「赤字の五輪ボート競技場 東京都が約6億円かけ新施設」

 年末の新聞に躍った見出し。五輪に関しては賄賂や談合など、ネガティブなニュースが続いているので、あまり目に留まらなかったのかもしれない。しかし、これまで問題は過去のトラブルだが、こちらは今後に関する問題だ。呆れるのはともかく、諦めてはいけないもの。運用のために年間1億円以上の赤字が出て、当初目標にした来場者の1/7程度しか活用できていない施設に、さらに6億円の追加施設を造るというのだ。通常であれば、事業内容を再検討するフェーズにあるはずが、さらにその方向性を掘り下げていく施策は少し首をかしげざるを得ない。

 

 五輪大会後にボート競技場として活用することを前提に造られた「海の森水上競技場」。臨海部の埋め立て地である中央防波堤にあり、静水の直線2000mと都内にこの規模の競技場ができたことを感心させられるスケール。建設費用は約300億円。その後の運営費用と運用益の差が年間1億8000万円マイナスという見通し。つまり毎年都の予算から1.8億円使うことになるので、赤字施設と批判されている。しかし公共施設はすべて採算をとるような設計ではない。公共の図書館や公園、その他の運動施設なども都民や区民の益に貢献することが目的。費用対効果のバランスがとれているかどうかがポイントであると思う。この施設が都民に愛され活用される施設であれば、その出費は適切ということになる。

 

 ここでの問題は、それほど活用されているか、もしくは活用されるような仕掛けができているかということにある。そのためなら追加予算をかける価値があるだろう。その検証が十分になされていないのに、ずるずると費用をつぎ込むというところに問題があるのではないか。

 そもそも、当初計画では、ボートの大会を中心に年間30大会、35万人の来場を計画していた。それだけの方々に活用してもらえるなら十二分に意味があるが、実際昨年4月からソフトオープンし、年末までの8カ月で5万人程度しか来場していない。それもほとんどがスポーツ以外のエンタメ系のイベントだ。スポーツではトライアスロン関係が2回、カヌー、ドラゴンボート、ボートの大会は1回ずつ。その他、総合スポーツイベントを3回開催というのが現状。肝心のボート競技はあまり貢献できている状況にはないようだ。もちろんボートやカヌー、そしてトライアスロンといったマイナースポーツだけに観客を沢山集めるというのは難しいのかもしれない。だが、施設として大会でもトレーニングでも、もう少し利用してもらう必要があるのではと考える。

 

 総合的なウォータースポーツパーク案

 

 そこで先の再投資の内容だが、ボート競技のための消波装置の付着生物対策や、第2艇庫の建設が主な目的でボート競技向け整備。しかし、この先の活用を考えると、ボートに向けてだけの投資でいいのか。もちろん今後もボート競技をしっかりと開催していくことは理解するが、そこで広く都民益につながるものになるのかは疑問が残る。

 正直なところ、この施設で経済的な整合性をとるのは難しいと思われる。どうしてもそれを目指すなら、ボート競技場から、ヨットマリーナに変更する方が現実的だ。だが経済面だけでなく、もっと多くの方に使ってもらい、広く都民、市民に親しまれる水上公園とすることこそが、この競技場を生かす道ではないかと私は考える。そのために、もう少し広く柔らかくアイディアや要望を聞き、この水面を活用できるようにすべきではないだろうか。私のところにもいくつかのスポーツ関係者から、「こんな使い方をさせて欲しい」という連絡をいただいている。

 

 カヌーやライフセービング、オープンウォータースイミング、トライアスロン、SUP(スタンドアップパドルボード)など、少し考えるだけでもいくつも出てくる。しかし、現在使用しているトライアスロン関係者からは「時間的、施設的に様々な制約が使いにくさを助長しているので、思ったように活用ができない」との苦言も。私も大会に参加させていただいたが、会場のポテンシャルは感じるものの、それを生かしきれてないなという印象を持った。現在の運用も、追加工事もボート競技にフォーカスされており、他での運用がやりにくいのが実情だ。

 

 現場に行くとお分かりいただけるが、東京とは思えない広々とした空間に海と空が広がり、開放的な非日常感を十二分に感じさせてくれる素晴らしい施設である。単一競技から総合的なウォーターパークに、そしてイベントだけでなく、日常使っていけるような施設に生まれ変わることはできないのか。

「ピンチの時こそ変革のチャンス」

 そんな言葉に思いをめぐらせる日々が続いている。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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