13日、ボクシングの世界バンタム級4団体王座統一戦が東京・有明アリーナで行われ、WBAスーパー&IBF&WBC王者の井上尚弥(大橋)がWBO王者のポール・バトラー(イギリス)を11ラウンド1分9秒KO勝ちで男子史上9人目、バンタム級&アジア人初の4団体統一王者に輝いた。

 

 井上が「バンタム級最終章」と位置付けた4団体王座統一戦。WBO王者相手に力の差を見せつけた。

 

 2018年3月に7度防衛していたWBO世界スーパーフライ級王座を返上。3階級制覇達成を狙いバンタム級に転向した。5月にWBAのベルトを手にすると、“バンタム級最強”を目指す旅路が始まった。19年11月にWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)バンタム級決勝でノニト・ドネア(フィリピン)を下した後も“ベルトの総取り”を目論んだ。今年6月にWBCのベルトを持つドネアと再戦して勝利。4団体統一にリーチをかけた。

 

 そして迎えた、この日の有明アリーナ。入場は青コーナーのWBO王者バトラーが先に赤茶のベルトを掲げた陣営を引き連れ、花道をゆっくりと歩いた。

 

 続く赤コーナーのチャンピオンを招くため、ギタリスト布袋寅泰が映画『新・仁義なき戦い』のテーマ『BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY』を井上用にアレンジした『バトル・オブ・モンスター』が流れると場内のボールテージはヒートアップ。黒髪に黒のコスチュームを纏った井上。陣営が黒、赤、緑のベルトに加え、リングマガジン認定のベルトも掲げて、花道を進む井上に続いた。

 

 3日前の記者会見で大橋秀行会長は「1ラウンドに火を噴く」と話していたが、井上はゴングが鳴ると、バトラーを見定めるようにじっくりと攻めた。対するWBO王者はガードを固めて、足を使いながらリングを回った。井上がパンチを繰り出すだけで観客は沸いた。

 

 2ラウンドではディフェンスで魅せた。井上がプレスをかけ、ガードの堅いバトラーの守りをこじ開けようとするという構図は変わらない。そこから隙を見てバトラーが反撃を試みたが、スウェーでパンチをかわす。高いディフェンステクニックを披露し、再び観客を沸かせた。

 

 その後はコーナーに追い込み、連打を打ち込む場面もあった。ガードの上から殴り掛かったが、それでもバトラーは崩れない。タフではあるものの、なかなか攻めてこない相手にしびれを切らしたのか、腰を落としガードを下げて近付いた。バックステップを続けてニヤリと笑うと、一気に攻めに転じるなど揺さぶりにかかった。

 

 7ラウンドに両手を上げて、バトラーに“殴ってこい”とアピール。8ラウンドには両手を後ろに回し、相手の攻撃を待った。これについては試合後、「誘い出す意味合いもあったが、“倒されなければいいのか”という思った部分もあった」と振り返った。しかし、それでもバトラーは踏み込んでこない。

 

「逃げることはできても隠れることはできない」。これは大橋会長が戦前、口にしていた言葉だが、現実となった。11ラウンド、「ギアを上げた」という井上がバトラーをロープ際に追い込み、猛ラッシュ。ガードの上からでもお構いなくというような重いパンチを見舞い、バトラーをキャンバスに沈めた。11ラウンド1分9秒KO勝ち。井上は飛び上がって喜びを爆発させた。

 

 井上はリング上のインタビューでこう語った。
「このバンタム級に思い残すことはない。史上9人目という数字が物語っている4団体統一の厳しさ。スーパーフライ級時代から目標として掲げやってきましたけど、団体の垣根という難しい問題もあり、遠回りもしました。今日12月13日、最高の日になりました」

 

 これで改めて“バンタム級最強”の称号を手にした井上は、「ここがゴールではない。リング上で最高の景色をファンの方たちが見せてくれたが、自分としては通過点だと考えている」と語った。“モンスター”の物語は次なるスーパーバンタム級、4階級制覇の章へと向かう。

 

(文・写真/杉浦泰介)