(写真:大会終了後に肩を組んで記念撮影。雰囲気の良さもBS11CUPの特徴だ)

 秋から冬にかけて、多くのスポーツで大学日本一をかけた“インカレ”が行われる。昨年秋にBS11本社で行われた「BS11CUP全日本eスポーツ学生選手権大会」は今年度で4回目を迎えた。2020年度(3月開催)を除く3大会は決勝大会を秋に開催している。また第4回大会は従来の大学生・大学院生・専門学生に加え、高校生も対象とした新たなカテゴリーを設置。過去3大会はKONAMIの人気タイトル『ウイニングイレブン』(第3回大会は同社の『実況パワフルプロ野球』大会も実施)だったが、第4回は『プロ野球スピリッツA』(プロスピA)で争われた。

 

 プロスピAは今春のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)侍ジャパン(野球日本代表)に選出されたダルビッシュ有(パドレス)も愛好家として知られる人気タイトルだ。BS11の小林都仁プロデューサーはタイトル変更、高校生部門新設の理由をこう説明した。

「ダウンロード数3600万という圧倒的な人気を誇っていること、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント共催の『eBASEBALLプロスピAリーグ』(スピリーグ)も開催され、広く認知されているタイトルであることが理由です。スマートフォンなどのデジタルモバイルを持っていれば、誰でも無料でプレイすることができるので、高校生でもエントリー可能だと考えました」

 

(写真:解説の里崎<中央>はプロスピリーグでロッテの監督を務める)

『全日本eスポーツ学生選手権大会高校生部門153人、大学生部門268人、計421人というエントリー数は過去最多である。都内のBS11ホールで行われた第4回決勝大会は、高校生部門がオンライン、大学生部門が無観客開催となった。高校生部門で頂点に立ったのは2年生の安達瑞(あんだち・みずき)。 大学生部門8人による決勝大会は、生配信され、準決勝からはBS11で生中継された。MCは人気お笑いコンビのぺこぱと、サブMCにはスポーツ番組などで活躍するキャスターの中川絵美里が担当した。実況はアナウンサーの三橋泰介、解説は千葉ロッテで活躍した里崎智也という“本家”の2人に、インフルエンサーのCRAYが加わる豪華な陣容である。

 

 特設のセットに華やかな雰囲気で大会は行われた。それぞれ持ち味を発揮した医療創生大1年の大平史哉(おおだいら・ふみや)、専修大4年の山中一成(やまなか・いっせい)、立正大4年の福田紘也(ふくだ・こうや)、駒澤大1年の成田旭(なりた・あさひ)の4人が準決勝にコマを進めた。大平がオンライン予選A組1位、山中が同2位、福田がB組1位、成田が同2位とオンライン予選上位陣が勝ち上がった。

 

 熱戦の連続

 

(写真:勝つか負けるか、そしてオフラインでの緊張感と選手たちは闘う)

 準決勝は大平vs.山中、福田vs.成田の組み合わせとなった。第1試合の大平は東北楽天ゴールデンイーグルス、山中は読売ジャイアンツのチームを選択。オーダーは大平楽天が1番からイチロー、岡本和真、ランディ・バース、中村紀洋、高橋由伸、島内宏明、坂本勇人、山田哲人、炭谷銀次朗。先発のマウンドは田中将大に託した。

 

 一方の山中巨人は松井稼頭央をトップバッターに据え、柳田悠岐、落合博満、村上宗隆、多村仁、高橋由伸、中村紀洋、吉川尚輝、野村克也と続く。大谷翔平がマウンドに。どちらも劣らぬオールスター級の強打者揃い。イチロー、バース、松井稼頭央、野村克也らレジェンド選手が登場するのもこのゲームの特徴と言っていいだろう。

 

 この試合先制したのは大平楽天だ。2回表、1死二塁のチャンスで代打・吉田正尚を起用。これがピタリとハマり、ライトスタンドに放り込んだ。2点を先制した大平楽天は、イチロー、岡本、バース、中村の4連打で3点を加えた。

 

(写真:笑顔で健闘を称え合った姿はラグビーのノーサイドの精神と通ずる)

 大会は3イニングまで。0-5で迎えた最終回、「逆転がロマン」と語る山中巨人が真骨頂を発揮した。まずは先頭の中村がライトスタンドへ運ぶ。2アウトと追い込まれた後も粘りに粘った。松井がヒットで出塁すると、柳田の2ランで2点差に。落合、村上、多村、高橋の連続ヒットで追いつくと、最後は中村のタイムリーで試合を決めた。2アウトから7連打の大逆転劇で、山中が決勝に進んだ。

 

