「NTTジャパンラグビー リーグワン2022-2023」第5節3試合が22日、各地で行われた。三菱重工相模原ダイナボアーズ(相模原DB)は静岡ブルーレヴズ(静岡BR)に27-27で引き分けた。これで相模原DBは3勝1分け1敗で勝ち点15、静岡BRは1分け4敗で同4となった。次節は相模原DBが東京サントリーサンゴリアス(東京SG)、静岡BRがNECグリーンロケッツ東葛(GR東葛)と、いずれも29日に対戦する。

 

 勝ち越しがかかるコンバージョンキック。SOジェームス・シルコックの左足から放たれた楕円球はゴールポスト右に逸れていった。頭を抱え、項垂れる25歳のキッカー。このシーンだけを切り取れば、相模原DBが勝ち点2を落としたと言える。だが80分で見れば、勝ち点2をもぎ取ったと言っていいだろう。

 

 リーグが開幕してからここまでの道程は対照的な両チームだ。相模原DBはトップリーグ時代、1部を3季(19-20シーズンは途中で中止)経験したが通算2勝しか挙げていない。2部から昇格してきた今季は4節終了時点で3勝1敗と4位。トヨタヴェルブリッツ、東芝ブレイブルーパス東京とトップ4経験のある強豪相手にも勝利している。粘り強いディフェンスが持ち味だ。

 

 一方の静岡BRはかつて日本一(14年度)を経験し、トップリーグは13-14シーズンから5季連続でトップ4に入るなど3度の準優勝を誇る。スクラムを中心としたセットプレーを強みに持つ。しかし、ここまではケガ人続出で4連敗。勝ち点2で11位に沈んでいる。

 

 相模原DBのホストスタジアム、神奈川・相模原ギオンスタジアムで行われた試合は魂の殴り合い、誇りのぶつかり合いのように映った。先制は静岡BRだ。4分、敵陣左サイドでのラインアウトモールでゴール前に迫ると、最後はSHブリン・ホールがインゴール左に飛び込んだ。SO清原祥のコンバージョンキックも決まる。得意のセットプレーから7点をリードした。

 

 相模原DBも鮮やかアタックで殴り返す。11分、自陣右のマイボールスクラムからNo.8ジャクソン・ヘモポが抜け出す。左サイドへ展開すると、CTBマット・ヴァエガが突破。WTBタウモハパイホネティ、SH岩村昂大、CTBヘンリーブラッキンと繋いだ。ブラッキンは相手のタックルを受けながらもインゴール左隅に手を伸ばした。シルコックも角度のないところからのコンバージョンをきっちり決め、同点に追いついた。

 

 それでもスクラム、ブレイクダウンで優位に立ったのは静岡BRだった。その中心は南アフリカ代表(スプリングボクス)のNo.8クワッガ・スミス。世界有数のボールハンターはブレイクダウンでことごとく存在感を示した。26分に敵陣深くのスクラムからスミスが突破し、ゴール目前に迫る。ホールがポスト下にグラウンディング。清原がコンバージョンに成功し、再び7点のリードを奪った。

 

 なかなか自分たちのペースに持ち込めない相模原DBだが、元U20イングランド代表はスナイパーのような正確さで、ゴールポストの間を射抜いていく。39分、42分といずれも約40mのPGを決めて点差を縮める。13-14と1点差でハーフタイムを迎えると、後半6分にも約40mのPGを決めた。相模原DBがこの日初めてリードした。

 

 その3分後、静岡BRが連続攻撃。左へ展開してから再び中央へ。そこで空いたギャップを清原が突いた。抜け出すとサポートに走ったPR伊藤平一郎へ。伊藤が素早くWTBマロ・ツイタマに渡し、トライを挙げた。清原のコンバージョンキックが決まり、21-16と逆転に成功する。19分には清原がPGを成功し、8点差に広げた。

 

 相模原DBは23分にシルコックのPGで5点差に迫るも、28分に自陣マイボールスクラムで痛恨の反則を犯してしまう。岩村が入れたボールを相模原DBの選手が足ではなく手でかきだしてしまい、ハンドの判定が下された。ここで得たPGを清原に決められ、再び8点差に。

 

 一進一退の勝負、流れが一方に傾きかけた。33分、相模原DBは敵陣左で獲得したラインアウトでジャンパーがボールをキャッチできずにノックオン。直後に得たマイボールラインアウトもボールを奪われた。時間が経つにつれ、相模原DBに敗色ムードが漂い始める。

 

 嫌な空気を払拭しようと、根気よく攻め続けたのは相模原DBだ。シルコックのPGで1トライ1ゴールで逆転できる差に縮める。その後もフェーズを重ね、敵陣に迫った。40分、ついに粘り強いアタックが実を結んだ。シルコック、CTBカーティス・ロナがボールを持って前進し、最後はブラッキンが身体を反転させながら右手を伸ばしてグラウンディング。アンガス・ガードナーレフリーがTMO(ビデオ判定)で確認した後、トライが認められた。

 

 これで27-27の同点。コンバージョンキックが決まれば劇的な逆転勝利だったが、ここまで正確無比なキックを披露していたシルコックの左足は最後に狂った。失意のキッカーに静岡BRのスミスが慰めた後、緑の一団が彼を囲んだ。HO安江祥光は「Smile!」と声を掛ける。背番号10を1人1人が労っていた。

 

 試合後の会見でキャプテンの岩村がこの場面を振り返った。
「シルのキックがなければ逆転のチャンスはなかった。彼にチーム全員がリスペクトを置いているからこそ皆が慰めに行った。ああいう時こそチームの色が出る。キャプテンから見ても“いいチームだな”と」

 

 安江も同様のことを語った。「“あの状況下で蹴ってくれてありがとう”という気持ちだった。あんなプレッシャーのかかるところで、僕だったら絶対蹴りたくない。あそこで自ら蹴ると選択し、プレッシャーと戦ってくれた彼を尊敬しています」。チーム最年長38歳の安江は「どこのチームよりも走って、厳しい練習をしている自信がある。そこから生まれたチームの一体感だったと思う」とチームのまとまりに胸を張った。

 

 白星こそ掴めなかったものの、最後まで諦めない選手たちのファイトにグレン・ディレーニーHCも「(7点差以内の負け)ボーナスポイントを取れないところから、最後の5分間で粘り強さを見せてくれた」と満足した様子だった。岩村も「プレシーズンから培ってきたフィットネスを最後、全員で出した」と7月の始動からハードワークしてきたことが土壇場で追いつけた要因だったという。

 

 指揮官が「79分主導権を握られた」という試合を引き分けた相模原DB。粘り強く“全緑”で戦うスタイルはファン、サポーターの心を掴んでいる。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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