20日の信濃グランセローズ戦に6−3で勝利し、約1カ月ぶりに首位を奪還することができました。その最大の理由は、投打がうまくかみ合い始めたことにあります。まだ小さいミスはあるものの、「勝とう」という気持ちがパフォーマンスにも表れてきました。
 キャンプ時から金森栄治監督が口を酸っぱくして言ってきたのが「基本をしっかり身に付けられれば、自ずと結果につながる」ということでした。それがようやく投打の両面で出てきたのだと思います。

 チーム打撃成績が3位にもかかわらず、チーム投手成績はダントツの1位という数字にも表れているように、開幕からずっと首位争いを続けてこられたのは、投手陣の踏ん張りが大きかったことがあります。
 特に今や不動のエースである蛇澤敦(NOMOベースボールクラブ出身)の活躍は目を見張るものがあります。

 課題だらけだったエース

 彼は地元枠で入団した選手の一人(福井県出身だが、石川県に本籍地が置かれているため)。年齢的にも投手陣の中では都卓磨(茨城ゴールデンゴールズ出身)と並んで一番年上ということもあって、キャンプの時から彼がエースとして引っ張ってくれればチームも乗っていけるかな、と期待をしていました。本人にも「この1年は、お前をエースとして立てるつもりだから、そのつもりで頑張ってほしい」という話をしていたのです。

 でも、最初から今のようなピッチングができていたわけではありません。彼のピッチングを初めて見たときには、単に力まかに投げているだけ、という印象でした。「故障が多い選手」ということも聞いていましたし、シーズンを通してやっていけるかな、という不安はありましたね。

 ボール自体にも課題がありました。蛇澤の持ち球はストレート、スライダー、シンカーの3種類。このうちシンカーは自信をもっていたものの、ストレートとスライダーは修正が必要でした。ストレートはシュート回転してしまうため、右打者に対してインコースは突けるものの、アウトコースを狙おうとすると甘く入ってしまったり、左打者にはいいように打たれてしまっていたのです。さらに、スライダーは思うように曲がらず、彼にとっては最も自信のないボールでした。

 そこでまずはキャンプ中、スライダーの投げ方を完全にマスターするよう、しっかりと練習させました。スライダーを自分のものにしたことでピッチングの幅がグンと広がったのです。オープン戦で実戦経験を積んだことによって、さらに自信になったと思います。
 ストレートは開幕してからも、まだシュート回転するクセがなおらず、左打者には打たれていました。自分でプレートを踏みかえてみたりして試行錯誤していましたが、今ではかなり修正できていますね。下半身をしっかりと使ったいいフォームで投げられるようになり、球離れがよくなったおかげでしょう。

 このようにしてストレート、スライダーを克服したことによって、得意のシンカーがさらに生かされるようになっています。スピードは130キロ前半と決して速くはありません。それでも、これだけの成績をあげられているというのは、全球種に自信をつけたことで、打者に的を絞り切らせない投球の幅が効いているのでしょう。

 NPB昇格の可能性

 ここまで順風満帆にきているように見える蛇澤ですが、6月はあまり調子がよくありませんでした。6月17日の信濃戦では今季初の黒星を喫しました。その次の試合(23日、新潟アルビレックスBC戦)では3回に4点を奪われて無念の降板。その後、チームが逆転して敗戦投手にこそなりませんでしたが、ショックが大きかったのでしょう。ちょっとふて腐れた態度を見せるようになったのです。でも、それではエースは務まりませんので、その時ばかりは厳しく注意しました。
 今現在も決して絶好調ではありません。しかし、だからこそ気持ちが引き締められているのでしょう。7月に入って左打者の多い富山サンダーバーズ打線に2試合連続完投勝ちをおさめるなど、きちんと結果を出すことができています。

 さて、NPB昇格の可能性はというと、正直28歳という年齢を考えれば非常に難しいでしょうね。しかし、ゼロではありませんから、諦める必要は全くありません。年齢を度外視できるような技術や成績があれば、NPB側も「この選手、ちょっと見てみたいな」と思うかもしれません。
 蛇澤はフィールディングや牽制が非常にうまい。これはNPBでも十分に通用します。あとはスピードがない分、数字でアピールしなくてはいけません。ですから、首脳陣の目に留まるようなずば抜けた成績を残してほしい。本人には「20勝を目指せ」と言っています。到達できれば、NPBへの可能性も大きく開かれることでしょう。

 中継ぎで頑張っている山下英(名古屋学院大出身)も安定感が増してきました。以前はストライクをとりにいこうという気持ちが強すぎてフォームが崩れてしまうことが多々ありました。
 練習では体全体を使って思いっきり腕が振れているのに、試合になると丁寧になりすぎて腕が縮こまってしまっていた。いわゆるボールを「置きにいく」ピッチングだったのです。しかし、最近ではそれも修正されてきました。
 彼は貴重なサウスポー。いずれは先発を任せたいと思っていますが、もう少しボールにスピードが欲しいところです。まだ23歳と若いですから、今後の成長が楽しみな投手の一人ですね。

 他の投手もキャンプの頃から比べると、みんな非常にレベルアップしてきています。初めはストライク一つとることさえもままならない投手が多かったので、「とにかく真ん中低目に投げるようにしなさい」と指導していたのです。しかし、ここ最近は各投手にそれぞれ細かい指導を行なえるようになってきました。

 投手だけでなく、選手全員が目を輝かせながら指導を受け、「うまくなるために何かを吸収したい」と一生懸命です。そういう選手たちを指導できるのは、コーチ冥利に尽きます。
 今後、選手たちはどんどん上達していくでしょう。彼らの成長をぜひ楽しみにしていてください。
 

長冨浩志(ながどみ・ひろし)プロフィール>:石川ミリオンスターズコーチ
1961年6月10日、千葉県出身。千葉日本大学第一高卒業後、国士舘大、NTT関東を経て86年、ドラフト1位で広島に入団。1年目から2ケタ勝利をあげてリーグ優勝に貢献し、新人王に輝いた。MAX150キロのストレートを武器とする本格派右腕として、その後も広島の投手陣の要として活躍。95年に日本ハムにトレード移籍し、技巧派リリーフ投手に転じた。98年にダイエー(現ソフトバンク)に移籍し、2連覇に貢献。02年に現役引退。ダイエー、ソフトバンクコーチを経て、今年から石川ミリオンスターズのコーチに就任した。







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 今回は富山・宮地克彦プレーイングコーチのコラムです。「NPBへの可能性を秘めた小園」。ぜひ携帯サイトもあわせてお楽しみください。
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