変化とは、物事の状態・位置・形といった特徴や性質が、変わったりすること。

 自然の造形物はともかく、人が生み出し創り出したものは、環境や状況に応じて変わっていくのが世の常だ。会社や団体はもちろん、伝統芸能やスポーツも当然変化していくわけで、それを否定すると消えていく恐れもある。つまり生き残るために、変化していくというのは当たり前で、生物でさえ変わっていくものだ。

 

 それでも人は変化を嫌い、変化を恐れる。歴史を振り返っても「変わろう」という意見は、往々にしてマイノリティーで変人、蛮人扱いされるところから始まる。人はわからないことを恐れ、そして変化というものは、わからないことをたくさん生み出す。人はしばしば無意識のうちに、なんとかして変化を避けようとして、留まることに正論を見出そうとするのものだ。

 

 そんな中でもがき、議論してスポーツが変化している。
 まず、最近一番驚いたのは近代五種の種目変更だ。11月初旬に「馬術を外して障害物レースに」という報道が入ってきた。1912年ストックホルム大会から五輪入りしている歴史のある近代五種は、フェンシング、水泳、馬術、ランニング、射撃という五種目の総合力で競う競技だったのだが、2008年の北京大会以降、競技の短縮化に伴いランニングと射撃を組み合わせて、レーザーランという冬季競技のバイアスロン(クロスカントリースキー×射撃)のような種目に変更された。

 

 これでは「近代四種?」という声もありながら競技を変化させたわけだ。それでもハードルが高い競技であることに間違いはなく、競技人口の減少、開催の難しさなどから五輪競技としての存続が危ぶまれていた。そんな状況を打破するための変化として、馬術を外し、障害物レースを加えるという決定がなされた。障害物レースとは分かりやすく言うと「SASUKE」のようなもの。五輪競技が、ルールなどを改正するのは珍しくないが、ここまで画期的な競技内容の変更は珍しい。それだけ競技関係者の中に危機感があったということだろう。

 

 そして今週入ってきたニュースがFINA(国際水泳連盟)の名称変更だ。もともとFINAとは フランス語の、「Fédération Internationale de Natation」の略。「Natation」とは競泳選手を指しており、アースティックスイミングや飛び込み、水球関係者から以前から不平が出ていた。そしてこのたび「World Aquatics」と名称を変更。競技団体名を変えるというかなり思い切った判断だが、それだけこの名称変更に価値と意味があるということであろう。

 

 伝統か、改革か

 

(写真:世界のトライアスリートを魅了してきたコナの世界選手権スタートの様子)

 トライアスロンでも、私がこのコラム「第250回/変化するアイアンマンハワイと変わらないエネルギー」で書いたように、世界選手権の開催方法の議論が出ている。これまでは男女別日に2日間かけて開催する議論だったが、今度は開催地変更が議論に。アイアンマンの象徴であるハワイ島コナで行われてきた世界選手権を、男女隔年でフランスのニースに移すというもので、選手からは「コナこそがアイアンマンの象徴。コナでない世界戦なんて価値はない」という不満の声が多く聞かれている。ただ、コナで男女2日間開催することが地元の生活に負担が大きいこと、そもそも選手や関係者が大勢集まり過ぎて、アコモデーションなどが追い付かないことなどから、このままではコナでの継続は厳しいのが現実だろう。

 

 では昔のように、小さな規模で開催続ければいいという意見もあるが、より参加選手を増やしたい大会の意向も無視できない。また女子のレースを別日で行うことで、女子選手により注目が集まるようになったメリットもある。参加のチャンスが増えたことで、すでにそわそわと準備を始めている選手が増えているのも事実だ。そしてニースのコースも雄大で手強く、世界チャンピオンを決めるには全く問題のないロケーション。このように考えるなら、開催地の隔年化は業界に良い影響も残しそうである。だが、40年以上に渡って築かれた歴史が、選手たちの心に強く刻まれているために、「コナ以外は受け入れられない」という心理的状況になっているのが実情。

 

 変化は、時に大きな喪失感を生じさせる。さらに我々は失うことを恐れ嫌う。特に感情的に没入したことについての変化には、拒否反応も伴うだろう。

 しかし、社会が移り変わる中で、物事を継続していくためにはなんらかの変化が必要なことも言うまでもない。
 その変化が進化なのか、後退なのかは、歴史が後から証明してくれるだろう。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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