31日、ボクシング世界戦が東京・大田区総合体育館で行われ、WBA・WBO世界スーパーフライ級王座統一戦はWBO王者の井岡一翔(志成)とWBA王者ジョシュア・フランコ(アメリカ)が判定で引き分けた。王座統一はならず、井岡がWBO王座6度目の防衛、フランコがWBA王座2度目の防衛に成功した。

 

 自身11度目の大晦日決戦となった井岡。今年は日本で5度も行われた統一戦の締めくくり役を期待されたが、王座統一はできず「期待された結果で応えられず悔しい」と唇を噛む結末となった。

 

 友人でヒップホップミュージシャンのAK-69が歌う『Champion』に乗り、黒いフードを目深に被って入場した。チャンピオン同士の対決という緊張感を漂わせてリングに向かう。両国国歌斉唱を終え、フェイスオフ。レフェリーが語りかける間、両者の視線はぶつかり合うという感じではなかった。バチバチの睨み合いはなくとも静かに闘志を燃やしていたようにも取れた。

 

 ゴングが鳴り、積極的に仕掛けたのは戦前予想通りフランコだった。サウスポースタイルから井岡をロープ際に押し込んだ。試合前の記者会見で井岡は「1ラウンド、相手が来たからといって殴り合いをしても意味がない。自分が陣営と考えるプラン通りに進めていく」と語っていたように、冷静にフランコのパンチをガードし、機を見て反撃に転じた。

 

 ラウンドが進んでも前に出続けるフランコ、それを迎える井岡という構図は変わらない。左ジャブ、左右のコンビネーション、時折ボディも交じえて井岡は多彩な攻撃を見せる。守ってはガードを固めて攻勢をかけるフランコを封じたかに見えた。「相手の手数をサイドの動きでかわして削りにいこうと思っていた」と井岡。長いラウンドを見据えたプラン通りに試合は運んでいたはずだった。

 

 中盤は井岡のブローが効き始め、フランコの勢いが少しずつ失われているようにも映った。しかし井岡が攻勢に転じて仕留めるかたちまでは至らない。何よりフランコの攻めの姿勢は終始崩れなかった。フランコのパンチも井岡に当たるようになり、打ち合いの様相を呈すかに思われた。どちらも決定打と呼べるものはなく、12ラウンドが終了。ゴングが鳴ると、フランコが両手を、井岡が右拳を挙げて勝利をアピールしていたが、素人目にはどちらが勝者と言い難いものだった。

 

 ジャッジも割れた。南アフリカのスタンリー・クリストドーロー氏が115対113でフランコを支持したものの、残り2人は114対114のドロー。引き分けで両者の王座は移動しなかった。当然、自らの勝利を信じたWBO王者もWBA王者も、この結果に納得した様子は見られなかった。「自分の中では勝っているかな、と思った」と井岡。フランコも「自分が勝っていたと思うが、ジャッジを尊重します」と試合後に述べた。それでも両陣営から抗議の声が上がらなかったのだから、甲乙付け難い試合だったと言えよう。

 

 井岡は前半をリードしていた感触だったというが、ジャッジペーパーを見ると、2者がフランコにフルマーク付けている。手数、積極性のフランコ、有効打の井岡をどう見たか。ジャッジは前者を支持したかたちだ。井岡は「12ラウンド戦い抜くメンタルがすごかった」とフランコを称え、「駆け引きしながら自分の引き出しを見せたつもりだが、完全に崩し切れなかった」と反省した。

 

 ミニマム級(WBA・WBC)に続く2階級目の2団体王座統一は達成できなかったが、WBO王座は死守した。「結果として出てしまったことは仕方がない。これからが問われる。自分で証明していくしかない」。来年はフランコとの再戦を含め、様々な対戦カードが予想される。

 

 この日、WBC王者ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)、WBO世界1位の中谷潤人(M.T)が会場に訪れた。中谷はWBOの指名挑戦者として対戦指令が出ている。エストラーダとは試合後控室で言葉を交わし、「次はリングで会おう」と話したという。井岡は「どんな戦いがきてもチャンピオンとして戦う」と前を向いた。

 

(文・写真/杉浦泰介)