PK戦を「時の運」で片づけていいものか――。

 

 日本代表は先のカタールワールドカップにおいて前回準Vのクロアチア代表にPK戦の末に敗れ、初のベスト8進出を逃がした。先攻の日本は1人目の南野拓実、2人目の三笘薫が続けてドミニク・リバコビッチに阻まれ、4人目の吉田麻也も失敗に。逆にクロアチアには4人中3人に決められ“完敗”に終わった。2010年南アフリカ大会でもパラグアイ代表にPK戦で敗れてラウンド16止まり。先に進むことができなかった。

 

 今大会は過去最多となる5度のPK戦が行なわれ、優勝を遂げたアルゼンチン代表は、オランダ代表との準々決勝、そしてフランス代表との決勝と2度のPK戦に勝利して栄光にたどり着いている。日本がベスト16の壁を突破するには“PK力”を上げていく必要がある。

 

 Jリーグは来年の2024年シーズンからJ1、J2、J3すべて20クラブに統一する構造改革に踏み切るが、これに併行してYBCルヴァンカップを全60クラブによるノックアウト方式に切り替わる。PK戦増が想定され、各クラブでも対策を強いられる。また日本サッカー協会(JFA)としても、国際親善試合でのPK戦採用も検討しているとか。A代表で取り入れるかどうかは不透明だが、アンダーカテゴリーから始めていくことにはなりそうだ。いずれにしても日本サッカー界全体としてPK戦の強化に動き始めていることは言うまでもない。

 

 筆者は2014年ブラジルワールドカップ前に上梓した「サッカー日本代表 勝つ準備」(北條聡氏との共著、実業之日本社刊)において。PK戦を一つのテーマにした。元日本代表の小島信幸氏を取材した際に、「遊びの延長線上」がいかに大事を知った。

 

 1993年に開幕したJリーグは1997年まで決着がつかない場合にPK戦が採用されていた。ベルマーレ平塚(現在の湘南ベルマーレ)で絶対的な守護神であった彼は、全体練習を終えてからチームの「10番」を背負うベッチーニョを相手に居残って取り組んでいたという。

 

「試しにフェイントをかけても、ベッチーニョはものの見事に裏をかいてくるんですよ。どうしてなのかと思って、ある時、足のステップを変えてみたんです。右に飛ぼうとする場合、人って左、右とステップを踏むのがまあ普通じゃないですか。だから今度は右、左のステップに変えてみたら、引っ掛かったんです。かなり飛びにくいんですけどね(笑)。なるほど、ベッチーニョはここを見てるんだと思いました」

 

 リラックスしての「遊びの延長線上」だからこそ、駆け引きを楽しめるし、そこからの新たな発見もある。ちなみに小島氏は実戦でもこのステップを使って、止めた経験があるという。

 

 こういった機会が多くなればなるほど、お互いに“PK力”は上がるに違いない。近年はコンディション管理の観点から居残り練習を認めないチームも少なくない。PK戦の練習を頻繁にやらなくても、選手たちが自発的に取り組めるような環境が望ましい。

 

 PK戦はキッカーとGKの駆け引きであり、読み合いであり、心理戦。カタールワールドカップ、モロッコ代表とスペイン代表とのラウンド16では、22年シーズン限りで現役を引退した中村俊輔氏によるPK解説が中継でズバズバ当たったことが話題にもなった。途中交代で入ってきた選手は難しい、と持論を述べた後で後攻スペインの1人目パブロ・サラビア(延長後半13分IN)、2人目カルロス・ソレール(後半18分IN)が失敗している。結局、3人目セルヒオ・ブスケツも決められずに0-3で敗れた。

 

 中村氏に会う機会があったため、このことを聞いてみた。

「後半とか延長から入ってくる選手だから、いいキックができるんだろう、じゃない。逆なんですよ。あんまりゲームに入れてないし(出場)時間も短いし、難しい。外しがちとかじゃなくて、難しい」

 

 あくまで豊富な経験値から基づいた彼なりの感覚ではある。ただこのような情報を集めて傾向をつかみ、対策を練るだけでも日本サッカーの財産になるようにも感じる。

 

 PK戦に強いニッポンとなるために――。「時の運」と片づけず、いろんなアプローチをしていくことが肝要になる。

 

 

★読者プレゼント★

 株式会社集英社より二宮寿朗さんの新著『我がマリノスに優るあらめや 横浜F・マリノス30年の物語』(税込み1980円)が2023年1月26日に発売されます。本書は、1993年のJリーグ開幕、95年のリーグ初優勝、99年の横浜フリューゲルスとの合併、03~04年リーグ連覇、19年に達成した15年ぶりのリーグ制覇、そしてクラブ創設30周年を迎えた昨季のリーグ優勝など中心に当時や現役の選手、コーチ、監督、チームスタッフなど多方面にわたり取材し、執筆したものです。Jリーグ創設以来、一度も降格していないトップクラブとして存在し続ける「伝統と革新」の理由を「F・マリノスにかかる人たちの物語」を通じて描いた一冊となっています。タイトルには「30年の物語」とありますが、序章には前身となる日産自動車サッカー部設立からマリノス誕生までの物語も記した50年史となっています。ぜひとも、当サイトの読者にもご一読いただきたく、本書を2名様にプレゼントいたします。

 

 ご希望の方はこちらより、件名と本文の最初に「二宮寿朗さん新著プレゼント希望」と明記の上、お名前、年齢、郵便番号、住所、電話番号を明記の上、サイトへのご感想もしくは“あなたのF・マリノス愛”を、お書き添えの上、ご応募ください。当選発表は商品の発送をもってかえさせていただきます。なお、いただいた個人情報はプレゼントの抽選、発送以外の業務には使用いたしません。多数のご応募、お待ちしております。

 

※締切:2023年2月2日(木)迄。

 


◎バックナンバーはこちらから