再生か? 崩壊か? 西武ライオンズに端を発した球界の裏金問題。アマ球界をも巻き込んだスキャンダルに発展した。今回発覚した事実は、氷山の一角。プロ・アマ球界の奥底には、根の深い複合的な金銭汚染が横たわる。それは、日本社会に以前から存在する談合問題、天下りなどの閉ざされた構造にも似ている。国民的スポーツの裏側で何が行われているのか。球界にうずまく「建前」と「本音」の間で、いったい何が起きているのか。スポーツジャーナリスト二宮清純氏と元オリックス球団代表・井箟(いのう)重慶氏が、プロ・アマ野球界が直面している問題の解決策を探った。(今回はVol.2)
二宮: コミッショナー指導ならばコミッショナーに違反者を罰する権利があって当然ですね。
井箟: そうです。罰せられるべきものであるはず。でも実態は違う。最初は守られていたが、12球団が「どうしても欲しい」という選手が出てきたのを境に上限が守られなくなり、契約金はまた上がった。
 球界の悪い体質だが、業界内で決めたルールを簡単に破っている。コンプライアンス無視をなくすには、きっちりとペナルティを決めないといけない。

二宮: 罰則規定がなかったら実効性はありません。「倫理行動宣言」を作ったはいいが、あの宣言の中ではそれに反した球団に対する具体的なペナルティが決められていなかった。「コミッショナーの定めるいかなる制裁にも服する」とあるんですが、少なくとも、これに反したら「次のドラフト会議に出られない」とか「5億円の罰金を課す」などの具体的なペナルティがなければ機能しませんよ。
井箟: 僕は「10億円の罰金」にするのがいいと思うね。「10億円をほかの11球団にそれぞれ払え」というペナルティにする。そしたら、あるすごい選手を取るためにルールを破った球団は、合計110億円払わなきゃいけない。そこまで払って取りたい選手がいるかというといないでしょう。

二宮: さすがにいないでしょうね(笑)。
井箟: 今回の問題の原因は逆指名制の導入だと思いますが、その議論があったとき、オリックスは反対したんです。

二宮: 渡邊恒雄読売巨人軍球団会長(当時読売新聞社社長)が逆指名制導入に前向きになってから、ドラフトが形骸化したと言ってもいい。
井箟: オリックスだけではなく、はじめは「11球団対巨人」で、11球団が反対だったんです。

二宮: それでも「1」が勝っちゃったと?
井箟: 巨人が、西武、阪神などと新組織を立ち上げる新リーグ構想のことを言い出して、セ・リーグがまず折れて、パ・リーグも半分くらい折れた。

二宮: セ・リーグの球団はどこも、巨人戦の放映権料が大きな収入源になっているから、巨人には逆らえなかった。巨人が「この指止まれ」で、ほかの球団はみんな従わざるをえなかったんですね。
井箟: FA制度(フリー・エージェント制度。ある一定の条件を満たせばいずれの球団とも自由に契約できる制度)とセットで逆指名制の導入が決まってしまった。

二宮: そのことが今回の問題の遠因になっていますね。井箟さんが代表に就かれて、裏金があるという事実はいつ知ったのですか?
井箟: 代表になる前に、丸善石油(現コスモ石油)の社会人野球でマネージャーもしていたから、そのときから、裏金があるというのは知っていました。でも、当時は自由競争の時代だから、ルール的には問題なかった。

(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2007年7月号『<対談>球界再生の方程式』に掲載されたものを元に構成しています>
◎バックナンバーはこちらから