引き出しを増やさずして、ベスト8の道なし

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 カタールワールドカップにおける日本代表の挑戦はベスト16で終わった。

 

 ドイツ代表、スペイン代表という欧州列強を撃破して臨んだラウンド16の相手は前回ロシア大会の準優勝、クロアチア代表。日本はセットプレーから先制しながらも、ウイークポイントでもある空中戦を仕掛けられて同点に追いつかれ、延長戦でも決着がつかずにPK戦に。GKドミニク・リバコビッチに連続して防がれ、またしてもベスト8には届かなかった。ルカ・モドリッチを中心にした試合巧者のクロアチア相手にもう一歩のところまで迫っただけに、残念な結果ではあった。

 

 この試合で収穫を挙げるなら、セットプレーが相手の脅威になっていたことだ。

 

 前半3分の右コーナーキック。キッカーの伊東純也はペナルティーエリア手前で待っていた遠藤航に渡し、クロスから谷口彰悟がヘディングで合わせた。ゴール左に外れてしまったが、随分と嫌なイメージを与えたに違いない。平均身長はクロアチアのほうが上。ボールを動かして相手の目線をかく乱してシュートにつなげられたのは大きかった。

 

 前半43分、同じ右コーナーキック。今度は左利きの堂安律がキッカーを務め、最初はニアに送ったボールをクリアされた。次はショートコーナーを選択して鎌田大地、伊東純也と渡って再び堂安が受け取って中に送り、あの前田大然の先制ゴールが生まれたのだ。

 

 日本代表がカタールに出発する前、スポーツ雑誌の企画で森保一監督と西野朗前監督の対談を実施した。攻撃のセットプレーに話が及ぶと、森保監督はこう述べていた。

 

「練習はメチャクチャやっているんです。どこに誰がどうやって入っていくか、プラス、オプションで何をやっていくかもバリエーションを広げて試してきて、本大会に向けて準備はずっとしているつもりではあります。

(各大陸の)ワールドカップ予選でもセットプレーからの得点が(割合として)少なくなっていて、守備戦術の進化もあって得点が入りづらくなっているのは確か。そういったところでもチャンスにできるようにはやっていきたい。これまではあまり入ってないかもしれませんけど、本大会では入ると思いますよ」

 

 強がりを言う人ではない。リップサービスが好きな人でもない。それだけにセットプレーに自信を持っていないと「入ると思う」とは到底、言えない。かなり力を入れてきているのだと思えた。

 

 ドイツ、スペインが相手となるとボールを持てる時間も、チャンスも当然限られてしまう。プレースキックに定評のある相馬勇紀を26人のメンバーに入れたのも、セットプレーのことも要素としてあったからに違いない。

 

 駆け引きの面でも右利き、左利きのキッカーがいることが望ましい。

 

 2010年の南アフリカワールドカップではグループステージ第3戦デンマーク戦で左利きの本田圭佑、右利きの遠藤保仁がともに直接フリーキックでゴールを奪ったことは記憶に新しい。今回の右コーナーキックも「右の伊東」の次に「左の堂安」にスイッチし、かつセットプレーのパターンを変えて揺さぶった。準備してきたことがようやく実ったと言える。

 

 宿願のベスト8入りに向けて、課題は見えている。

 

 ボールを保持しながら相手を崩してゴールを奪っていく攻撃の質を高めていかなければならない。強豪相手にそう簡単にやれることではないが、チャレンジしていくことが大切になる。

 

 ボールを保持されても組織的に粘り強く戦える日本のストロングポイントには磨きを掛けるべきだろうし、南アフリカワールドカップに続いてPK戦で敗れたことからもここにも着手しなければならない。

 

 と同時にセットプレーの向上を求めたい。今大会大旋風を起こしているモロッコ代表もグループステージで格上のベルギー代表と戦った際、セットプレーから突破口を見いだして勝利し、波に乗った感がある。

 

 今大会、衝撃のセットプレーに出会うこともできた。準々決勝のアルゼンチン代表-オランダ代表戦。延長後半アディショナルタイムの最後のワンプレーだった。1-2と追い込まれたオランダのペナルティーアーク手前、やや左サイドからの直接FK。グラウンダーのパスを選択して、ボールを受けたボウト・ベグホルストが左足で同点ゴールを奪ったのだ。オランダは結局PK戦の末に敗れたとはいえ、いろんな攻め手を持つ素晴らしいチームであった。

 

 ベスト8にたどり着くには、すべての要素を格段にアップさせていく必要があるということ。たくさんの引き出しを持っておくことが大事だと、今回のワールドカップを見てあらためて思うことができた。

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