“府中ダービー”は東京SGに軍配。田中澄憲監督「ちょっとの差で勝ち切れた」 ~リーグワン~
「NTTジャパンラグビー リーグワン2022-2023」ディビジョン1第7節が5日、各地で行われた。東京・秩父宮ラグビー場での“府中ダービー”は東京サントリーサンゴリアス(東京SG)が東芝ブレイブルーパス東京(BL東京)を40-34で下した。東京SGは6連勝で勝ち点28(6勝1敗)の3位。敗れたBL東京は連勝が2でストップし、勝ち点21(4勝3敗)で5位に下がった。
共に府中市をホストエリアとする東京SGとBL東京。トップリーグ時代はいずれも5度の優勝、リーグワン初年度の昨季はプレーオフに進出した(東京SGが2位、BL東京が4位)。トップリーグ以降の対戦成績はほぼ五分。昨季もリーグ戦は1勝1敗である。熱戦必至のダービーマッチだ。
今季開幕戦は両チームとも黒星を喫したが、好調を持続している。東京SGはNECグリーンロケッツ東葛(GR東葛)、横浜キヤノンイーグルス(横浜E)、コベルコ神戸スティーラーズ(S神戸)、花園近鉄ライナーズ(花園L)、三菱重工相模原ダイナボアーズ(相模原DB)相手に5連勝。BL東京は埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉WK)と相模原DBに敗れたものの、ここ2試合は60得点以上挙げて快勝している。第6節終了時点の順位は東京SGが3位、BL東京が4位だ。
両チームの関係者が口を揃えて「フィジカルバトル」となることを予想していた。序盤、その攻防で優位に立ったのは東京SGだ。敵陣に押し込み、ゴールに迫った。相手は反則がかさむ。前半10分、SOアーロン・クルーデンがPGを確実に決めた。12分には反則の繰り返しでFLマット・トッドがシンビン(10分間の一時退場)。これにより数的優位に立ち、13分にもPGで加点した。
“接点無双”を掲げるBL東京も黙ってはいない。14分に、敵陣でHO橋本大吾のジャッカルで東京SGからノット・リリース・ザ・ボールの反則を誘った。ここで得たPGをSOマット・テイラーが決め、3点差に迫った。しかしオールブラックス(ニュージーランド代表)25キャップのトッドの穴は大きく、特にセットプレーでかなり苦戦した。21分はスクラムでインゴールに侵入され、No.8テビタ・タタフにトライを許した。
トッドがピッチに戻ってくると徐々にBL東京な流れを引き寄せる。敵陣左サイドでできたラックからSH小川高廣、橋本、テイラー、トッドと左に展開し、最後はWTBジョネ・ナイカブラ。4試合連続トライ中のフィジアンは2人のタックルを受けながら、インゴール右隅に右手を伸ばした。ここでもテイラーがコンバージョンキックを成功し、10対13と迫った。
両チームの背番号「14」がトライを奪い合う。27分、ハーフウェイライン付近でFB松島幸太朗のパスを受けたWTB尾﨑晟也が魅せる。試合前の時点で既に10トライとトライランキングを独走する男は、誰にもつかまらずインゴール右中間にボールを置いた。これで昨季のトライ王と同数に並んだ。35分にはナイカブラが2本目のトライ。CTBセタ・タマニバルの長いパスをキャッチし、1人かわしてインゴール右隅にグラウンディグだ。前半は20-17と東京SGリードで終了した。
後半も両チームによる点の取り合いは続く。クルーデン、テイラーがPGを1本ずつ決めると、11分に3点を追いかけるBL東京がこの試合初めてリードを奪う。中央でボールを持ったテイラーがディフェンスラインの裏を狙ったショートパント。このボールをキャッチしたタマニバルがポスト左にボールを置いた。テイラーがコンバージョンキックを決め、27-23とした。
15分、東京SGがリードを奪い返す。前節、約80mを走り切るトライを奪った松島がビッグゲイン。一度はバランスを崩しかけたが、そのまま相手を振り切る。大外の尾﨑へパス。「幸太朗さんが突破してくれると予想しながら走っていた」とスピードに乗った状態でボールを受け、対面のWTB濵田将暉を振り切った。クルーデンがコンバージョンキックを成功し、東京SGが30-27と3点リード。
20分にはタマニバルが2本目のトライを挙げる。敵陣で小川、タイラー、CTBニコラス・マクカランと右へ展開。マクカランが大外へ飛ばすパスを放るとナイカブラが2人を引き付け、内へ返す。タマニバルがインゴール右隅に飛び込み、再び逆転。この試合キック成功率100%のタイラーが角度のないところからのコンバージョンキックでポストの真ん中を射抜いた。
シーソーゲームに終止符を打ったのは尾﨑だ。23分、LOツイヘンドリックがラックからボールを拾ってゲイン。途中出場のSH流大、クルーデン、尾﨑と右へ繋ぐと、大外を駆け抜け、ボールをインゴール内に運んだ。クルーデンがコンバージョンキック成功で37-34とリードを広げる。30分、インゴール目前まで迫られたが、尾﨑のジャッカルで相手のペナルティーを誘発。ピンチの芽を摘んだ。試合終了間際に途中出場のSO森谷圭介のPGで加点した東京SGが40-34で競り勝った。
東京SGの田中澄憲監督は熱戦を終え、こう総括した。
「府中ダービーらしい最後の最後まで結果が分からない試合。フィジカルの部分で東芝さんに負けると勝負にならない。80分間、選手たちがやり切ってくれた。ちょっとの差だったと思うし、勝ち切れたことで自信になった」
敗れたBL東京のトッド・ブラックアダーHCは「選手たちを誇りに思う」と語った上で、「大事なところで取り切れなかった」と悔やんだ。
またこの日のスタジアムには1万86人の観衆が詰めかけた。BL東京のホストゲームでは今季最多&初の大台だ。星野明宏プロデューサーは「チケットを(無料で)配ったりしていないので、“少し風が吹いてきているのかな”と感じています」と、手応えを掴んでいるようだ。一方で「2万人入る時代があったわけですから、そこにまずは戻したい」と意気込む。
今季からチームはチームソング『猛勇狼士』を制作し、試合前にスタジアムで流している。試合前の独特な選手紹介、会場ではピッチの音を観客に届ける「リアル・グラウンド・サウンドシステム」(RGSシステム)など様々な仕掛けを試みている。「リーグも協会も諦めず各チームが熱量を持ってやれば絶対に前進する。頂上に着くかはわかりませんが、目指していれば頂上に近付けるはず」と星野プロデューサー。“世界有数のユニークなラグビークラブ”を目指すBL東京の挑戦は続く。
(文・写真/杉浦泰介)