再生か? 崩壊か? 西武ライオンズに端を発した球界の裏金問題。アマ球界をも巻き込んだスキャンダルに発展した。今回発覚した事実は、氷山の一角。プロ・アマ球界の奥底には、根の深い複合的な金銭汚染が横たわる。それは、日本社会に以前から存在する談合問題、天下りなどの閉ざされた構造にも似ている。国民的スポーツの裏側で何が行われているのか。球界にうずまく「建前」と「本音」の間で、いったい何が起きているのか。スポーツジャーナリスト二宮清純氏と元オリックス球団代表・井箟(いのう)重慶氏が、プロ・アマ野球界が直面している問題の解決策を探った。(今回はVol.1)
二宮: 僕は、裏金には2種類あると思っています。1つ目は、学生や社会人に対する“栄養費”などです。これは違法性がある。受け取った側が収入として申告していなければ脱税の可能性がありますし、スカウトがキックバックを得ているとしたら、これは球団に対する背任になりうる。2つ目は、これは横浜ベイスターズの那須野巧選手の例で明らかになりましたが、契約金の上乗せです。違法ではないかもしれないけれど、野球界のコンプライアンス(内部規定遵守)には反している。
井箟: おっしゃる通り、この問題は根が深い。過去のことについてどこまで洗いざらい出すのか。すべて暴露したらアマを含めて、さらに大問題になる。経験から言うと、裏金と一口に言うけれど、やり方としてはいろいろある。
 まずコミッショナーが、裏金とはどういう形態のものがあるのか、今までどういうことが行われてきたのかを調査する必要がある。今回、西武と横浜の問題が明るみに出たので、これを機に実態を究明すべきでしょう。もう見て見ぬふりは許されない。

二宮: コミッショナーが裏金調査の指令を出すべきだということですね。
井箟: そうです。業界内でルールを破ったことに対しては厳しく罰するべきです。だけど、コミッショナーはすでに逃げ腰ですよ。

二宮: 一般法で罰せられないとしても、少なくとも球界の中でのペナルティはあってしかるべきです。裏金はいわばシロアリのようなもので、球団経営の圧迫要因にもなっているのだから。
井箟: これまで球界の中でルールを決めては、それを次々に破ってきた。ピッチャーのボーク、二段モーション……。いつもルールの抜け穴を探している。姿勢を正そうというのがないままに、ずるずるときてしまった。

二宮: これまでの例でいうと、逆指名制の導入が1993年で、その年に契約金の最高額を1億円と決めた(翌年より出来高払いも含めて1億5000万円)。でも実際には守られていなかった。2004年には当時、明治大学の一場靖弘選手が、複数の球団から栄養費と称するお金をもらっていたことが発覚して、球界は「倫理行動宣言」を作った。これも有名無実だった。
井箟: オリックスの代表だった頃、契約金の平均額が8000万円くらいに上がってきたときに、契約金高騰の抑制を球団代替者会議で提案したんですよ。そのときに当時のコミッショナーが「コミッショナー指導」として「上限を1億円。幅を持たせて出来高で5000万円まで」と決めた。今回、今の根来泰周コミッショナー代行が「上限は(球団が)自主的に決めたことだ」と言っていたけど、それは違う。議事録があるはずだ。

(続く)


<この原稿は「Financial Japan」2007年7月号『<対談>球界再生の方程式』に掲載されたものを元に構成しています>
◎バックナンバーはこちらから