 準決勝第2試合は福田、成田が楽天を選択。福田楽天のオーダーは1番から多村、落合、岡本、大谷、柳田、高橋、源田壮亮、田淵幸一、外崎修汰。成田楽天は岡本、大谷、筒香嘉智、村上、柳田、高橋、池山隆寛、城島健司、菊池涼介。先発ピッチャーは共に藤浪晋太郎だ。

 

(写真:ガッツポーズの成田。彼もまた勝負を楽しんでいるようだった)

 こちらも息をのむ接戦となった。福田楽天が4番・大谷のタイムリーで先制すると、成田楽天も2番・大谷のタイムリーで追いついた。さらに3番・筒香の一発で2点リードを奪い、2回裏にも追加点。成田楽天4-1で迎えた最終回に試合は大きく動く。3回表、岡本の3ランで4-4の同点に。

 

 試合は延長戦に突入した。無死一、二塁からスタートするタイブレーク。福田楽天はチャンスを生かし、3点を勝ち越した。このまま流れは福田楽天かと思われたが、プロプレーヤーの成田が意地を見せた。連打で4点を奪い返し、逆転サヨナラ勝ち。成田は「打ち合いは会場が盛り上がる。そういう試合をしていると自分も楽しい」と成田。8-7と打ち合いを制した。

 

 「楽しんだ」決勝戦

 

(写真:人気お笑いコンビのぺこぱは軽妙な掛け合いで大会を盛り上げた)

 準決勝と決勝の間に予定していた合間のミニコーナーは、放送時間の都合で中止となった。それほど準決勝が白熱したということだろう。決勝は山中巨人vs.成田楽天。打順も先発投手も準決勝と同じ。先制したのは“意外”にも番組内で「逆転の貴公子」と紹介されていた山中巨人だった。2回表、1死二塁のチャンスで中村がレフトへのタイムリーヒットを放った。するとその裏、成田楽天は大谷のホームランで追いつく。

 

 勝負の分かれ目は最終回に訪れる。成田楽天は継投でピンチを凌ごうとしたが、3点を勝ち越される。4-1と3点をリードした山中巨人は、1死二、三塁の場面で先発・大谷を諦めてチアゴ・ビエイラをマウンドに送る。ビエイラは犠牲フライで1点を返されたものの、中村をピッチャーフライに打ち取った。4-2で逃げ切った山中が“初代プロスピA学生王者”に輝いた。

 

(写真:出演者との記念撮影で優勝トロフィーを掲げる山中<中央>)

「下剋上的な気持ちで臨んでいました。今大会の出場者がどれくらい強いかはだいたい知っていました。“上を食うぞ”という思いでした」と山中。プロスピAをプレイし始めたのは、2020年夏から。翌年の冬から「強い人たちを倒したい」と大会に出場するようになったという。どちらかと言えば大会で緊張するタイプだったが、22年のスピリーグ球団代表決定戦本戦で3位に入ったことで自信を付けた。

「思っていたより順位が良く、そこから自信が持てて試合を楽しめるようになりました」

 

 それが今大会での「常に楽しむことを心掛けていた。リラックスして臨めました」というマインドセットに繋がった。決勝大会出場者の中で一番、この場を楽しんでいるようにも映った。惜しくも敗れた成田は「負けはしましたが楽しめた」と語った。2人の笑顔で戦っているのが印象的だった。試合後、山中が成田に何か語り掛けていた。試合後のインタビューで山中は「この大会で仲良くなったので、『楽しかったね』と話しました」と明かした。

 

 熱戦続きの第4回大会は幕を閉じた。継続は力なり――。2023年度大会の開催はまだ決定していないが、BS11の小林プロデューサーは今後に向け、こう意気込んだ。

「今大会は予選をオンラインでの実施となりましたが、やはり、学生たちの熱を伝えるべくオフラインでの実施をしたいです。また今後eスポーツの世界大会も開催されていくので、世界で活躍する学生たちのきっかけになれるような大会にしていきたいと考えています」 

 

(写真:照明の雰囲気も手伝って独特の緊張感が特設ステージを包む)

 eスポーツプレーヤーの登竜門的な位置付けにある『BS11CUP』だが、過去4大会を取材して感じることがある。決勝大会の取材を終え、会場を出る際、いつも談笑しながら帰路に向かう選手たちを目にする。それは部活帰りの学生を見るような、和気あいあいとした雰囲気。互いの技術を競い合い、高め合う大会でありながら、優勝した山中が「この大会で仲良くなった」と言っていたように友情を育む社交場ともなっている。これもまたスポーツの魅力のひとつである。

 

BS11では引き続き、学生eスポーツや学生柔道を放送予定です。今後の放送もぜひお楽しみに!

 

 (取材・文・写真/杉浦泰介)


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